15 / 26
第三章:世界の裏側には縁がない
素人
しおりを挟む
独房が先ほどよりも狭く感じる。
どうしたところで、私の処罰は避けられない。革命が成功したのであれば、前時代の権力者は生きてはいけないのだ。
私の死罪は甘んじて受け入れる。そもそも、今まで生きていたことが、間違いだったのだから。
「ふざけんなよコンチクショウ……ぶっ殺すぞコンチクショウ……」
それでもモーリスだけは逃がしてあげたい。だけど、独房に収容されている時点で、未来は詰んでいるようなものか。
……なにかが引っかかる。部屋をもう一度見渡す。狭い部屋、丸見えのトイレ、どれを見ても独房に間違いない。
独房――単独室――だけど目の前には、真実を告げられ、放心状態の同居人がいる
「ごめんモーリス、目を覚まして、モーリス」
肩を揺らし、太ももを叩き、彼女に刺激を与え続け――一瞬目が合うと、鉛のように重い平手打ちが頬に飛んできた。
モーリスが一人の世界から無事に帰還した。
私はモーリスに向き合い、出来るだけかみ砕いて説明した。この簡単な矛盾が生まれている今のおかしさを。
「こんなの初心者でしか考えられないミスだよ。少なくとも、私のころはこんなこと無かった」
話し終わるとモーリスは、左上に顔を向けた。う~ん……と何かを考えている姿は、初めて見た気がする。
「そういえばウチ、最初刑務所にいたんですよ」
モーリスは、ここに運ばれる前の出来事を話し出した。
「そこマジで最悪でしたよ。飯はまじぃ、臭いはくせぇ、おまけに拘束具でガッチャガチャ。地獄ですよ、本当の地獄」
「私が知らない間そんなことに……大丈夫だったの? というより、何でここにいるの?」
「殴られたわけじゃないですけど、動けないのは苦しかったですね」
「それは良かった。ただでさえ怪我してたから、これ以上ひどくなると大変だし……それで、何でここにいるの?」
「外で警官がギャーギャー騒いでて、うるせぇなと思ってたら、ドアがバンと開いて。警官がゾロリゾロリ」
「……拷問?」
「ウチもそうだと思って、噛みつこうと思ったら急に眠くなって、気づいたらここに」
「それは、罪が重くなったとかでもなく?」
「全然‼ それどころか裁判すらやってませんよ」
考えられないような話だった。
たとえ私のように罪状が明確だとしても、形式だけの裁判は行うはずだ。私が統治していた頃よりも、酷くなっているような気がする。
私が考えに耽っていると、格子からガンガンと鈍い音が響いた。
二人の警察官が立っていた。一人は大柄な男性で、もう一人は金髪の女性。
格子に飛びつくモーリスを傍目に、大柄な刑務官が咳を払う。
「オルフェ・モンテスキュー、外へ出ろ。猛犬は下がれ」
……ああ、そうか。もうこの時が来たんだ。
彼女の刑務所と同じで早すぎるが、私なら当然か。
門前にいたモーリスを警棒で一突き。体躯を存分に使ったからか、顔を仕留められたからか、モーリスは軽く吹っ飛んだ。
「大丈夫? もう、勝手なことをするから」
「でも、でも……」
「おとなしくしていたら、あなたが善人だってことは証明されるから。過剰に喧嘩するのはあなたの悪い癖」
モーリスは不貞腐れながらも、分かってくれたようだ。
そんな姿を見て涙が溢れ出そうだった。心が叫んでいる、久しぶりに芽生えたこの感情。なるほど、これが生命本能というものか。
なんて愚かで、浅ましい。
独房の外に出る前、私はモーリスに抱き着いた。自分からこうした行動をとるのは、恐らく初めてだと思う。
「ごめんね、モーリス」
囁いてから、私は独房の外に出た。重い扉が閉まる音と同時に聞こえる、何度も聞いた声での絶叫。
腕に手錠が掛けられる、黒くて重くて太い。そして首輪も装着された。リード付きとみるに、これを引っ張って連行するのだろう。
「ではついてこい。無駄な抵抗はするなよ」
巨大な腕でリードを引っ張ると、後ろから押されたように、勢いよく身体が持っていかれる。
「勿論です。もうこうなる運命だと、自覚していましたから」
心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、一歩、また一歩と、長い廊下を進んでいった。
どうしたところで、私の処罰は避けられない。革命が成功したのであれば、前時代の権力者は生きてはいけないのだ。
私の死罪は甘んじて受け入れる。そもそも、今まで生きていたことが、間違いだったのだから。
「ふざけんなよコンチクショウ……ぶっ殺すぞコンチクショウ……」
それでもモーリスだけは逃がしてあげたい。だけど、独房に収容されている時点で、未来は詰んでいるようなものか。
……なにかが引っかかる。部屋をもう一度見渡す。狭い部屋、丸見えのトイレ、どれを見ても独房に間違いない。
独房――単独室――だけど目の前には、真実を告げられ、放心状態の同居人がいる
「ごめんモーリス、目を覚まして、モーリス」
肩を揺らし、太ももを叩き、彼女に刺激を与え続け――一瞬目が合うと、鉛のように重い平手打ちが頬に飛んできた。
モーリスが一人の世界から無事に帰還した。
私はモーリスに向き合い、出来るだけかみ砕いて説明した。この簡単な矛盾が生まれている今のおかしさを。
「こんなの初心者でしか考えられないミスだよ。少なくとも、私のころはこんなこと無かった」
話し終わるとモーリスは、左上に顔を向けた。う~ん……と何かを考えている姿は、初めて見た気がする。
「そういえばウチ、最初刑務所にいたんですよ」
モーリスは、ここに運ばれる前の出来事を話し出した。
「そこマジで最悪でしたよ。飯はまじぃ、臭いはくせぇ、おまけに拘束具でガッチャガチャ。地獄ですよ、本当の地獄」
「私が知らない間そんなことに……大丈夫だったの? というより、何でここにいるの?」
「殴られたわけじゃないですけど、動けないのは苦しかったですね」
「それは良かった。ただでさえ怪我してたから、これ以上ひどくなると大変だし……それで、何でここにいるの?」
「外で警官がギャーギャー騒いでて、うるせぇなと思ってたら、ドアがバンと開いて。警官がゾロリゾロリ」
「……拷問?」
「ウチもそうだと思って、噛みつこうと思ったら急に眠くなって、気づいたらここに」
「それは、罪が重くなったとかでもなく?」
「全然‼ それどころか裁判すらやってませんよ」
考えられないような話だった。
たとえ私のように罪状が明確だとしても、形式だけの裁判は行うはずだ。私が統治していた頃よりも、酷くなっているような気がする。
私が考えに耽っていると、格子からガンガンと鈍い音が響いた。
二人の警察官が立っていた。一人は大柄な男性で、もう一人は金髪の女性。
格子に飛びつくモーリスを傍目に、大柄な刑務官が咳を払う。
「オルフェ・モンテスキュー、外へ出ろ。猛犬は下がれ」
……ああ、そうか。もうこの時が来たんだ。
彼女の刑務所と同じで早すぎるが、私なら当然か。
門前にいたモーリスを警棒で一突き。体躯を存分に使ったからか、顔を仕留められたからか、モーリスは軽く吹っ飛んだ。
「大丈夫? もう、勝手なことをするから」
「でも、でも……」
「おとなしくしていたら、あなたが善人だってことは証明されるから。過剰に喧嘩するのはあなたの悪い癖」
モーリスは不貞腐れながらも、分かってくれたようだ。
そんな姿を見て涙が溢れ出そうだった。心が叫んでいる、久しぶりに芽生えたこの感情。なるほど、これが生命本能というものか。
なんて愚かで、浅ましい。
独房の外に出る前、私はモーリスに抱き着いた。自分からこうした行動をとるのは、恐らく初めてだと思う。
「ごめんね、モーリス」
囁いてから、私は独房の外に出た。重い扉が閉まる音と同時に聞こえる、何度も聞いた声での絶叫。
腕に手錠が掛けられる、黒くて重くて太い。そして首輪も装着された。リード付きとみるに、これを引っ張って連行するのだろう。
「ではついてこい。無駄な抵抗はするなよ」
巨大な腕でリードを引っ張ると、後ろから押されたように、勢いよく身体が持っていかれる。
「勿論です。もうこうなる運命だと、自覚していましたから」
心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、一歩、また一歩と、長い廊下を進んでいった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる