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第38話

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「っ、はっ、」

 私は息を切らしながら目を覚ました。

 やっぱり夢だった…

 冷や汗が額に滲んでいる。

 もう、忘れたと思ってたのに。
 やっぱり、あの時のことが頭にこびりついてる。

「お水でも飲むか、」

 私は自分に言い聞かせるように呟き、ベッドから起き上がった。

 リビングに行くと明かりがついていて、璦がソファに座っていた。

「あ、由莉。まだ起きてたの?」

 璦が私に気づいて声をかける。

「別に、お水飲みに来ただけ」

 私は冷蔵庫から水を取り出しながら答える。

「へー。あ、悪夢見たとか」

 璦の言葉に私の手が止まった。

 なんで璦がそんなことを知ってるの?

「別に」

 私は冷静を装って答える。

「ふーん」

 璦が興味なさそうに返事をする。

 どうしてだろう。

 全てを見透かされているような気がするのは。

「あんたも早く寝なよ」

 私は璦に向かって言う。

「何、心配してくれてるの?」

 璦がニヤリと笑う。

「そんなんじゃない」

 私は顔を背ける。

 声をかけた私が馬鹿だった。

「自分のこと心配しなよ」

 璦が意味深な言葉を投げかける。

「え?」

 私は驚いて璦を見る。

 それってどういう、

「なんでもなーい」

 璦が笑いながら言う。

 私は水を一口飲み、深呼吸をする。

 心の中の不安が消えない。

 その時、玄関の方から物音が聞こえた。

 私は一瞬、心臓が止まりそうになる。

「何の音?」

「さあね、見に行ってみたら?」

 璦が挑発するように言う。

 別に独り言だし。

 なんて思いながら恐る恐る玄関に向かった。

 ドアの向こうから微かな音が聞こえる。

 誰かがいるのかもしれない。

 もしかして、不審者…

「そこに誰かいるんですか、?」

 私は震える声で問いかける。

 ドアを開けると、そこには誰もいなかった。

 ただ、風が吹き込んできただけだった。

「なんだ、風か…」

 私はほっと胸を撫で下ろす。

 だけど、その瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた。

 私は驚いて振り返ると、そこには…。

「璦、何してるの?」

 私は驚きと恐怖で声を震わせる。

「あ、驚かせちゃった?」

 璦が笑いながら手を引っ込める。

 わざと私の恐怖心を煽るようなこと、

「あんた…」

 私は心臓がまだドキドキしているのを感じながら言う。

「ごめんごめん、ちょっとした冗談だよ」

 璦が軽く肩をすくめる。

 冗談にしたらタチが悪すぎるでしょ、。

 なんて言ったところで、元々璦はこんな子か。

 私はため息をつく。

「早く寝た方がいいよ」
「そんなこと言われなくたって分かってる」



「おやすみ~。次は本物だったりして、なんてね」



 私はその言葉を無視して自分の部屋に戻った。
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