この見合いなんとしてでも阻止します

hayama_25

文字の大きさ
上 下
47 / 78

第47話

しおりを挟む
「じゃあ行くか」

 蓮が優しく声をかけてくれた。

「うん」

 私は頷き、蓮と一緒に歩き出した。

 夜の街は静かで、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばしていた。

「今日は色々大変だったな」
「そうだね、」

 蓮は私の顔をじっと見つめ、何か言いたげだったが、結局何も言わずに前を向いた。

 蓮が何を考えているのか分からなかった。

「蓮」

 私は彼の横顔を見上げた。

「ん?」

 蓮は少し驚いたように私を見返した。

「なにか考え事してる?」

「…いや、まぁ、」

 蓮は視線を逸らし、言葉を濁した。
 その様子に、私はますます気になった。

「何?」

 私は一歩踏み込んで尋ねた。
 本音を聞きたかった。

「悔しいなぁって…」

 蓮はため息をつきながら、ようやく口を開いた。

「悔しい?」

「最初に由莉を助けたのが俺じゃなくて…、」

 蓮の言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 彼がそんな風に思っていたなんて、全く気づかなかった。

「蓮…」

 蓮の目には、深い悔しさと自分への苛立ちが浮かんでいた。

「俺がもっと早くあそこにいれば、由莉をあんな目に遭わせなかったかもしれないって。俺はいつも…」

 蓮が責任を感じることなんて何一つないのに。

「そんなことないよ。蓮が助けに来てくれて嬉しかった」

 私の気持ちが少しでも蓮に届けばいのに。

「ありがとう、由莉」

 蓮の表情が変わることはなかった。

 私はなんて声をかけたらいいのか分からず、静かに歩き続けた。

 歩きながら、私は今日の出来事を思い返していた。

 璦がどうしてここまでするのか理解できなかった。

 すべてが混ざり合って、心の中で渦を巻いていた。

 家に着くと、私は蓮に向き直った。

「送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」

 蓮は少し心配そうに私を見つめた。

「うん。何かあったらすぐに連絡して」

「ありがとう」

「それじゃあ、また明日」

 蓮は優しく微笑み、手を振って帰っていった。

 家に入ると、一人になった静けさが急に押し寄せてきた。

「ただいま」

 小さく呟く。

 自分の声が虚しく響くのを感じた。

 もちろん返事が返ってくることもなく、リビングを通り過ぎて自分の部屋へと向かった。

 部屋のドアを開けると、いつもの見慣れた光景が広がっていた。

 ベッド、机、本棚…すべてが変わらないままそこにある。

 でも、私の心は大きく揺れ動いていた。

 ベッドに腰を下ろし、深く息をつく。

 今日の出来事を思い返し、恐怖と安心が入り混じり、感情が溢れ出した。

 どうしてだか分からない。
 涙が止まらなかった。

 蓮と社長が助けに来てくれて、田中さんもちゃんと謝ってくれた。

 それでも心の中にはまだ不安が残っていた。

 まだ大事なことが解決していないから。

 涙を拭い、私は決意を新たにした。



 もう、終わりにする。

 分かって貰えないかもしれない。

 だけど、最後に私の気持ちをちゃんと伝えたい。

 これ以上私だけが我慢するのはおかしい。
 耐える必要なんてないんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

処理中です...