シェフが私のことを好きになる確率

hayama_25

文字の大きさ
上 下
29 / 32

第29話

しおりを挟む
「…3番テーブル」
「はい」

 あの後、シェフから何度も電話があった。
 だけど、取ることはなかった。

 シェフの声を聞くのが怖かったから。

 電話が鳴るたびに、胸が締め付けられるような思いがした。

 忙しい時間が続く。

 お客さんの注文をこなすために、ひたすら動き回る。

 いつもより忙しいかもしれない。
 ちょうど良かった。

 心の中のモヤモヤを振り払うように、仕事に集中する。

 動き続けることで、少しでも心の重さを忘れようとしていた。

「ふぅ、疲れた…」

 やっと休憩時間が来た。

 疲れた体を休めるために、スタッフルームに向かう。

 心の中では、シェフとのことが頭から離れない。
 彼の顔が浮かんでは消える。

「莉乃」

 律の声に、ハッとする。

「…律、」

「はい、水」

 律が差し出す水を受け取る。

「ありがとう」

「いやぁ、すっごく忙しかったねえ」

 律が笑顔で言う。

 その笑顔に、少しだけ心が和らぐ。

「そうだね、」

 自分も笑顔を作るが、心の中は晴れない。

「…何かあった?」

 律が心配そうに話しかけてくる。

 その優しい声に、少しだけ心が和らぐ。

「え?」

 驚いて顔を上げる。

「元気ないから」

 律の言葉に、心が揺れる。

 彼には隠し事ができない。

「そう、?元気だけど」

 笑顔を作って答えるけど、心の中は全然大丈夫じゃない。

 律には心配かけたくないから、無理にでも笑顔を見せる。

「シェフと何かあった?」

 律がさらに問いかける。

 その言葉に、心がドキッとする。

「え、どうして?」

 シェフのことなんて一言も…。

「どことなくお互い気まずそうだから」

 …それだけで。
 律の鋭い観察力に驚く。

 律には何も隠せないや。

「何も無いよ。いつもどうりだと思うけど…」

 必死に否定するけど、

 否定したところでもう、なにかしら気づかれてるのかもしれない。

「そう?喧嘩でもしたと思ってたんだけど」

 律の疑わしげな目が痛い。

 言ってしまいたい。

 元カノと会ったのを見たけど聞く勇気がなくて喧嘩したって。

 でも、シェフと付き合ってるって言えない。

「シェフと私が?まさか、そんなわけないよ 」

 律の心配を振り払うように答える。

 自分の問題を他人に押し付けたくない。

「ならいいけど」

 まだ納得いかないみたいだ。

「心配してくれてありがとう」

「何かあったら何時でも相談乗るから」

 その言葉に、少しだけ心が軽くなる。

「うん、ありがとう」

「じゃ、俺ちょっと用事があるから」

 わざわざ私のために…

 律の優しさに感謝しながら、彼の背中を見送る。



「ごめん、本当の事言えなくて」


 律の背中に向かって小さく呟く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

あやまち

詩織
恋愛
恋人と別れて1年。 今は恋もしたいとは特に思わず、日々仕事を何となくしている。 そんな私にとんでもない、あやまちを

処理中です...