21 / 26
第三章:世界の裏側には縁がない
台風、襲来
しおりを挟む
「あの日も、こんな大雨だった。風は今日とは比べ物にはならなかったがな」
「ええ、未曽有の事態でしたから、私も含め国中が大パニックになりましたね。警察や軍隊が国中で警戒を呼び掛けていました」
「『国のインフラが止まるときは、植民地になったとき』初代が言っていた、事実上の永久労働宣言。あれが、あの日でも公務員を
動かし、そして……」
これから話す真相へと繋がる。
「あの時は私も反省しています。せめて、拘置所や教育現場などはストップさせるべきでした」
「誰もあの時に頭が回ったやつはいないよ」
法務大臣の呪縛から解かれたミツリガには、好好爺という言葉がよく似合う。
あの頃の記憶に更けながら、私は話を切り込んだ。
「あの日、拘置所では何が起きていましたか」
「忘れもしないよ。あの日はやってはいけなかった。無理を通しても延期にするべきだったんだ」
声を枯らしながら語るミツリガの手は、強く握られていた。
自分への恥じらいか、国への憤りか、私への批判か。
「拘置所の中でも意見が真っ二つに分かれた。延期派と結構派、国を思う奴らと人を思う奴ら。どちらも正しかった。だからこそ、どちらも賛同しかねた」
情景がありありと目に浮かぶ。
自分の正義を貫き通す時は、感情的・攻撃的になりやすい。怒号、罵声、涙、あらゆるものが見られたと思う。
「だけど決定をしなければならない。執行するか、延期するか。その時の騒動を沈下させることが出来るのは、俺だけだった」
「あなたはどちらを選びましたか?」
「その前に一つ、お前ならどっちを選ぶ?」
私は熟考する。人命を優先するか、法律を優先するか。
今までの行動を振りかえる。私の行動指針は人の目線だ。どう思われるか、どう感じられるか。そんなイメージばかりを気にして今まで生きていた。
死にたいと感じていたのも、私が死ぬことを周りが望んでいると考えたから。
「私なら、法律を選ぶと思います。バッシングに晒されるのが怖い、皇帝に怒られるのが怖い。そんな臆病な理由ですが」
「そうか、お前は偉いな」
彼のキリキリした声が、低くなった。
「俺は馬鹿だった。どっちにも――職員にも政府にも――良い顔をしたかった。自分のメンツのために、キャリアのためにも」
「あの時、死刑を執行した。そうあなたから聞いています。だけど本当は――」
「ああそうだ、実際には何も起こさずに、上層部には真逆の内容を報告したんだ‼ 自分のために、金のために! 不正がバレないように、そいつを豪雨の中追い出した。俺は死んでくれると思っていたんだ」
あのときは外に出ている事すら、自殺行為とされるほど激しい天候だった。
この真実は有耶無耶になると、甘い考えがよぎったのだろう。
「だけどアイツは目の前に現れた。俺の事を覚えていた。俺がやったことが不正だということも解っていた」
あの犯罪者が警察官となって表れた。それは同時に、長年築き上げた政治家としての立場が、不正の絶対証拠によって危うくなる。
「アイツは悪魔だ。ハーツは【キー・ドリーム】は悪魔だ」
なんとなくだが真相は分かった。昔のことだが到底許されることではない。
そして自分への過ちにも頭にくる。もっと猶予を持って構えていれば、こんなことにはならなかったのに。
「話は聞かせていただきました。まったく、派手にやってくれましたね」
「ええ、未曽有の事態でしたから、私も含め国中が大パニックになりましたね。警察や軍隊が国中で警戒を呼び掛けていました」
「『国のインフラが止まるときは、植民地になったとき』初代が言っていた、事実上の永久労働宣言。あれが、あの日でも公務員を
動かし、そして……」
これから話す真相へと繋がる。
「あの時は私も反省しています。せめて、拘置所や教育現場などはストップさせるべきでした」
「誰もあの時に頭が回ったやつはいないよ」
法務大臣の呪縛から解かれたミツリガには、好好爺という言葉がよく似合う。
あの頃の記憶に更けながら、私は話を切り込んだ。
「あの日、拘置所では何が起きていましたか」
「忘れもしないよ。あの日はやってはいけなかった。無理を通しても延期にするべきだったんだ」
声を枯らしながら語るミツリガの手は、強く握られていた。
自分への恥じらいか、国への憤りか、私への批判か。
「拘置所の中でも意見が真っ二つに分かれた。延期派と結構派、国を思う奴らと人を思う奴ら。どちらも正しかった。だからこそ、どちらも賛同しかねた」
情景がありありと目に浮かぶ。
自分の正義を貫き通す時は、感情的・攻撃的になりやすい。怒号、罵声、涙、あらゆるものが見られたと思う。
「だけど決定をしなければならない。執行するか、延期するか。その時の騒動を沈下させることが出来るのは、俺だけだった」
「あなたはどちらを選びましたか?」
「その前に一つ、お前ならどっちを選ぶ?」
私は熟考する。人命を優先するか、法律を優先するか。
今までの行動を振りかえる。私の行動指針は人の目線だ。どう思われるか、どう感じられるか。そんなイメージばかりを気にして今まで生きていた。
死にたいと感じていたのも、私が死ぬことを周りが望んでいると考えたから。
「私なら、法律を選ぶと思います。バッシングに晒されるのが怖い、皇帝に怒られるのが怖い。そんな臆病な理由ですが」
「そうか、お前は偉いな」
彼のキリキリした声が、低くなった。
「俺は馬鹿だった。どっちにも――職員にも政府にも――良い顔をしたかった。自分のメンツのために、キャリアのためにも」
「あの時、死刑を執行した。そうあなたから聞いています。だけど本当は――」
「ああそうだ、実際には何も起こさずに、上層部には真逆の内容を報告したんだ‼ 自分のために、金のために! 不正がバレないように、そいつを豪雨の中追い出した。俺は死んでくれると思っていたんだ」
あのときは外に出ている事すら、自殺行為とされるほど激しい天候だった。
この真実は有耶無耶になると、甘い考えがよぎったのだろう。
「だけどアイツは目の前に現れた。俺の事を覚えていた。俺がやったことが不正だということも解っていた」
あの犯罪者が警察官となって表れた。それは同時に、長年築き上げた政治家としての立場が、不正の絶対証拠によって危うくなる。
「アイツは悪魔だ。ハーツは【キー・ドリーム】は悪魔だ」
なんとなくだが真相は分かった。昔のことだが到底許されることではない。
そして自分への過ちにも頭にくる。もっと猶予を持って構えていれば、こんなことにはならなかったのに。
「話は聞かせていただきました。まったく、派手にやってくれましたね」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

転生してモンスター診療所を始めました。
十本スイ
ファンタジー
日本で普通の高校生として日常を送っていた三月倫斗だったが、ある日、車に引かれそうになっていた子犬を助けたことで命を落としてしまう。
気づけばそこは地球ではない異世界――【エテルナ】。
モンスターや魔術などが普通に存在するファンタジーな世界だった。
倫斗は転生してリント・ミツキとして第二の人生を歩むことに。しかし転生してすぐに親に捨てられてしまい、早くもバッドエンディングを迎えてしまいそうになる。
そこへ現れたのは銀の羽毛に覆われた巨大な鳥。
名を――キンカ。彼女にリントは育てられることになるのだ。
そうして時が経ち、リントは人よりもモンスターを愛するようになり、彼らのために何かできないかと考え、世界でも数少ないモンスター専門の医者である〝モンスター医〟になる。
人とのしがらみを嫌い、街ではなく小高い丘に診療所を用意し腕を揮っていた。傍には助手のニュウという獣人を置き、二人で閑古鳥が鳴く診療所を切り盛りする。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる