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第12話
しおりを挟む「もうジェットコースターには乗らない方がいいね」
「え、でも、楽しくないんじゃ…」
私が乗れないばっかりに、社長に気を使わせてしまった。
「璦と一緒なら何をしてても楽しいよ」
「…」
すぐそんなことを言うんだから。
「ほんとなのに、」
「わ、分かったわよ」
「ああ、それから。はいこれ」
そう言って渡されたのは、小さな花柄の紙袋。
「何これ」
「開けてみて」
そう言われ、中身を見てみると
「これって…」
さっき私が見てたキーホルダーだ...!
欲しいなんて言ってないのにどうして気づいたんだろう、
「さっき見てたでしょ?だから買ってきちゃった。俺と色違いだよ」
社長が青で、私がピンク。
お揃いのものなんて恥ずかしいって言って、つけてくれなさそうなのに。
「しょ、しょうがないから貰ってあげる」
素直にありがとうって言いたいけど、今更このキャラはやめられない。
「メリーゴーランドでも乗りに行く?」
「うん、」
メリーゴーランドぐらいなら...
えっ、待ってあれって璦...?
「璦?どうしたの?まだしんどい?」
「違う、」
「しんどかったらいつでも言うんだよ。なるべく気にかけるようにはするけど、」
「ええ、」
どうしよう、璦に見つかったら、社長に私の正体がバレちゃう
「え…?」
やば、目が合った。
私は由莉じゃない、由莉じゃない...
「璦…?」
「ご、ごめん、考え事してた」
ここで見つかる訳には行かない。
「顔色悪いけど...」
「大丈夫よ、」
ちょっと待って。なんか近づいて来てる…?
「ほんとに?疲れたなら家に帰『ちょっとトイレ!』え、璦!?」
私が離れた隙に、璦が社長に秘密をバラしてしまうかもしれないって分かってた。
だけど、どうしてだか、いてもたってもいられなくなった。足が勝手に動いてて、気づいたら走っていた。璦から逃げていた。
ここまで来れば見つからないだろう。そう思ったのに、
「見つけた~」
「璦、」
どうしてだか、逃げてもいつも見つかってしまう。
「あの人が颯太社長?」
「…だったら何」
この様子じゃ、まだ社長とは話をしていないみたい。
「私の婚約者になるはずだった人でしょ?」
なんで笑ってるの。何がおかしいの。
「あなたには彼氏がいるじゃない」
「だから?そろそろ飽きてきたところだし、颯太社長に乗り変わろうかな....なんて」
「あなたなんかが、馴れ馴れしく社長の名前を呼ばないで」
分かってた。
蓮と付き合うことが出来ないなら、せめて私の邪魔をしようと必死になってること。
「予想以上にイケメンだし?写真見せてくれたらすぐに乗り換えたのに、お父様ったら....とりあえず颯太社長に私が本物の璦だって話してくるね~」
「やめてよ!」
「触らないで!」
私の正体がバレて嫌われても別に構わない。だけど、璦と社長が結ばれるのだけは、それだけは絶対に嫌だ。
「それだけは絶対に...」
「...ところで、カバンにつけているのは何?」
見られた。正直に言うわけない。
取られてどこかに捨てられるのがオチだ。
「別になんでもいいでしょ」
「へぇ…そういうこと。そのストラップこの遊園地で一番人気なんだよ。知ってた?」
「なんでそんなこと、」
なんで璦がそんなこと知ってる訳?
「だって子供の頃から良くお父様に連れてきて貰ったから」
「…」
お父様は昔から妹ばかり可愛がった。
璦は甘え上手なのに比べて、私は自分の意見をしっかり言う子だったから。
言う通りにしない私を好まなかった。
璦が我儘を言っても笑って許すのに、私には姉なんだから我慢しろだなんて。
私だって遊園地に行きたかったのに、璦がお父様と二人で行きたいなんて言うから
お前の歳じゃ遊園地なんて行っても楽しくないだろう。そう言って私を家に置き去りにした。
その頃は私も璦のことが好きだったから。
璦がお父様と二人で行きたいのなら仕方がないと思ってた。
可哀想な私。
「カップルがおそろいでつけるんだって。カバンにつけちゃって、相当大切なんだね…あ、いいこと思いた」
璦がそんな事を言う時は、だいたい何か悪いことを企んでる。
その勘は当たっていて、
「ちょっとそれ貸してよ」
「貸すわけないでしょ」
「まぁ、貸してくれなくても...」
カバンにつけていたキーホルダーを引きちぎりそのまま走り出した。
呆然と立ち尽くしていた私は、途中で我に返り、急いで璦を追いかけた。
だけど、その時には手遅れだった。
キーホルダーを風船にくくりつけて飛ばすなんて、璦にしかできないことだと思う。
「そ、んな…」
「お揃いで何かを買うなんて初めてだったんでしょ。残念だったわね」
「あっ、」
まだ終わってない。
運良く、
飛ばされた風船は空高くまで飛ばなかった。
そして、運悪く、、
風船はお化け屋敷の中に入っていった。
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