この見合いなんとしてでも阻止します

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第36話

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「顔色悪いけど大丈夫か?」

 蓮が心配そうに私の顔を覗き込む。

「あ、うん。怖い夢見て、」

 私は目をそらしながら答える。
 悪夢がまだ頭にこびりついている。

「は?また?」

 蓮の声が少し驚いたように響く。

「うん、」

 私は小さくうなずく。 

 最近、毎晩のように悪夢にうなされている。

 それも、毎日同じ夢。

「ここ最近ずっと悪夢見てるだろ」

 蓮が眉をひそめる。

「そうなんだよね」

 私はため息をつく。
 心の中の不安が消えない。

「寺とか行った方がいいんじゃねぇの?」

 蓮が心配そうに言う。

 幽霊の仕業とでも思ってるんだろう。
 そういうんじゃないのに。

 ただ、あの日のことがトラウマになってるだけなのに。

「もう少し様子みて見る、」

 警察官が家に来て二週間がたった。

 "まだ"何も起きてない。

 でも、いつ何が起きるか分からない。
 私の勘違いであって欲しいけど…。

「今日、何も無かったら帰りに飯でもどう?」

「ごめん、今日は用事があって」

 私は申し訳なさそうに断る。

 本当は用事なんてないけど。

「そっか」

 蓮の声が少し寂しそうに聞こえる。

 あれから蓮とは少し距離を置いている。

 蓮の気持ちを知ってるのに知らないふりは、これ以上出来ないから。

 会社からの帰り道、私はいつもより早歩きで家に向かって歩いていた。

 心の中には不安が渦巻いている。

 いつどこで襲われるか分からない。
 毎日恐怖に怯えながら過ごしてる。

 家に着くと、玄関で璦とばったり会ってしまった。

「璦…」

 私は驚いて立ち止まる。

「最近早く帰ってくるんだね」 

 常に監視されてるんだ。
 どこで何をしようと、もうほっといて欲しい。

「璦には関係ないでしょ」

 疲れてるから休みたいのに、玄関からどこうとしない。

「蓮くんと喧嘩でもした?」

 璦が嬉しそうに尋ねてきた。

「別にそんなんじゃない」 

 璦の頭の中には蓮しかいないのか。

「あ、分かった。変な人が家の近くでウロウロしてるからだ」

「そんなんじゃ」

 私は言葉を濁す。

「何かされないように気をつけてねぇ」

 璦が不気味な笑みを浮かべる。
 不吉な予感がした。

 気をつけないといけないのはあんたも同じでしょ…。

 その夜、非通知から電話がかかってきた。

 いつもなら知らない電話番号は、取らないようにしてるのに…

 あまりにしつこくかかってくるから、知り合いかと思って電話を取ってしまった。

「…もしもし、」

 私は緊張しながら応答する。

「由莉」

 電話の向こうから聞こえてきた声があまりにも聞き覚えのある声だった。

 私はすぐに電話を切った。

 心臓がドキドキして痛い。



 忘れたくても忘れることの出来ない、あの日のことを鮮明に思い出してしまった。
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