ジェンダーレス男子と不器用ちゃん

高井うしお

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うれしはずかし

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 かのん君が予約したホテルは、全室オーシャンビューだった。夕日に照らされたテラスに出ると潮風が髪を揺らす。

「キレイ……」
「ここのホテル、色々アクティビティもあるからここだけでもゆっくり出来るよ」
「へぇ……」
「例えばプールもあるし、ボートにシュノーケリングにヨガもあるよ」
「ヨガ?」
「うん、朝にやるみたい」

 私達は荷物を置くと、ホテルのアクティビティプログラムとにらめっこした。本当だ、数え切れないくらいのプログラムが用意されている。いつも観光にせっせと移動していたから、こういうのをまじまじと見るのも初めてだ。

「じゃあ朝はヨガでその後は青の洞窟シュノーケリングでどう」
「残りの時間はプールに行きましょ。あんまり詰め込んでもせわしないし」
「リフレッシュしに来たんだもんね」
「そうそう、せっかくこんないいホテルに泊って……」

 そう言いながら部屋を見渡した私は固まった。視線の先にあるのは……ダブル……では無いけれどぴったりとくっついた大きな二つのベッドだった。うわぁ……ここで眠るんだ。

「どうしたの真希ちゃん」
「え!? ああ、スパもあるみたいだよ」
「本当だ。メンズプログラムもあるんだね、二日目に予約して置こうか」
「そ、そうだね……メンズって一緒には受けられないのかな」
「どうだろう、聞いて見るよ」

 ばくばくしている心臓を押さえながら、私は荷物を解いた。そこに現れたのは例のデパートで購入した下着達。お、落ち着け真希。

「さ、予約も終わったしご飯食べにいこ」
「あ……うん」

 夕食はホテルのビュッフェで。地元の食材を使ったお料理を戴きながら三線の演奏を聴いた。

「プールはこっちか……ちょっと寄ってこう」

 私達は外のプールに向かったが、この時間は泳げないみたいだった。夜の暗い海とさざめく波の音を聞きながら散歩している人をちらほらと見かける。かのん君はホテルスタッフに今の時間は泳げるのか聞きに行った。

「屋内なら二十一時まで泳げるんだって。どうする?」
「それならかのん君、日焼け気にしないですむじゃない。行こう」

 一度、水着を取りに部屋に戻り、私達は屋内プールへ行った。買ったばかりのこの水着、いよいよお披露目か……。

「かのん、くん」
「……真希ちゃん」

 うつむき加減で水着姿になり、かのん君の前に立った。こんなに露出するのははじめて。

「すごいカワイイ」
「……ほんと?」

 そんなにまじまじと見られると照れてしまう。そしてかのん君は椰子の木柄の普通の水着だったんだけどやっぱり細い。その為か屋内なのにまだパーカーを着ている。

「うーん、いい眺めだな。おっぱい!」

 二人してもじもじしているところに突然無粋な声が響き渡った。……この声は。

「アレク! なんでいるの!?」

 かのん君がびっくりした声を発した方を見ると、かのん君のモデル友達のアレクがプールサイドに横たわっていた。ビックリするくらい面積の小さいビキニパンツで肉体美とスタイルを見せつけるように。

「来ちゃった」
「……マネージャーに聞いたの? ねぇ? プライベート旅行なんだけど?」
「まぁまぁ驚くのはまだ早い」

 アレクが大きく手を振ると、物陰から二つの人影が飛び出した。

「来ちゃった」
「……来ちゃった」

 それは真っ黒のビキニのレネさんとピンクのふりふりのタンキニを着たさくらちゃんだった。

「なんでいるのっ!?」
「……面白そうなんで」
「休みとるの大変だったー。だって真希さん正々堂々だったらいいっていうからぁ……」

 さくらちゃんは口をポカンと開けている私の方を向いてこう言い放った。

「邪魔しに着ちゃいました」

 なんてこった。せっかくの甘い時間にこんな闖入者がくるなんて。

「……さ、泳ぎましょ」
「そうよぉ、まったくエロい水着着ちゃってぇ」

 レネさんはビーチボールを抱えている。なんだなんでそんなやる気まんまんなんだ。私とかのん君は二人に引き摺られるようにしてプールへと入った。

「それじゃあ、2対2でビーチボール対決な!!」

 勝ち誇ったかのようなアレクの声が誰もいないプールに響き渡った。
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