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ダイヤのA

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「かのん君、ごめん傷つけちゃったね」
「真希ちゃん、俺……」
「私が言いたいのは、どんなに周りがはやし立てようがかのん君と一緒にいるのが迷惑なんて思ってないって事。私、かのん君と一緒に居たい」

 かのん君が下を向いた。ちょっと鼻をすする音が聞こえてくる。

「俺、いっぱい仕事して真希ちゃんを守れる男になりたかったんだ、なのに結果は逆だった」
「かのん君。私はこれまでもいっぱいかのん君に守って貰ったよ。元彼に振られた時も、あいつがせまって来た時も、仕事で落ち込んでるときだってかのん君は優しく私を守ってくれた」
「……本当に、そう思ってくれてる?」

 顔を上げたかのん君の瞳から涙がこぼれる。

「かっこわるい、俺」
「世界一かわいいよ、かのん君は」

 私はかのん君を抱きしめた。世界一かわいくてかっこよくてやさしい私の彼氏、それがかのん君。

「男とか女とかこだわらない、両方いいとこ取りがジェンダーレス男子でしょ」
「……うん、真希ちゃん覚えてたんだ……」
「え?」
「やだなぁ、初めて会ったときに言ってたじゃない」

 そうなの? え? 私初対面の相手にそんな事言ってたの?

「俺が仕事で気持ち悪いって時々言われるって愚痴ってたらさ、真希ちゃんがそう言ってくれて。誰が認めなくても俺はいい男だって、太鼓判押すって……自分はなんだかぐちゃぐちゃに泣いてるのにさ」
「かのん君……」
「そこからすっと大好きなんだ。真希ちゃん。真希ちゃんが俺を認めてくれている限り、俺は自分に自信が持てるんだ。メイクをするよりも」

 そうか、それでかのん君は私と一緒に居てくれるんだ。ああ、なんだかぼんやりと思い出してきた。私が泣いていたら、同じ様に泣いているかのん君が声をかけてくれたんだっけ。

「……かっこ悪くていいって真希ちゃんがいうから」
「うん? どうしたのかのん君」
「これ、受け取って欲しい」

 かのん君がズボンのポケットから取りだしたのは正方形の箱。これって、もしかして。

「……一生、俺と一緒にいて下さい。真希ちゃん」
「……嘘」
「こんな嘘つかないよ」

 震える手で受け取ったそれは、小さなダイヤ型のデザインの指輪だった。私がかのん君の誕生日に上げたネックレスのデザインによく似ている。

「いいの? 私、片付け下手くそだし、作るご飯は婆臭いし」
「うん。片付けは俺がするし、真希ちゃんのご飯はほっとするよ」
「それからファッションセンスもいまいちだし、メイクも五分ですますし……」
「真希ちゃんが良ければ俺が見立てるし、毎朝俺がメイクしたっていいよ」
「あと寝言も……」
「それはもう知ってる」

 ああ、完敗。全方位完全に封鎖された。チェックメイト。

「結婚してくれますか」
「……はい」

 私がそう答えた途端にかのん君は私を抱きしめ、キスをした。もう二度と離れないように、とでも言うように深く、深く。

「かのん君……」
「真希ちゃん……」

 さすがにこのキスではリップははげた。お互いの顔を見てクスクス笑っているとコホン、と咳払いの声が聞こえた。

「……あのお二人とも……」
「「山口さん」」
「あのー……どこから見てました」
「……最初からです」

 かのん君の顔が真っ赤に染まる。ああ、私達山口さんの目の前で痴話げんかからのプロポーズを繰り広げちゃったんだ。

「ま、とにかくおめでとうございます」
「ありがとうございます……」

 私とかのん君は顔を見合わせてから、山口さんの祝福の言葉を受け入れた。
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