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第二章:人の優しさには縁がない
狂気
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「旦那様、こいつは危険です。裏切り者ですから」
「裏切り者って……ボクは正義に基づいて正しい判断をしたまでです。むしろ恋に囚われて落ちぶれたのは先輩でしょ?」
「減らず口の多い奴め、どこぞのバカ魔女と同じくらい癇に障る」
バカ魔女とは、ゴッホのことを言っているのかもしれない。
それを察したとき、スピルバーグの眉が少し、ピクリと動いたような気がした。
「ち・な・み・に……モーリス先輩にはなんの恨みもないから、ボクが狙っていたのは、わかるよね?」
彼女の目は全く私の方向から離れようとしない。背筋がゾクッとする。
「へぇ……じゃあお前を〆れば元の帰り方が分かるって訳だ」
モーリスはいつの間にか召喚していた、標準武器の剣を右手に握りしめる。
臨戦態勢を取り繕う彼女に、スピルバーグもやる気満々なのか、拳銃を握りしめ銃口を向けた。
「とっととクタバレ糞野郎」
「ボクだって負けてられないよ! うふ♡ ココで手柄を挙げて、テア様に褒めてもらうんだから」
テア様?
「じゃあテア様には、てめぇの首でも持って行ってやるよ」
言い切りモーリスは疾風の速度で、スピルバーグに切りかかった。しかし彼女は動かない。
モーリスはもうそこまで来ていた、あとは振り飾るだけ。
しかし彼女は相手に刃物を与えることなく、その場で蹲った。
落とした刃物をスピルバーグは足で遠くに追いやる。モーリス劣勢。
そんなガラ空きの状態を見過ごすわけがなく、モーリスは髪の毛を掴まれた。頭の一部がグッと引っ張られ、綺麗な髪がぼろぼろになる。
そのままボコボコにされて不利な状況に……
なると思いきや、ススピルバーグは地面に突っ伏した。
あれ? あっという間に決着した。バチバチな感じだから結構均衡すると思っていたのに。
「んだよ……拍子抜けだな」
ガッカリした表情、おもちゃを取り上げられた子どもだ。
「そうだ……そうじゃないか……」
私は改めて思い出した。彼女は本来私がいなくともなんとかなる怪物だ。
戦闘狂は屍の背中に乗りながら自らを王だと主張する。その姿はまさに英雄。
遠くに投げやられた短剣を拾い上げて、使えねぇ……と苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
そして私の方へ顔を向けると
「旦那様~!!! 褒めて~!!!」
餌を乞う子犬のように、天真爛漫な顔と姿で飛びついてきた。しかし傷一つ無いアーマーと鍛え上げられた強靭な肉体は、彼女を軍人だと教えてくれる。
いつまでもみすぼらしい没落令嬢についてきてくれる、私にはもったいない子なんだ。
「旦那ざま!? ぐるじぃ~」
私はモーリスを胸元で抱きしめていた。これからのことを考えて、独占欲でも生まれてきたのか?
「ごめん!? 大丈夫?」
「待って、旦那様の匂いをもっと体に染み込ませて! 同じ匂いを共有させてくれーー!!!」
うん、いつものモーリスだ、なんだか安心する。
胸に顔を深く埋めたが、私は不思議と嫌な気持ちがしなかった。
―――
伸び切ったスピルバーグをズタ袋抱えして、私の方向へやってくる。
結構な時間が経っていて、てっぺんにあった太陽は赤くなり沈みかけている。
「とんでもねぇ大魚が釣れましたね。持って帰って召し上がりましょう」
「そんなことしないよ」
今まで色々大変なことが起きて、かなり緊迫していたから、この軽妙やり取りも久方ぶりだ。
「重くないの?」
「まぁ大丈夫でしょ。走れば、1時間でなんとか」
「ここに来るまで全力で走った上に、道迷ったでしょ」
「じゃあ旦那様が持ちますか?」
不機嫌な顔とトーンで私に押し付けようとする。断ることもできるのかもしれないけど、そういった手前勇気が出ない。
私は持つと言い、伸び切った身体を自分の両腕に抱え込んだ。
腕が重力の方向に従順に従おうとするので、なんとか必死の力で抵抗する。
スピルバーグの身体は重かった。軍人のため身体は出来ている、岩を持っているみたいだ。
なんでこんなのを片肩だけで持つことが出来たんだお前!
「フフ……旦那様を分からせちゃった~」
蠱惑な笑みを浮かべたモーリスに少しだけイラッとしたのは内緒。
―――
時刻はわからないがかなりの夜更けだと思う。
夕日はとうに沈み、空には無数の星の絨毯が惹かれていた。
一寸先も見えない雑木林だったが、無事に帰ることができたのは月明かりのおかげ。
「大人しくしておけば、腹パン一回で済んだのに」
道中に何度か反旗を翻そうとしたスピルバーグを、モーリスはその度に制裁した。
何回目かで蹴りを入れた際の、ドスの効いた「ラブラブしてんだ邪魔すんな、殺すど」は無視をしよう。
「もうすぐ着きますね。帰ったら待ちに待っていた子作り時間です」
「そんな時間はないけど、どうしてわかるの?」
「地面の感触が家周りと同じですし、消えかかっていますけど足跡がありますから」
へぇ、こんな所からでも情報を収集するのか。私は空を飛んでいたから知らなかったけど、周辺の森の土は土砂降りのようにぬかるんでいる。
「旦那様の足跡が無いんですけど、本当にどうやって来たんですか?」
「私!? 私は……ええと……」
何と答えれば良いのだろう。イカロスの翼は、混血の禁忌として隠さないといけない。
必死に考えを巡らせていると、ふとあることが過った。
「ねぇ、まさかとは思うケド……今まで通ってきた場所って、自分が来た道?」
「最初こそそうだったんですけど、それも分からなくなってしまって、やっとこさ足跡が見つかったんですよ! いけませんか?」
「……いや、いけないことはないけど、そういう事は事前に教えてもらいたいな」
ここで強く言えないのが私の卑怯なところ。ガツンと言いたいのに、嫌われるのが怖いから――怒らせるのが怖いから口籠ってしまう。
周りの人の意見を全部受け入れて、自分は何もしてこなかったあの頃と同じ。
「もう! そんな暗い顔しないでくださいよ!!!」
軍人仕込みの一発はとてもボロ衣如きでは守ってくれなかった。背中を思いっきりしばかれ励ましてくれた。背中はヒリヒリするけど、
心は苦しさでまた一杯になる。また私モーリスに気を遣わせちゃったんだ。
「そんな顔してるなら仕方ありません、あのときの続き……しちゃいます?♡」
モーリス、なんで寄りかかってくるの? どうして私の腕に絡みつくの?
「ず~っと誘っていたのに奥手な旦那様は一度も来ませんてしたね。ウチはずっと思い焦がれて、火照った体を一人で慰める日々。一人淋しくオナ――」
黙りなさい! あまりのバカバカしさに、思わず笑いながら注意した。全く、力も地位も身分も変わったのに、こういう所は学生時代から変わっていないな。
そんな私の姿にモーリスは高らかな笑いを浮かべていた。してやったりの表情だった。
「でも、本気ですからね」
「ウォッ!? 男勝りな筋肉女がスコッと見せる乙女の一面!?」
その後、無言でお腹に鉄拳を入れたモーリスであった。
―――
「帰ったぞ!!!」
豪快に扉を開けるとそこには誰もいなかった。家の中は真っ暗で月光だけが照らしているが、人がいる雰囲気はどこにも無かった。
とりあえずスピルバーグを魔法で拘束し、ゴッホの帰りを待つことにした。
「あの野郎どこ行ったんだよ……こんな夜中に飛び出す事あります?」
「まさか彼女も失踪したんじゃ……」
「無いですよ、仮にそうなら何かメッセージを残しているはずです。そこまで無作為な奴ではないてすって」
「……そうだね」
モーリスはなんだかんだ言いながらゴッホのことを信頼している。彼女の言葉を信じてみよう。
「それより寝なくてもいいんですか? 10時間ぶっ通しで体キテるでしょ?」
正直身体は憔悴しきっていた。帰っているときは欠伸が止まらず、帰ってきても何回したのか分からない。
でも一番疲れているのは私じゃない。戦って重荷運んで走り回って……それでも人を労る、目の前の戦士にこそ休息が必要だ。
「ゴッホのことが心配だから大丈夫だよ。アンタの方こそ? 戦ったんだし疲れてるでしょ」
「あんなもの戯れにもなってませんよ。ウチのことを舐めてもらっちゃあ困りますぜ」
フン! という効果音が似合うドヤ顔に、笑いそうになるが何とか堪えた。言っていることは間違っていないけども……まぁ様になっていない。
「有事の際に備えてしっかりと体を休めることも重要だよ。それでなくてもアンタは何でもMAXで取り組んじゃうんだから」
「旦那様は人のことを考えて疲弊しすぎです。体力無いんですから無理せずに休む!」
いつもより声を荒げて私を寝床に促す、彼女は私にイラッとしたんだ。こういうことを忌憚なく話せるのが、彼女の取り柄で私にないところ――羨ましい。
「私はお言葉に甘えて寝るから、モーリスも早く寝るんだよ」
モーリスは指でOKのサインを作り「おやすみなさい」と温かい声を掛ける。彼女はずっと椅子にふんぞり、もう一人の同居人の帰宅を待つ。
私は寝床で横になるが寝ることはしない、扉の方向に顔を向けて、薄目で見守る。
こんな状況ですやすやと眠れるほど、私は図太くない。ゴッホもそうだが、ここには命的にも性的にも、私の身体を狙っている者が2人いる。
だけどそんな思惑を笑うように、モーリスは時よりこっちをチラチラ見ることはあれど、特に何もしてこなかった。
スピルバーグも縛られたままなのだろう。脱出しようにもモーリスの一家記で無効化されるパターンが決まっていた。
このまま寝てもよいのかもしれない。久しぶりの大移動による疲労と、これまでの不安感による寝不足から、正直心身ギリギリだった。
「あの野郎一体どこに行ったんだよ」
私は寝たフリを続けた。モーリスの独り言に聞き耳を立てながら。
「暇だな、アレがいないと何にも進まねぇ。張り合いもねぇや」
モーリスはイメージとは違う繊細なため息を吐いた。
ほんの少しの時間なのに喪失感が大きく感じる。
「……旦那様にまで迷惑かけて、早く帰ってきてくれよ」
悪態をつきながらも、声には心配と悲しみが入り混じっていた。彼女はそういう娘だ。
「裏切り者って……ボクは正義に基づいて正しい判断をしたまでです。むしろ恋に囚われて落ちぶれたのは先輩でしょ?」
「減らず口の多い奴め、どこぞのバカ魔女と同じくらい癇に障る」
バカ魔女とは、ゴッホのことを言っているのかもしれない。
それを察したとき、スピルバーグの眉が少し、ピクリと動いたような気がした。
「ち・な・み・に……モーリス先輩にはなんの恨みもないから、ボクが狙っていたのは、わかるよね?」
彼女の目は全く私の方向から離れようとしない。背筋がゾクッとする。
「へぇ……じゃあお前を〆れば元の帰り方が分かるって訳だ」
モーリスはいつの間にか召喚していた、標準武器の剣を右手に握りしめる。
臨戦態勢を取り繕う彼女に、スピルバーグもやる気満々なのか、拳銃を握りしめ銃口を向けた。
「とっととクタバレ糞野郎」
「ボクだって負けてられないよ! うふ♡ ココで手柄を挙げて、テア様に褒めてもらうんだから」
テア様?
「じゃあテア様には、てめぇの首でも持って行ってやるよ」
言い切りモーリスは疾風の速度で、スピルバーグに切りかかった。しかし彼女は動かない。
モーリスはもうそこまで来ていた、あとは振り飾るだけ。
しかし彼女は相手に刃物を与えることなく、その場で蹲った。
落とした刃物をスピルバーグは足で遠くに追いやる。モーリス劣勢。
そんなガラ空きの状態を見過ごすわけがなく、モーリスは髪の毛を掴まれた。頭の一部がグッと引っ張られ、綺麗な髪がぼろぼろになる。
そのままボコボコにされて不利な状況に……
なると思いきや、ススピルバーグは地面に突っ伏した。
あれ? あっという間に決着した。バチバチな感じだから結構均衡すると思っていたのに。
「んだよ……拍子抜けだな」
ガッカリした表情、おもちゃを取り上げられた子どもだ。
「そうだ……そうじゃないか……」
私は改めて思い出した。彼女は本来私がいなくともなんとかなる怪物だ。
戦闘狂は屍の背中に乗りながら自らを王だと主張する。その姿はまさに英雄。
遠くに投げやられた短剣を拾い上げて、使えねぇ……と苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
そして私の方へ顔を向けると
「旦那様~!!! 褒めて~!!!」
餌を乞う子犬のように、天真爛漫な顔と姿で飛びついてきた。しかし傷一つ無いアーマーと鍛え上げられた強靭な肉体は、彼女を軍人だと教えてくれる。
いつまでもみすぼらしい没落令嬢についてきてくれる、私にはもったいない子なんだ。
「旦那ざま!? ぐるじぃ~」
私はモーリスを胸元で抱きしめていた。これからのことを考えて、独占欲でも生まれてきたのか?
「ごめん!? 大丈夫?」
「待って、旦那様の匂いをもっと体に染み込ませて! 同じ匂いを共有させてくれーー!!!」
うん、いつものモーリスだ、なんだか安心する。
胸に顔を深く埋めたが、私は不思議と嫌な気持ちがしなかった。
―――
伸び切ったスピルバーグをズタ袋抱えして、私の方向へやってくる。
結構な時間が経っていて、てっぺんにあった太陽は赤くなり沈みかけている。
「とんでもねぇ大魚が釣れましたね。持って帰って召し上がりましょう」
「そんなことしないよ」
今まで色々大変なことが起きて、かなり緊迫していたから、この軽妙やり取りも久方ぶりだ。
「重くないの?」
「まぁ大丈夫でしょ。走れば、1時間でなんとか」
「ここに来るまで全力で走った上に、道迷ったでしょ」
「じゃあ旦那様が持ちますか?」
不機嫌な顔とトーンで私に押し付けようとする。断ることもできるのかもしれないけど、そういった手前勇気が出ない。
私は持つと言い、伸び切った身体を自分の両腕に抱え込んだ。
腕が重力の方向に従順に従おうとするので、なんとか必死の力で抵抗する。
スピルバーグの身体は重かった。軍人のため身体は出来ている、岩を持っているみたいだ。
なんでこんなのを片肩だけで持つことが出来たんだお前!
「フフ……旦那様を分からせちゃった~」
蠱惑な笑みを浮かべたモーリスに少しだけイラッとしたのは内緒。
―――
時刻はわからないがかなりの夜更けだと思う。
夕日はとうに沈み、空には無数の星の絨毯が惹かれていた。
一寸先も見えない雑木林だったが、無事に帰ることができたのは月明かりのおかげ。
「大人しくしておけば、腹パン一回で済んだのに」
道中に何度か反旗を翻そうとしたスピルバーグを、モーリスはその度に制裁した。
何回目かで蹴りを入れた際の、ドスの効いた「ラブラブしてんだ邪魔すんな、殺すど」は無視をしよう。
「もうすぐ着きますね。帰ったら待ちに待っていた子作り時間です」
「そんな時間はないけど、どうしてわかるの?」
「地面の感触が家周りと同じですし、消えかかっていますけど足跡がありますから」
へぇ、こんな所からでも情報を収集するのか。私は空を飛んでいたから知らなかったけど、周辺の森の土は土砂降りのようにぬかるんでいる。
「旦那様の足跡が無いんですけど、本当にどうやって来たんですか?」
「私!? 私は……ええと……」
何と答えれば良いのだろう。イカロスの翼は、混血の禁忌として隠さないといけない。
必死に考えを巡らせていると、ふとあることが過った。
「ねぇ、まさかとは思うケド……今まで通ってきた場所って、自分が来た道?」
「最初こそそうだったんですけど、それも分からなくなってしまって、やっとこさ足跡が見つかったんですよ! いけませんか?」
「……いや、いけないことはないけど、そういう事は事前に教えてもらいたいな」
ここで強く言えないのが私の卑怯なところ。ガツンと言いたいのに、嫌われるのが怖いから――怒らせるのが怖いから口籠ってしまう。
周りの人の意見を全部受け入れて、自分は何もしてこなかったあの頃と同じ。
「もう! そんな暗い顔しないでくださいよ!!!」
軍人仕込みの一発はとてもボロ衣如きでは守ってくれなかった。背中を思いっきりしばかれ励ましてくれた。背中はヒリヒリするけど、
心は苦しさでまた一杯になる。また私モーリスに気を遣わせちゃったんだ。
「そんな顔してるなら仕方ありません、あのときの続き……しちゃいます?♡」
モーリス、なんで寄りかかってくるの? どうして私の腕に絡みつくの?
「ず~っと誘っていたのに奥手な旦那様は一度も来ませんてしたね。ウチはずっと思い焦がれて、火照った体を一人で慰める日々。一人淋しくオナ――」
黙りなさい! あまりのバカバカしさに、思わず笑いながら注意した。全く、力も地位も身分も変わったのに、こういう所は学生時代から変わっていないな。
そんな私の姿にモーリスは高らかな笑いを浮かべていた。してやったりの表情だった。
「でも、本気ですからね」
「ウォッ!? 男勝りな筋肉女がスコッと見せる乙女の一面!?」
その後、無言でお腹に鉄拳を入れたモーリスであった。
―――
「帰ったぞ!!!」
豪快に扉を開けるとそこには誰もいなかった。家の中は真っ暗で月光だけが照らしているが、人がいる雰囲気はどこにも無かった。
とりあえずスピルバーグを魔法で拘束し、ゴッホの帰りを待つことにした。
「あの野郎どこ行ったんだよ……こんな夜中に飛び出す事あります?」
「まさか彼女も失踪したんじゃ……」
「無いですよ、仮にそうなら何かメッセージを残しているはずです。そこまで無作為な奴ではないてすって」
「……そうだね」
モーリスはなんだかんだ言いながらゴッホのことを信頼している。彼女の言葉を信じてみよう。
「それより寝なくてもいいんですか? 10時間ぶっ通しで体キテるでしょ?」
正直身体は憔悴しきっていた。帰っているときは欠伸が止まらず、帰ってきても何回したのか分からない。
でも一番疲れているのは私じゃない。戦って重荷運んで走り回って……それでも人を労る、目の前の戦士にこそ休息が必要だ。
「ゴッホのことが心配だから大丈夫だよ。アンタの方こそ? 戦ったんだし疲れてるでしょ」
「あんなもの戯れにもなってませんよ。ウチのことを舐めてもらっちゃあ困りますぜ」
フン! という効果音が似合うドヤ顔に、笑いそうになるが何とか堪えた。言っていることは間違っていないけども……まぁ様になっていない。
「有事の際に備えてしっかりと体を休めることも重要だよ。それでなくてもアンタは何でもMAXで取り組んじゃうんだから」
「旦那様は人のことを考えて疲弊しすぎです。体力無いんですから無理せずに休む!」
いつもより声を荒げて私を寝床に促す、彼女は私にイラッとしたんだ。こういうことを忌憚なく話せるのが、彼女の取り柄で私にないところ――羨ましい。
「私はお言葉に甘えて寝るから、モーリスも早く寝るんだよ」
モーリスは指でOKのサインを作り「おやすみなさい」と温かい声を掛ける。彼女はずっと椅子にふんぞり、もう一人の同居人の帰宅を待つ。
私は寝床で横になるが寝ることはしない、扉の方向に顔を向けて、薄目で見守る。
こんな状況ですやすやと眠れるほど、私は図太くない。ゴッホもそうだが、ここには命的にも性的にも、私の身体を狙っている者が2人いる。
だけどそんな思惑を笑うように、モーリスは時よりこっちをチラチラ見ることはあれど、特に何もしてこなかった。
スピルバーグも縛られたままなのだろう。脱出しようにもモーリスの一家記で無効化されるパターンが決まっていた。
このまま寝てもよいのかもしれない。久しぶりの大移動による疲労と、これまでの不安感による寝不足から、正直心身ギリギリだった。
「あの野郎一体どこに行ったんだよ」
私は寝たフリを続けた。モーリスの独り言に聞き耳を立てながら。
「暇だな、アレがいないと何にも進まねぇ。張り合いもねぇや」
モーリスはイメージとは違う繊細なため息を吐いた。
ほんの少しの時間なのに喪失感が大きく感じる。
「……旦那様にまで迷惑かけて、早く帰ってきてくれよ」
悪態をつきながらも、声には心配と悲しみが入り混じっていた。彼女はそういう娘だ。
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