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第二章:人の優しさには縁がない
狂い始めた理想郷
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その日を境に、世界はおかしくなり始めた。
モーリスとゴッホが帰ってくるたびに街の異変を逐一話す。最初は「子供が泣き止まなくなった」みたいな小さな話だったが、規模が徐々に大きくなる。
「学校に子供が来なくなったんです。街に探しに行ってもいないな……と思ったら、午後に子供達が笑いながら登校してきたんです」
「目の前の人が急に消えたんですよ! 周りの人に聞いても無反応で……薄情になっていて……」
理想としていた街が崩壊していくのを感じる。気持ちの悪いことが起きている、検討もつかない。
「それは現場を知らないからです。明日でいいので一度、街に訪れてみたらどうでしょうか。私達の心の思いが分かるはずです」
「ゴッホ、旦那様は疲れているんだからゆっくりさせて――」
「でもこの街がおかしくなっているのも事実です」
ゴッホが珍しく声を荒げたので、私もモーリスも圧迫される。
「オルフェ先輩にも街の異変を確認してもらえれば、私達のおっしゃりたい意味がわかるはずです。上に立つ者としての『国民に寄り添う』と同じことだと思いますが……」
私が行ったところで何も解決しないと思うけど、だけどゴッホが本気の目をしているから断らざるを得ない。
「……分かった。行こう」
「何かあったらウチが守りますから、いざとなれば人工呼吸も!!!」
「回復系の魔法使えますよね、先輩」
バレたかと言い舌打ちしたモーリスは、机の上の料理を平らげた。何にムキになってんだこの子。
今更だけど、なんで私のことなんか好きなんだろう。どこに取り柄かあったのか分からない。
その日の街は異常という言葉すら生易しかった。
いつもは喧騒としている街が静かだった。静かすぎる。街から音が、人工的な音が何も聞こえない。
『ゴーストタウン』
本当にその表現はいい得て妙、だとしても、町の住人がわずか一夜で連れ去られたというのか?
「とりあえずくまなく探すぞ! もしかしたら何処かに人がいるかも」
「その発言はいないフラグですが、この状況では最善の策でしょう。人間は窮地に達すれば、大概が普遍の行動を取るものですからね」
あちこちの家をこじ開けては、誰かいないかを確認する必死にもがいていた姿。
そんなモーリスを冷めた目で見たいたゴッホ。
「本当に私達だけしかいないんだ……」
私は二人の輪に入れず、一人でこの自体を達観視していた。
祖国でもゴーストタウン化や廃村問題などに取り組んでいたけど、一挙に人がいなくなるなんて……
「おーい! おーい!!! おーい!!!!!」
ヤバイ! モーリスが狂乱のあまり破壊活動を行っている!? 壁や窓ガラスの破片があちこちに……
「ゴッホ、なんで止めないの!?」
「いや止めないとって……どうせゴーストタウンなんですからいいじゃないですか。仮に人が戻ってきたとしても真相は闇の中ですよ」
倫理がズレた内容をゴッホは飄飄と話す姿は、何だかムズムズする。
「誰もいませんでした……」
モーリスが帰還してきたが、なんだか怒っているような、いや怒っている。
顔は笑っていたが、目は笑ってなかった。
「あと、なんで旦那様と仲睦まじく喋ってるんですかねぇ……」
嫉妬だった。この人はどれだけ私のことが好きなんだろう。それにしても他の人と話していただけで怒り狂うなんて、変な子。
「あなたの犯罪を私が肯定してあげただけですよ。感謝こそされど批判される筋合いはないです」
同じ説明を話すと、それまで闇を纏っていたモーリスは憑き物が取れたかのように抱きついた。こういうことを恥じらいもなくやれる彼女の度胸……
「……これでチャラだからな」
「むしろ借金トイチですよ」
勢い任せにやるとこういう事があるから気をつけてね。
モーリスは成分を補充するかのように抱きついてきたので、私は黙って受け入れた。腰が締め付けられるけど、ゴッホへのハグの恥ずかしさをごまかすためだと思う。
「とりあえず住民探しに行く? いくらなんでもこの有り様は可笑しいよ」
「ドコをですか?」
ゴッホの冷たい声が静かな街に行き渡った。
「どこに行けば町の方々がいるんですか? 証拠もない、痕跡もない……捜索範囲はこの国全域。私達もわからない場所があるのに全域探せって、はっきり言って無茶苦茶ですよ」
ゴッホの言う事は正論だった。たしかにこのままでは闇の中を探すような、気の遠くなる作業になる。
「この状況でやれることといえば原因追求です。この町をくまなく調査し、分析し、仮説を立てるのが最低限でしょう」
「でももしかしたら、その間にも大変な目に遭っているかもしれないし……とりあえずウチらが知っている場所でも創作したほうが良いだろ」
「その最中に私達も事件に巻き込まれたら本末転倒です。ここの住民は祖国と違い武術や武器、魔法を扱えない方々ばかりですから、私達も巻き込まれたら、助かるものも助からなくなります」
「あぁぁもう!!! 頭が痛ぇんだよお前の話は! そんなもん、お前と旦那様がここに残ってウチだけ外探しに行けば――」
「もしもそれであなたが巻き込まれてしまった場合、一番気に病むのはオルフェ先輩かと考えます」
私を一瞥したモーリスの顔は、時間が経てばたつほど曇っていく。何の話をしていたか気になるが、モーリスの激情が一気に冷めたことからおそらく私の命の問題に関係する事だろう。
モーリスも私が居なければ本領発揮できたのかもしれない……
「とりあえず一旦様子を見ましょう。もしかすれば住人が帰ってくるかもしれません」
もしも帰ってこなかったら……という言葉は口に出せなかった。二人が同じ方向を見ているのだから水を差してはいけないのだ。
「うん……みんなの意見に従うよ」
自分の喉から捻り出した声は、力のない無責任な言葉だった。
モーリスとゴッホが帰ってくるたびに街の異変を逐一話す。最初は「子供が泣き止まなくなった」みたいな小さな話だったが、規模が徐々に大きくなる。
「学校に子供が来なくなったんです。街に探しに行ってもいないな……と思ったら、午後に子供達が笑いながら登校してきたんです」
「目の前の人が急に消えたんですよ! 周りの人に聞いても無反応で……薄情になっていて……」
理想としていた街が崩壊していくのを感じる。気持ちの悪いことが起きている、検討もつかない。
「それは現場を知らないからです。明日でいいので一度、街に訪れてみたらどうでしょうか。私達の心の思いが分かるはずです」
「ゴッホ、旦那様は疲れているんだからゆっくりさせて――」
「でもこの街がおかしくなっているのも事実です」
ゴッホが珍しく声を荒げたので、私もモーリスも圧迫される。
「オルフェ先輩にも街の異変を確認してもらえれば、私達のおっしゃりたい意味がわかるはずです。上に立つ者としての『国民に寄り添う』と同じことだと思いますが……」
私が行ったところで何も解決しないと思うけど、だけどゴッホが本気の目をしているから断らざるを得ない。
「……分かった。行こう」
「何かあったらウチが守りますから、いざとなれば人工呼吸も!!!」
「回復系の魔法使えますよね、先輩」
バレたかと言い舌打ちしたモーリスは、机の上の料理を平らげた。何にムキになってんだこの子。
今更だけど、なんで私のことなんか好きなんだろう。どこに取り柄かあったのか分からない。
その日の街は異常という言葉すら生易しかった。
いつもは喧騒としている街が静かだった。静かすぎる。街から音が、人工的な音が何も聞こえない。
『ゴーストタウン』
本当にその表現はいい得て妙、だとしても、町の住人がわずか一夜で連れ去られたというのか?
「とりあえずくまなく探すぞ! もしかしたら何処かに人がいるかも」
「その発言はいないフラグですが、この状況では最善の策でしょう。人間は窮地に達すれば、大概が普遍の行動を取るものですからね」
あちこちの家をこじ開けては、誰かいないかを確認する必死にもがいていた姿。
そんなモーリスを冷めた目で見たいたゴッホ。
「本当に私達だけしかいないんだ……」
私は二人の輪に入れず、一人でこの自体を達観視していた。
祖国でもゴーストタウン化や廃村問題などに取り組んでいたけど、一挙に人がいなくなるなんて……
「おーい! おーい!!! おーい!!!!!」
ヤバイ! モーリスが狂乱のあまり破壊活動を行っている!? 壁や窓ガラスの破片があちこちに……
「ゴッホ、なんで止めないの!?」
「いや止めないとって……どうせゴーストタウンなんですからいいじゃないですか。仮に人が戻ってきたとしても真相は闇の中ですよ」
倫理がズレた内容をゴッホは飄飄と話す姿は、何だかムズムズする。
「誰もいませんでした……」
モーリスが帰還してきたが、なんだか怒っているような、いや怒っている。
顔は笑っていたが、目は笑ってなかった。
「あと、なんで旦那様と仲睦まじく喋ってるんですかねぇ……」
嫉妬だった。この人はどれだけ私のことが好きなんだろう。それにしても他の人と話していただけで怒り狂うなんて、変な子。
「あなたの犯罪を私が肯定してあげただけですよ。感謝こそされど批判される筋合いはないです」
同じ説明を話すと、それまで闇を纏っていたモーリスは憑き物が取れたかのように抱きついた。こういうことを恥じらいもなくやれる彼女の度胸……
「……これでチャラだからな」
「むしろ借金トイチですよ」
勢い任せにやるとこういう事があるから気をつけてね。
モーリスは成分を補充するかのように抱きついてきたので、私は黙って受け入れた。腰が締め付けられるけど、ゴッホへのハグの恥ずかしさをごまかすためだと思う。
「とりあえず住民探しに行く? いくらなんでもこの有り様は可笑しいよ」
「ドコをですか?」
ゴッホの冷たい声が静かな街に行き渡った。
「どこに行けば町の方々がいるんですか? 証拠もない、痕跡もない……捜索範囲はこの国全域。私達もわからない場所があるのに全域探せって、はっきり言って無茶苦茶ですよ」
ゴッホの言う事は正論だった。たしかにこのままでは闇の中を探すような、気の遠くなる作業になる。
「この状況でやれることといえば原因追求です。この町をくまなく調査し、分析し、仮説を立てるのが最低限でしょう」
「でももしかしたら、その間にも大変な目に遭っているかもしれないし……とりあえずウチらが知っている場所でも創作したほうが良いだろ」
「その最中に私達も事件に巻き込まれたら本末転倒です。ここの住民は祖国と違い武術や武器、魔法を扱えない方々ばかりですから、私達も巻き込まれたら、助かるものも助からなくなります」
「あぁぁもう!!! 頭が痛ぇんだよお前の話は! そんなもん、お前と旦那様がここに残ってウチだけ外探しに行けば――」
「もしもそれであなたが巻き込まれてしまった場合、一番気に病むのはオルフェ先輩かと考えます」
私を一瞥したモーリスの顔は、時間が経てばたつほど曇っていく。何の話をしていたか気になるが、モーリスの激情が一気に冷めたことからおそらく私の命の問題に関係する事だろう。
モーリスも私が居なければ本領発揮できたのかもしれない……
「とりあえず一旦様子を見ましょう。もしかすれば住人が帰ってくるかもしれません」
もしも帰ってこなかったら……という言葉は口に出せなかった。二人が同じ方向を見ているのだから水を差してはいけないのだ。
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