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第22話
しおりを挟む「由莉、今日は何してる?」
「家でのんびりしてるよ。蓮は?」
日曜日に蓮が電話をかけて来るなんて。
「俺も特に予定はないけど、もしよかったら一緒に夕食でもどう?」
蓮の誘いに、少し迷ったが、結局了承することにした。
断る理由もないし、一人でいるよりいい。
「うん、いいよ。どこに行く?」
「じゃあ、駅前で待ち合わせしよう。そこで決めよう」
「わかった。じゃあ、後でね」
電話を切った後、私は急いで準備を始めた。
駅前で蓮を待っていると、ふと視線を感じた。振り返ると、少し離れた場所に社長が立っていた。
彼は驚いた表情でこちらを見つめている。
「社長…?」
声をかけようとした瞬間、蓮が現れた。
「由莉、お待たせ!」
蓮が私の手を取って笑顔を見せる。
その瞬間、社長の表情が曇ったのが見えた。
「あ、蓮」
どうしてそんな顔…
もしかして、勘違いされただろうか。
「どうしたの、?」
蓮の声に我に返り、私は笑顔を作った。
「あ、ううん、何でもない」
私は再び社長の方を見た。
まだこちらを見ていたが、何も言わずにそのまま歩き去ってしまった。
どうしてこんなに心が揺れるんだろう…
「…」
「由莉?」
「えっと、行こっか、」
蓮と一緒に駅前の洋食店に入った。
店内は落ち着いた雰囲気で、窓際の席に座ると、外の景色がよく見えた。
「ここ、いい感じだね」
と蓮が微笑んだ。
「うん、そうだね」
笑顔で答えたものの、
心の中は社長のことでいっぱいだった。
メニューを見ながらも、社長の驚いた表情が頭から離れない。
どうしてあんな顔をしていたのだろう。
何か誤解されたのだろうか。
いやいや、勘違いされたところで、別に私には関係ない。
「由莉、さっきから様子がおかしいけど」
蓮が心配そうに尋ねてきた。
「え?あ、いや、何でもない」
慌てて笑顔を作った。
「考え事してるように見えるけど、悩みでもあるの?」
「ちょっと疲れちゃって、」
"社長のことが好きすぎて、どうすればいいか分からないの。"
なんて言ったら…蓮はなんて言うかな。
「あ、ごめん。家で休んでた方が良かった?」
そういう事じゃ、
「違う…!えっと、家にいる方が窮屈だから誘ってくれて嬉しい」
「そっか、なら良かった」
注文を終え、料理が運ばれてくるまでの間、蓮は仕事の話や最近の出来事について話してくれた。
でも、私は上の空だった。
「由莉、やっぱり何かあったんじゃない?」
だめだ、蓮に心配かけてる。
もう。考えないようにしてたのに、気づいたら社長のことばっか。
「ごめんね、蓮、」
なんて言えばいいのか、言葉が詰まった。
その時、スマホが鳴った。画面を見ると、璦からのメッセージだった。
"あんた蓮と付き合ってんの?"
「っ…、」
どうして、蓮と一緒にいるって知ってるの?
見られてる?
店内を見回したが、璦の姿はなかった。
「誰から」
「えっと…会社の人から」
きっと、蓮には言わない方がいい。
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