この見合いなんとしてでも阻止します

第39話

　その夜、仕事を終えて家に帰る途中だった。

　はぁ、悪夢を見たせいで今日も寝不足だな…。
　今日こそはゆっくり寝られたらいいけど、

　街灯の少ない暗い路地に差し掛かった時、背後から足音が聞こえた。

　さっきから誰かにつけられているような…

「誰…？」

　振り返ったけど、誰もいない。

　気のせいか。

　悪夢のせいできっと敏感になってるんだな。

　そう思い再び歩き始めた。

　私の気のせいであって欲しかったのに。


　突然、背後から強い力で腕を掴まれた。

「きゃっ！」

　暗闇で顔が見えない。

　最近よくうろうろしてる不審者ってこの人じゃ、

　恐怖と混乱が入り混じり、頭の中は真っ白だった。

「久しぶりだね由莉」

　その声に聞き覚えがあった。

　田中さんだった。

「た、田中さん…？」

　どうして、もしかしてこれは夢？

　掴まれた腕を振り払おうとしたけど、ビクともしなかった。

　間違いなく現実だった。

　それなら叫んで助けを求めるしか、

「誰か…！」

　助けてください！

　そう叫ぼうとしたのに、口を塞がれてしまった。

「静かにしろ、由莉。痛い目にあいたくはないだろ？」

　低い声が耳元で囁いた。

「田中さん、やめて、どうしてこんなことするの、」

　田中さんは答えなかった。

　私は必死に抵抗したけど、彼の力は強かった。

　田中さんの冷たい手が腕に食い込む感触が痛みとなって伝わってくる。

　彼は私を無理やり引っ張り、暗い路地の奥へと連れ込もうとした。

「助けて！」

　私は必死に叫んだ。だけど、田中さんはさらに強く口を塞いだ。

　どうして…どうしてこんなことに…

　田中の力は強く、抵抗するたびにその力が増していくように感じた。

「誰も来ないさ、由莉。ずっと会いたかったよ…。お前は俺のものだ」

　彼の低い声が耳元で囁かれるたびに、全身が凍りつくような感覚に襲われた。

　好きだからってしていい事と駄目なことがあるのに。こんなことをするなんて、

　叫びたい、助けを求めたい、でも声が出ない。

　恐怖が喉を締め付け、言葉を奪っていた。

　もう全て諦めてしまおうか。

　そう思ったその時、遠くから車のエンジン音が聞こえた。

　車のヘッドライトが路地を照らし、彼の顔が一瞬明るくなった。

「何をしているんだ！」

　車から降りてきたのは社長だった。

「社長…」

　社長の声が響いた瞬間、私は涙が溢れそうになった。

　彼はすぐに状況を把握し、田中さんに向かって駆け寄った。

「由莉を離せ！」

　社長は田中さんに向かって叫び、彼を引き離そうとした。

　田中さんは驚いて一瞬手を緩めたが、すぐに反撃に出た。


「邪魔をするな！」

　田中さんは社長に向かって拳を振り上げた。