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第三章:世界の裏側には縁がない
懇願
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目的の場所までは遠い。蛍光ほどの明るさしかない通路は、先がよくわからない。それにしても物静かだ、私たち以外一人もいないように。犯罪者が少ないか、それとも……「おい、キョロキョロするな」
リードを持っている腕を高くあげた。首が吊るされたように上を向き、呼吸が苦しくなる。
またひたすら、長い長い廊下を歩いていく。
「……あの、少し話があるのですが」
「貴様、ここでの私語は厳禁――」
また高く上げようとした腕を、楔が纏わりついた、自身の両手で取り押さえた。
「大事な話なのです。あとで鞭でもレイプでも受け入れます」
彼の顔を真っ直ぐに見つめた成果なのか、一瞬怯んだ表情を浮かべ、ゆっくりと腕を下ろした。
「おい、大人しくしろ。腕を離せ‼」
声のした方に視線を向けると、そこにいたのは、銃をこちらに向けていた女性看守。
女性看守は銃を下ろした:彼女は最初こそ堂々と構えていたが、ブルブルと手元が震えだし、徐々に大きくなっていった。銃を落としてしまったが、拾う気配はない。
二人とも私の話を聞いてくれるようだ。今のうちに、話しておきたいことがある。
「私は愚か者ではありますが、無知ではありません。これから私は、断罪されるのでしょう。覚悟も出来ております。自分が死んで国が平和になるのであれば、この命など捨てさせていただきます。されど、共に暮らしていたモーリスには、私への熱烈な愛がもたらした過失であり、彼女には一切の責任はございません。つきましては、彼女も私と同じ死罪となさるのであれば、それは即座に撤回していただきたい。お二方、上官の方にお口添えの方、ご協力くださいますよう、お願いしたい所存でございます」
頭の中で何度も反芻した言葉を、ゆっくりと、一語一句、はっきりと。
私はその場に跪いた。こんなことはいつ以来だろうか? もしかしたら、初めてかもしれない。
何の反応も帰ってこない、無の時間。怖い、ものすごく怖い。
静寂を打ち破ったのは鎖がじゃらじゃらと響く音、そして力強く引っ張られた苦しさ。
私にかかる無意志の抵抗力も空しく、苦しみと共に強制的に立ち上がる。
チッという舌打ちに身体を縮こませた。上半身が強い引力に吸い込まれ、防御本能が足を前に出していく。
これ以上は何もいても無駄なのかもしれない。私の言葉も、情状のアピールだと捉えられ無視されたんだろう。
私はいったい、どこまで無能なんだろうか。最後の最後まで何もできなかったなんて。
苦しさと後悔で胸が張り裂けそうになった。
彼らの本音が聞きたかったが、あれから一度も目が合わなかった。
リードを持っている腕を高くあげた。首が吊るされたように上を向き、呼吸が苦しくなる。
またひたすら、長い長い廊下を歩いていく。
「……あの、少し話があるのですが」
「貴様、ここでの私語は厳禁――」
また高く上げようとした腕を、楔が纏わりついた、自身の両手で取り押さえた。
「大事な話なのです。あとで鞭でもレイプでも受け入れます」
彼の顔を真っ直ぐに見つめた成果なのか、一瞬怯んだ表情を浮かべ、ゆっくりと腕を下ろした。
「おい、大人しくしろ。腕を離せ‼」
声のした方に視線を向けると、そこにいたのは、銃をこちらに向けていた女性看守。
女性看守は銃を下ろした:彼女は最初こそ堂々と構えていたが、ブルブルと手元が震えだし、徐々に大きくなっていった。銃を落としてしまったが、拾う気配はない。
二人とも私の話を聞いてくれるようだ。今のうちに、話しておきたいことがある。
「私は愚か者ではありますが、無知ではありません。これから私は、断罪されるのでしょう。覚悟も出来ております。自分が死んで国が平和になるのであれば、この命など捨てさせていただきます。されど、共に暮らしていたモーリスには、私への熱烈な愛がもたらした過失であり、彼女には一切の責任はございません。つきましては、彼女も私と同じ死罪となさるのであれば、それは即座に撤回していただきたい。お二方、上官の方にお口添えの方、ご協力くださいますよう、お願いしたい所存でございます」
頭の中で何度も反芻した言葉を、ゆっくりと、一語一句、はっきりと。
私はその場に跪いた。こんなことはいつ以来だろうか? もしかしたら、初めてかもしれない。
何の反応も帰ってこない、無の時間。怖い、ものすごく怖い。
静寂を打ち破ったのは鎖がじゃらじゃらと響く音、そして力強く引っ張られた苦しさ。
私にかかる無意志の抵抗力も空しく、苦しみと共に強制的に立ち上がる。
チッという舌打ちに身体を縮こませた。上半身が強い引力に吸い込まれ、防御本能が足を前に出していく。
これ以上は何もいても無駄なのかもしれない。私の言葉も、情状のアピールだと捉えられ無視されたんだろう。
私はいったい、どこまで無能なんだろうか。最後の最後まで何もできなかったなんて。
苦しさと後悔で胸が張り裂けそうになった。
彼らの本音が聞きたかったが、あれから一度も目が合わなかった。
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