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第44話

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「あいつ…。また由莉のこと傷つけて」

  
 蓮の怒りが再び高まるのを感じた。
 声が震えていた。

 蓮がこんなに怒ってるところ久しぶりに見た。
 あの日以来だった。

「蓮、璦とは私がちゃんと話するから」

 璦に私の気持ちを分かってもらうことが、どれだけ難しいかは分かっていた。

 璦はいつも自分の考えを押し通して、自分が全て正しいと思っていた。そして、私の言葉に耳を傾けることは全くなかった。

 でも、だからといって諦めるわけにはいかない。

「今まで由莉の言うことを、一度でも聞いた事があったか?」

「それは…ない、けど、」

 蓮の目が鋭く光った。

「俺が璦と話すから。由莉は何も心配しなくていい」

 確かに、蓮に任せれば、璦も言うことを聞いてくれるかもしれない。

 だけど、璦の本心じゃないと意味ない。

 これは私自身が解決しなければならない問題だって分かってた。

 だけど、ずっと目を逸らしてきた。

 これ以上、引き伸ばすわけにはいかない。璦と向き合う時が来たんだ。

 深呼吸してから蓮の目を見つめた。

「蓮の気持ちは嬉しい。でも、これは私が自分で解決しなきゃいけないことだと思う。私がちゃんと伝えなきゃ、何も変わらないから」

 蓮はしばらく黙っていたが、やがてため息をついた。

「…わかった。でも、何かあったらすぐに知らせて。俺がすぐに駆けつけるから」

 私は微笑んで頷いた。

 蓮はまだ不安そうだったけど、私の決意を感じ取って、少しだけ安心したようだった。

「…で、この人どうすんの」

 蓮が指差した方向に目を向けると、田中さんが立っていた。

 そうだ、田中さんのことすっかり忘れてた。

「本当に怖がらせてすまなかった」

 そう言って深く頭を下げた。

 田中さんの謝罪に、私は少し驚いた。

 田中さんの口から謝罪の言葉が出てくるなんて夢にも思わなかったから。

 彼の表情には本当に申し訳なさそうな色が浮かんでいた。

 すごく真剣で、誠意を感じた。
 私はその誠意に心を動かされた。

「もういいですよ」

 そんな田中さんの謝罪を受け入れることにした。

 心の中で、これで少しは私も前に進めるかもしれないと思った。

「おい、こいつのこと許すのかよ」


「許すも何も、今回は田中さんのせいじゃ…」

 蓮の言葉にどう答えるべきか考えた。

 確かに怖かったけど、でも今回は田中さんの責任じゃないと思う。

「理由はどうであれ、由莉を傷つけたのは事実だろ?」


 蓮の気持ちも分かる。
 だけど、私は田中さんの立場も理解していた。

「そうかもしれないけど、田中さんも被害者だから」


 今回責める相手は田中さんじゃない。相手は他にいる。

 私は蓮の目を見つめ、理解してもらおうとした。
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