6 / 78
第6話
しおりを挟む「…社長、」
「何、乗らないの」
「の、乗ります」
次に会う時、どんな顔したらいいんだろうって、昨日あれほど悩んだのに…会社で社長とばったり会うなんて。
社長を好きだと確信したからだろうか、昨日キスをしたからだろうか、それとも璦じゃなくて私として会っているからだろうか、かなり気まずい。
その上、エレベーターの中で二人きりだから耐えられない。
「…この前はありがとう」
「え?」
「映画館。喜んでくれた」
「それは、良かったで…っ、」
エレベーターが突然止まった。
「…故障か、」
このままずっと二人きり…
いや、想像しただけで気まずい
「そうみたいですね…」
バチッ
なんの音…何だか、嫌な予感が…っ、
「今度は停電か」
怖くない。怖くない。怖くな…
もう、だめだ、
「はぁっ、はっ、…っ、」
「おい、大丈夫か」
「っ、は、」
上手く呼吸出来ない。呼吸、どうするんだっけ。
「おい、しっかりしろ!」
「しゃ、社長っ、」
「大丈夫、すぐに助けが来るから」
「迷惑かけて、ごめんなさ、」
…視界がぼやける
「迷惑だなんて思ってないし喋らなくていいから。今は自分のことに集中して」
ドアの向こう側で音がする…
「大丈夫ですか!」
「俺は大丈夫だから彼女を医務室まで『由莉!?大丈夫か!!』」
「蓮…?」
顔はぼやけて見えてないけど、この声は確かに蓮だ。
「エレベーターの中で一体なにが、」
「停電したんだ。そしたら彼女が呼吸困難に」
「暗所恐怖症なのに…怖かったな由莉。よく頑張った」
社長が支えてくれてたから何とか耐えれてるけど、足がもう限界…
「彼女が暗所恐怖症…?なら璦は、」
「璦?由莉の妹のことですか?社長がどうして璦を?というか、璦が暗所恐怖症なわけないじゃないですか。由莉をこんなふうにさせたのもあいつのせいなのに」
社長と蓮が何か話してるみたいだけど、何も聞こえない。これは確実に意識が遠のいてる。
「何?どうい『おい!由莉!』っ、しっかりしろ!」
駄目だ…もう限界。
___
「あ、由莉。気がついた?」
「蓮…?」
どこ、ここ…あ、そうだ私、倒れて…
「由莉が倒れた後、俺がここまで運んだんだよ」
「ありがとう」
「辛かったね。昔のこと思い出しちゃった?」
「うん、」
思い出さないようにすればするほど、あの日のことを鮮明に思い出してしまう。
「そっか…」
「私、エレベーターから救出されたんだね」
「もしかして覚えてない?」
「あんまり…蓮が来て…私が、倒れる直前に、社長が私の名前を何度も呼んでたことぐらいしか…」
社長に由莉さんって呼ばれて嬉しかった。
「俺も呼んでたのに…社長に負けた」
「何言ってるのよ、もう」
「あ、社長に由莉が目覚めたら、帰らせてって言われてたんだった」
「え、でも私まだ仕事残ってるし、」
「とにかく安静にってさ」
「なんともないのに、」
「あの、さ、もしかして、社長と付き合ってる?」
ん…?今なんて?私の聞き間違い?
「誰と、誰が?」
「由莉と社長が」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
何を見てそう言っているのか知らないけど、社長が好きなのは私じゃなくて璦なんだから。
「だって普通、部下にこんな優しくする?由莉が倒れて、すーっごく心配してたんだよ。由莉がまた倒れないように、家までしっかり見送るようにって命令まで下されたんだから」
「それだけ社長が優しいってことでしょ?」
私が璦の姉だからっていうのもあるだろうけど。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。というか、ごめんね。私のせいで蓮まで帰らされることになって。仕事もまだ残ってただろうに」
「そんなの気にしないでよ。てか、ほんとに付き合ってないの?」
「付き合ってないってば。もしも社長が私の彼氏なら、蓮に頼まずに自分が見送るはずでしょ?でもそうしないの。だって私は社長の彼女じゃないから」
「それはそうだけど…」
まだ納得していないみたい。何をそんなに疑うことがあるんだ?
「もう帰ろうよ。送ってくれるんでしょ?」
「うん!待ってて荷物持ってくるから!」
「分かった」
って言ったものの来る気配がない。
どこほっつき歩いてるんだか。しょうがない、私が呼びに行くか。
「あ、社長…」
今日はほんとよく会う
「体調はもう大丈夫なのか?」
「はい。先程はご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした」
「迷惑なんて思ってないけど、…どうして暗所恐怖症のこと黙ってた」
別に黙ってた訳じゃないけど、そもそも私の事なんて興味ないじゃないですか、
「聞かれなかったので」
「ところで、璦のせ『もう由莉!先に行かないでって言ったの…あ、社長、お疲れ様です』お疲れ様、」
「邪魔しちゃいましたか、」
あちゃ…これは、また疑われるよ。
「いや、何でもない」
社長、何を言いかけたんだろう…璦って言ってたけど、また聞きたいことがあったのかな。
「では…失礼します」
「何を話してたの?」
聞かれると思った。
「体調はもう大丈夫かって」
「やっぱり付き合ってるんじゃん」
「付き合ってないってば!」
もしも私が璦のふりをして社長と付き合ってるって言ったらどんな反応するかな。
きっと大騒ぎするだろうから言わないけどね。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。今日は安静にするんだよ」
ほんと、過保護なんだから
「分かってるよ。」
「明日迎えに来ようか?」
「そこまでしなくても大丈夫。子供じゃないんだから」
「心配だから言ってんの」
「大丈夫だから心配し「あ、蓮だ!」璦...」
最悪のタイミングだ。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)


【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる