この世界には縁がない

病好蛾蝶

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第三章:世界の裏側には縁がない

台風、襲来

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「あの日も、こんな大雨だった。風は今日とは比べ物にはならなかったがな」

「ええ、未曽有の事態でしたから、私も含め国中が大パニックになりましたね。警察や軍隊が国中で警戒を呼び掛けていました」

「『国のインフラが止まるときは、植民地になったとき』初代が言っていた、事実上の永久労働宣言。あれが、あの日でも公務員を
動かし、そして……」

 これから話す真相へと繋がる。

「あの時は私も反省しています。せめて、拘置所や教育現場などはストップさせるべきでした」

「誰もあの時に頭が回ったやつはいないよ」

 法務大臣の呪縛から解かれたミツリガには、好好爺という言葉がよく似合う。
 あの頃の記憶に更けながら、私は話を切り込んだ。

「あの日、拘置所では何が起きていましたか」

「忘れもしないよ。あの日はやってはいけなかった。無理を通しても延期にするべきだったんだ」

 声を枯らしながら語るミツリガの手は、強く握られていた。
 自分への恥じらいか、国への憤りか、私への批判か。

「拘置所の中でも意見が真っ二つに分かれた。延期派と結構派、国を思う奴らと人を思う奴ら。どちらも正しかった。だからこそ、どちらも賛同しかねた」

 情景がありありと目に浮かぶ。

 自分の正義を貫き通す時は、感情的・攻撃的になりやすい。怒号、罵声、涙、あらゆるものが見られたと思う。

「だけど決定をしなければならない。執行するか、延期するか。その時の騒動を沈下させることが出来るのは、俺だけだった」

「あなたはどちらを選びましたか?」

「その前に一つ、お前ならどっちを選ぶ?」
 私は熟考する。人命を優先するか、法律を優先するか。

 今までの行動を振りかえる。私の行動指針は人の目線だ。どう思われるか、どう感じられるか。そんなイメージばかりを気にして今まで生きていた。
 死にたいと感じていたのも、私が死ぬことを周りが望んでいると考えたから。

「私なら、法律を選ぶと思います。バッシングに晒されるのが怖い、皇帝に怒られるのが怖い。そんな臆病な理由ですが」

「そうか、お前は偉いな」

 彼のキリキリした声が、低くなった。

「俺は馬鹿だった。どっちにも――職員にも政府にも――良い顔をしたかった。自分のメンツのために、キャリアのためにも」

「あの時、死刑を執行した。そうあなたから聞いています。だけど本当は――」

「ああそうだ、実際には何も起こさずに、上層部には真逆の内容を報告したんだ‼ 自分のために、金のために! 不正がバレないように、そいつを豪雨の中追い出した。俺は死んでくれると思っていたんだ」

 あのときは外に出ている事すら、自殺行為とされるほど激しい天候だった。
 この真実は有耶無耶になると、甘い考えがよぎったのだろう。

「だけどアイツは目の前に現れた。俺の事を覚えていた。俺がやったことが不正だということも解っていた」

 あの犯罪者が警察官となって表れた。それは同時に、長年築き上げた政治家としての立場が、不正の絶対証拠によって危うくなる。

「アイツは悪魔だ。ハーツは【キー・ドリーム】は悪魔だ」

 なんとなくだが真相は分かった。昔のことだが到底許されることではない。
そして自分への過ちにも頭にくる。もっと猶予を持って構えていれば、こんなことにはならなかったのに。

「話は聞かせていただきました。まったく、派手にやってくれましたね」
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