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第40話

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 社長はそれをかわし、田中の腕を掴んで押さえつけた。

「由莉、逃げろ!」

 社長は私に向かって叫んだ。

 足が震え、思うように動かない。

 それでも、必死に前に進もうとした。

 誰か、助けを呼ばないと、ここに私がいても、何もできない。

 震える足を動かし続けた。

 社長の声が背後で響く中、私は暗い路地を抜け出そうと必死だった。

 震えながらも、その場を離れようとした。

 その時、蓮が駆けつけてきた。

「由莉、どうした…!大丈夫か?!」

 蓮の声を聞いた瞬間、私は涙が溢れそうになった。

「れ、蓮、助けて、」

 声が震え、言葉がうまく出てこない。

 それでも、必死に伝えようとした。

「誰に何された」

 蓮の目は鋭く、状況を把握しようとしていた。

「しゃちょ、社長が、」

 言葉が詰まり、うまく説明できない。

 恐怖と混乱が入り混じり、頭の中は真っ白だった。

「社長…?」

 蓮の顔に驚きが浮かんだ。

「私を守るために一人で、」

 社長が私を守ってくれた。

 社長になにかあったら私…

「ちょっと待ってて」

 蓮は決意を固めたように、社長の元へ向かった。

 数分後、社長と蓮が田中さんを押さえつけていた。

 田中さんは地面に押し倒され、必死にもがいていたが、社長と蓮の力には敵わなかった。

「しゃ、社長、蓮、あの、お怪我は」

 心配で声が震えた。

「余裕余裕」

 蓮は笑顔を見せたが、その目には疲れが見えた。

「警察にも連絡しておいたからもう少しで到着するはずだよ」

 社長の言葉に少し安心した。

「俺はただ由莉とよりを戻そうと、」

 田中さんの言葉に怒りが込み上げた。

 私たちは初めから付き合ってなんかいなかった。

「は?こいつと付き合ってたの?」

 蓮の声が冷たく響いた。

「付き合ってない、田中さんが勝手に、」

 勝手に私と付き合ったって社内に広めて…

「は!?嘘つくなよ!この嘘つき女」

 田中さんの声が耳に刺さった。

「お前うるさい。嘘つきはどっちだよ」

 蓮の声が鋭く響いた。

「今ならまだ許してあげるからさぁ!ねぇ!」

 田中さんの言葉に恐怖が増した。

「っ、」

 声が出ない。恐怖が喉を締め付けていた。

「まじで静かにしろ。由莉が怖がってんだろ。それとも何?一発殴られたいわけ?」

 その言葉に怖気付いたのか、田中さんは静かになった。

「由莉大丈夫か」

 蓮が私の肩に手を乗せようとした。

 蓮だから大丈夫だって分かってるのに、体が反応してしまった。

「ご、ごめん。あれ、おかしいなぁ。勝手に涙が、ごめん」

 涙が止まらない。

 恐怖と安心が入り混じり、感情が溢れ出した。

 蓮は黙って抱きしめ、安心させようとした。

「蓮…」

 彼の温もりに包まれ、少しずつ心が落ち着いていった。

 私は涙を流しながら、蓮の胸に顔を埋めた。


 彼の心臓の鼓動が聞こえ、安心感が広がった。
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