この見合いなんとしてでも阻止します

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第47話

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「じゃあ行くか」

 蓮が優しく声をかけてくれた。

「うん」

 私は頷き、蓮と一緒に歩き出した。

 夜の街は静かで、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばしていた。

「今日は色々大変だったな」
「そうだね、」

 蓮は私の顔をじっと見つめ、何か言いたげだったが、結局何も言わずに前を向いた。

 蓮が何を考えているのか分からなかった。

「蓮」

 私は彼の横顔を見上げた。

「ん?」

 蓮は少し驚いたように私を見返した。

「なにか考え事してる?」

「…いや、まぁ、」

 蓮は視線を逸らし、言葉を濁した。
 その様子に、私はますます気になった。

「何?」

 私は一歩踏み込んで尋ねた。
 本音を聞きたかった。

「悔しいなぁって…」

 蓮はため息をつきながら、ようやく口を開いた。

「悔しい?」

「最初に由莉を助けたのが俺じゃなくて…、」

 蓮の言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 彼がそんな風に思っていたなんて、全く気づかなかった。

「蓮…」

 蓮の目には、深い悔しさと自分への苛立ちが浮かんでいた。

「俺がもっと早くあそこにいれば、由莉をあんな目に遭わせなかったかもしれないって。俺はいつも…」

 蓮が責任を感じることなんて何一つないのに。

「そんなことないよ。蓮が助けに来てくれて嬉しかった」

 私の気持ちが少しでも蓮に届けばいのに。

「ありがとう、由莉」

 蓮の表情が変わることはなかった。

 私はなんて声をかけたらいいのか分からず、静かに歩き続けた。

 歩きながら、私は今日の出来事を思い返していた。

 璦がどうしてここまでするのか理解できなかった。

 すべてが混ざり合って、心の中で渦を巻いていた。

 家に着くと、私は蓮に向き直った。

「送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」

 蓮は少し心配そうに私を見つめた。

「うん。何かあったらすぐに連絡して」

「ありがとう」

「それじゃあ、また明日」

 蓮は優しく微笑み、手を振って帰っていった。

 家に入ると、一人になった静けさが急に押し寄せてきた。

「ただいま」

 小さく呟く。

 自分の声が虚しく響くのを感じた。

 もちろん返事が返ってくることもなく、リビングを通り過ぎて自分の部屋へと向かった。

 部屋のドアを開けると、いつもの見慣れた光景が広がっていた。

 ベッド、机、本棚…すべてが変わらないままそこにある。

 でも、私の心は大きく揺れ動いていた。

 ベッドに腰を下ろし、深く息をつく。

 今日の出来事を思い返し、恐怖と安心が入り混じり、感情が溢れ出した。

 どうしてだか分からない。
 涙が止まらなかった。

 蓮と社長が助けに来てくれて、田中さんもちゃんと謝ってくれた。

 それでも心の中にはまだ不安が残っていた。

 まだ大事なことが解決していないから。

 涙を拭い、私は決意を新たにした。



 もう、終わりにする。

 分かって貰えないかもしれない。

 だけど、最後に私の気持ちをちゃんと伝えたい。

 これ以上私だけが我慢するのはおかしい。
 耐える必要なんてないんだから。
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