この見合いなんとしてでも阻止します

第50話

　約束の時間より10分早くお店に着いた。

　璦の姿はまだなかった。

「ふぅ、」

　私は少し緊張しながらも、心を落ち着けようと深呼吸をした。 

　あの子が約束より早く来ることなんてありえないし、来るかどうかも分からない。

　昔から、あの子は約束の時間を守らない子だった。

　主役はあとから来るものなのよ。
　なんて言って、一時間遅刻することだってザラにあった。

　今回は…

「それで、話って何よ」

　15分の遅刻か。
　まぁ、いつもよりは早いし、許してあげるか。

「その前に食事から。ここの料理美味しいのよ」

　私は冷静に答えた。

「料理？私は話だけ聞いたら出ていくからコーヒーだけでいいわよ」

　璦は不機嫌そうに言った。

　私なんかと食事もしたくない、か。

「あら、私はあなたを夕食に誘ったのよ？それなのにコーヒーだけって」

　私は微笑みながら返した。

「私はあんたとご飯が食べたくてここに来たわけじゃない。話が聞きたくてここに来たの。勘違いしないで」

　その態度に、私は内心ため息をついた。

「勘違いしてるのはあなたの方じゃない？」

　私は挑戦的な目で彼女を見つめた。

「何？」

　璦は驚いたように問いかけた。

「私はあなたと食事がしたくて呼んだの。話はあくまでついでよ」

　私は毅然とした態度で答えた。

「あんたねぇ…！」

　璦は怒りを露わにした。

　その反応に、私は少しだけ満足感を覚えた。

「声が大きい。心配しなくても私が奢るわ。なんでも頼んで」

　お姉ちゃんのフリをできるのは、今日で最後になるだろうから。

「そういう問題じゃない。朝から何なの？」

　璦は苛立ちを隠せない様子だった。

「何って？」

　私は無表情で返した。

　私の態度が気に入らないことは、ちゃんと分かってた。

　わかった上でわざとそうしてたんだから。

「その態度よ」

　璦は怒りを込めて言った。

「私の態度がなに？」

「いつもは私の顔色を見るくせに」

　璦の言葉に、私は少しだけ心が揺れたが、表情には出さなかった。

「私が？気のせいじゃない？」

　璦をできるだけ怒らせないように、顔色を伺っていたのは事実だ。

　だけど、認めるわけにはいかないから。

「そんなわけないでしょ！？」

　璦は声を荒げた。

　こんなに余裕のない璦を見たのはいつぶりだろうか。

「話が聞きたいならまずは食事から。嫌なら私も話すことはないわ」

　彼女に主導権を握らせたくなかった。

「あんたが話したいことがあるなんて言うのは珍しいから、気になって来てみたらいい気になって！ふざけるのもいい加減にして！」

　璦の怒鳴り声にびっくりして、周りのお客さんがこちらを見つめていた。

　前の私なら、視線を痛いほどに感じて思わず身を縮めていただろう。


　でも、今は違う。