この見合いなんとしてでも阻止します

hayama_25

文字の大きさ
上 下
13 / 78

第13話

しおりを挟む

「あんたなんかが幸せになるなんて許さない。あなたがどう足掻こうが、私には勝てないのよ。諦め『まだ諦めない...!』ちょっと!」

 私は璦の言葉を最後まで聞かずに走り出した。

 暗所恐怖症なのに自分から暗闇の中に入るなんて、馬鹿なことしてるって分かってる。

 だけど、あれだけはどうしても失いたくなかった。

 婚約破棄されても、あれさえあれば私は大丈夫。
 思い出だけは消えないから。

 いいのか悪いのかお客さんは全然いなくて、並ばずに入ることが出来た。

「不気味…」

 人気がない理由が分かった。

 薄暗いだけでなんの迫力もない。変な人形が置かれてるだけで今のところ脅かす人も出て来ない。

 他のお化け屋敷もこんなものなのかな。初めてだからよく分からない。脅かす人がいてくれたら、少しは気を紛らわすことが出来るのに。

 やっぱり暗い所はどう頑張っても克服できそうにない。

 早いとこ見つけてここから出ないと。

「どこにあるのっ、」

 いくら探してもキーホルダーは見つからないし、ゴールにすらたどり着けない気がする。

「はっ、っ、」

 まだ駄目。

 まだ見つけてないのに、ここで発作なんて起きられても困る。

 心では分かっているのに、体が言うことを聞いてくれない。

「っ....はっ、..は、」

 周りに人がいる気配もないし、かといって大声で助けを呼べるほどの力も残ってない。

 もうダメだ。

 誰にも見つけてもらえないまま死んじゃうのかな、、

「由莉…!」


 幻か…

「颯太さん..?」
「璦、大丈夫!?」

 いや、これは幻なんかじゃない。

「どうしてここにっ、」

「それはこっちのセリフだよ」
「私は別に...」

 言い訳が思いつかない。

「暗所恐怖症の璦が、なんの理由もなくここに来るわけないでしょ」

「...」

 私のために、せっか買ってくれたのに。
 無くしたなんて言ったら悲しむに決まってる。

「理由が言えないなら無理に聞かないから、とにかくここから出よう」

「足が動かない、」
 どうして、足に力が入らない。

「じゃあ、落ちないようにしっかり掴んでてね」

 そう言うと私の事を持ち上げて、

「きゃー!」
 お化けの恐怖や暗さ恐怖は感じなくなったけど、また別の恐怖に襲われることとなった。

 だけど、社長のおかげで無事に外に出られた。

「…落ち着いた?」
「うん、」
「良かった」

「…ごめんなさい」

「確かに心配したけど、璦が無事ならそれでいいよ」

「違うの。いや、それもあるんだけど、その事じゃなくて...」

「ん?」
「実は…」

 私は、何をしているんだろう。

 結局見つけられなかったし、 社長にも迷惑かけた。

 離れないでって言われたばっかりなのに。

「璦?どうして泣くの?俺、怒ってないよ?それともどこか怪我した?どこか痛い?」

 まさか私が泣くとは思ってなかったのか、すごく焦ってる。

 また困らせちゃったな。

 私も泣くつもりなんてなかったんだけど、社長が私のためにキーホルダーを買ってくれたところを想像したら勝手に涙が出てきた。

「違うっ、社長がくれたキーホルダー色々あって
 お化け屋敷に入っちゃって... 探したんだけど見つからなくて、無くしちゃったのっ」

 怒る?それともガッカリする?それとも…

「なんだ、そんなことか、」

「そんなことって、せっか、く、買ってくれたのに、」
「そんなのまた買えばいいんだよ」

「怒ってないの...?」
 怒ってなくても気分は良くないよね、

「怒ってないよ。キーホルダーのために、暗所恐怖症なのにお化け屋敷にまで行って探してくれたんだから。そんなに大事に思ってくれてたなんて、むしろ嬉しいくらいだよ」

「でも…」

結局見つからなかったのに、



「ひとつだけ約束して。これからは無茶をしない。何かあったら遠慮せず、すぐに俺を頼ること。分かった?」

いつかは、社長を頼れない日が来る。

「…」

「返事は?」
「分かった」

 ごめんなさい。その約束は守れそうにない。


「よし。じゃあ泣き止んで、キーホルダー買いに行こ?」
「うん、」

 その後なかなか泣き止まない私にあれやこれやと手を尽くしてくれた。


「そろそろ帰ろっか」
「そうだね、」

 もうこんな時間か..あっという間だったな。

 いつもより早く感じる。

「寂しいの?」

「別に…」

「璦が来たいと思った時は、またいつでも俺が連れてきてあげるよ」



 "また" ...か。次

   まだ、次があればいいな、


 なんて。叶うわけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

処理中です...