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第19話

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 恭介さんの言葉に、胸が締め付けられそうになる。

 それだけ私のことを好きでいてくれたのに。
 どうして誤解しちゃったんだろう。
  
 きっと、焦ってたんだろうな…

 恭介さんは優しくてイケメンで、周りにはいつも人がいた。

 だから、いつか誰かに取られる日が来るんだろうって気が気じゃなかった。

 自分で自分の首を絞めていたなんて。

 考え事をしていると、足がもつれて転けそうになった。

「莉乃…!」 

「っ、」

 転けそうになったところを間一髪助けてもらったのはいいけど、

 恭介さんが私を抱きしめる形に。  

 心臓がうるさい。

「大丈夫っ、?」

 恭介さんの腕の中で、心臓がさらに早鐘を打つ。

「ごめん、大丈夫。ボーっとしてた」

 顔が赤くなるのを感じる。

「怪我は無い?」
「うん。恭介さん…?」

 どうして、離してくれないの、

「…ごめん」

   彼の声が優しく響く。

「え?」

 恭介さんが謝ることなんてなにも、

「莉乃の恋、やっぱり応援できないや」

 その言葉に驚いて、顔を上げる。

「何言って…」

 彼の真剣な表情に、心が揺れる。

「さっきは莉乃の恋を応援するなんて言ったけど、できそうにない」
「なんで、」

「俺…莉乃の事、諦められないみたいだからさ」

 言葉が喉に詰まる。

「恭介さ、」

 お願い。

 続きは言わないで。

「俺たちやり直さない?」

 彼の言葉に、心が大きく揺れる。

「私には、」

 シェフがいるから。そう言おうとしたのに、

 恭介さんは私の言葉を遮るように続けた。

「好きな人がいるって分かってる。だけど、俺じゃ駄目かな。もう一度やり直そう」

 彼の真剣な目を見つめると、心が揺れ動く。

「私は…」


___



「莉乃…。莉乃…!」

 突然の声に驚き、振り返ると律が立っていた。

「律、」

 仕事しないと。
 ぼーっとしてる場合じゃない。

「何か悩み事でもあるの?」

「ううん。ちょっと疲れが溜まってるみたいで、心配かけてごめんね」

 微笑みながら答えるけど、心の中ではまだモヤモヤが残る。  

 私の決断はこれで正しかったんだろうか。

「何も無いならいいけど、一人で溜めすぎないで。いつでも相談してね?」

 律の言葉に、少しだけ心が温かくなる。

「うん。ありがとう」

 気持ちを切り替えて、とにかく今は働いて気を紛らわせよう。

「3番テーブル」

 突然のシェフの声に、少し驚く。

「は、はい」

 なんかいつもより冷たい気が…気のせいか?

 心の中で疑問が湧く。

「遅い」

「す、みません。」

 いや、いつもより当たりが強い。

 忙しくて機嫌が悪いだけならいいけど。

 なんか私にだけ… 




 いや、きっと気のせいだよね。

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