シェフが私のことを好きになる確率

hayama_25

文字の大きさ
上 下
9 / 32

第9話

しおりを挟む
「髪の毛が入ってるじゃないか!」
お客様の怒鳴り声が聞こえてきた。

 私は驚きと不安でいっぱいになった。
 まさか、私の髪の毛…?

 シェフがすぐに対応に出た。

「申し訳ありません。すぐに新しい料理をお作りいたします」

 シェフは冷静に対応し、お客様を落ち着かせた。

 私はまた作り直し、スペシャルメニューの提供をした。

 その後、厨房に戻ると、
 他のスタッフが私を疑いの目で見ていた。

「莉乃の髪の毛じゃないの?」
 誰かが言った。

 「そんな、」

 シェフは見ているだけで、何も言ってくれなかった。

 私の髪の毛じゃないと証明することもできないし、言葉を失った。

「待ってください。莉乃はいつも髪をしっかりまとめているし、そんなミスをするはずがないです」

 律が私を庇ってくれた。

「でも、髪の毛が入っていたのは事実だし、誰かのミスだろう」
 と、別のスタッフが反論した。

 見兼ねたシェフがスタッフを宥めた。

「確かにミスはあったかもしれない。でも、故意じゃないんだから、これから注意していけばいい。もうこれでこの話も終わりにしよう」

 その言葉に、スタッフたちは一瞬納得したように見えた。

 だけど、私は心の中で不安を感じていた。

 何も言わないってことは、シェフもそう思ってるってことなんだよね。

 結局、誰の髪の毛が分からないまま、うやむやになり一週間が過ぎた。



 そんなある日の夜、

 厨房の片隅にある小さな部屋にシェフが私を呼び出した。

 この前の件で私のことをクビにするのかもしれない。

 そう思って身構えていたのに、

 「この前は大変だったな」
 「え…?」

 予想外の言葉だった。
 大変だったなって…

 「私のこと、信じてくれてたんですか、」

 「…信じてたからこそ、冷静に対処するために表立って庇わなかったんだ」

 「そ、うだったんですね」

 そうとも知らずに、シェフに信じてもらえなかったんだって勝手に落ち込んでた。

「それで、実は…裏で色々と調査を進めてたんだけど、莉乃を陥れようとした店員がいたことが分かった」

 私を陥れる…?
 一体誰が、どうして。

 いや、そんな事よりも、

「ほ、ほんとに、誰かの仕業なんですか?」

 何かの間違いじゃ、
 いや、そうであって欲しい。

 「残念だけど、監視カメラにも映ってたし、スタッフの証言もとれたから」

 「そんな…」

 私は驚きと悲しみでいっぱいだった。

「莉乃に聞きたいことがある。犯人をみんなの前で晒すべきかどうか、莉乃の意見を聞かせてほしい」

 シェフは真剣な表情で尋ねた。 

 私は一瞬考えた。

 犯人を晒すことで、私の名誉は回復されるかもしれない。

 だけど、それって本当に正しいことなのかな。



「シェフ、私は…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

あやまち

詩織
恋愛
恋人と別れて1年。 今は恋もしたいとは特に思わず、日々仕事を何となくしている。 そんな私にとんでもない、あやまちを

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

処理中です...