この見合いなんとしてでも阻止します

hayama_25

文字の大きさ
上 下
48 / 78

第48話

しおりを挟む
 朝、目覚まし時計の音で目が覚めた。

 ベッドから起き上がり、カーテンを開けて朝の光を部屋に取り込んだ。

 今日も一日が始まる。

 いや。
 今日は、普段とは少しだけ違うかもしれない。

 昨日の出来事が頭をよぎり、少しだけ胸が痛んだが、深呼吸して気持ちを切り替えた。

 洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見つめる。

 少し疲れた表情が浮かんでいた。

 だけど、気にしないことにした。

 今日は大事な日だ。
 気を引き締めなければ。

 朝食を簡単に済ませ、スーツに着替えて会社に行く準備を整えた。

 玄関に向かい歩いているその時だった。

「あ、無事だったんだ」

 璦の声に、一瞬立ち止まった。

 彼女の言葉には皮肉が混じっているように感じた。

 まぁ、いつもの事だけど。

 よく話しかけられるわね。

 そう思ったけど、冷静に返すことにした。

「私は、あなたが思ってるよりずっとしぶといわよ」

 毅然とした態度で答えた。
 璦のペースに飲まれないように。

「それは残念」

 璦は肩をすくめて言った。

 その態度に、少し苛立ちを覚えた。

 謝る気はないみたい。
 まぁ、分かってたことだけど。

 むしろその方が良かったのかも。

「ねぇ」

 ここで引き下がるわけにはいかない。

「なに」

 璦は興味なさそうに返事をした。

「今日の夜、空いてる?」

 璦がどう反応するか分からなかった。

「…どうしてそんなこと聞くの」

 璦は怪訝そうな顔をした。

 食事に誘ったりなんかしたら、一体どんな顔をするんだろうだろうか。

「ご飯でもと思って」

 私はできるだけ自然に答えた。

 断られても、そうでなくても、どっちでもいいかのように。

「珍しいじゃない私を夕食に誘うなんて」

 璦は少し驚いたようだった。

「話があって」

 私は真剣な表情で言った。
 彼女に伝えたいことがあった。

 外なら安全だと思ったから。

「話?昨日のことならあや」

 璦が何か言おうとしたが、それを遮った。
 言わなくてもわかる。

 昨日のことを謝るつもりはないってことぐらい。

「それはもうどうでもいいから」

 昨日のことはもう過去のことだ。

 私は未来の話がしたい。

「じゃあなんの、」

「気になるなら来ることね。場所は後で送るわ」

 彼女に主導権を握らせたくなかった。

「え、ちょっ、」

「これから仕事だからまた後で」

 由莉はきっぱりと言い放ち、その場を去ろうとした。

「人の話は最後まで聞きなさいよ!」



 璦の声が背後から聞こえたが、私は振り返らなかった。



 これでいい。



 自分の話したいことだけ話して、あとは相手の話なんて聞かない。


 璦がずっと私にしてきたこと。



 同じことをされてどう思っただろうか。



 どうするだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...