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12話 フィーリングカップル☆猫又②
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「ごめんなさい……やっぱり犬を飼うのは無理です……」
そして黒猫の猫又が立ち去った時、鍋島は地面を叩いた。
「どうして……みんな!」
「鍋島さん、犬を飼うのはどうしても譲れないですか」
崩れ落ちる鍋島に衛が気の毒そうに声をかける。
「大好きな歌の歌詞に出てきて……歌おうか」
「結構です」
「それにしても、どいつもこいつも勝手な事ばかり……」
そう、鍋島が玉砕したのは初日と今日だけではない。すでに五人の猫又にお断りをされていた。それでは、彼女たちの言い分を聞いてみよう。
三毛の猫又 さゆりさん
「都会暮らしが長くて、今更山で暮らそうと思えません」
アメリカンショートヘアの猫又 アリスさん
「男らしさをはき違えてる気がするわ。とにかく生理的に無理」
サビの猫又 小麦さん
「年老いた両親のそばを離れて生活したいと思いません、今回はご縁が無かったという事で」
キジ虎の猫又 ももさん
「やっぱり、犬と生活するのはおっかなくて……猫又になったからには面白楽しく暮らしたいですから」
鍋島の脳裏に浮かぶ数々の断り文句。鍋島は歯がゆくて頭を抱えた。
「思えばあっちは性格はキツそうだったし、こっちは毛並みが良くなかった……」
「ねー、やっぱり犬は諦めましょうよ。結婚生活には妥協も必要ですよ。これは既婚者からのアドバイスです」
「む? お前、伴侶がいるのか。一度も見た事がないが……」
「ああ、まあ……そう、出かけてるんですよ。出かけただけ……」
鍋島のシンプルな疑問が衛に突き刺さった。出かけただけであればどんなに良かったか。
「さて、困った。この辺りの猫又にはもう声をかけてしまった。西の方の猫又にも頼むかね」
ミユキも思案顔でお手製の猫又のリストを見ている。そこにボス猫夫婦がやってきた。
『西のボスに話を通すなら我らを介して貰おうか』
「ああ、もちろんさ。いい人を紹介してくれたら液状のおやつをつけてもいいよ」
『おお、噂のあれか……なるほど、承知した』
打ち合わせを続けるミユキとボス猫夫婦を横に、鍋島はふらりと立ち上がった。
「あっ、どこ行くんですか?」
「ちょっと散歩してくる……」
「じゃあ瑞葉も!」
衛と瑞葉は憔悴した鍋島の様子が気になって後を追った。歩きながら鍋島が呟く。
「なにがいけないんだろうな」
「だから犬じゃないですか?」
「本当に俺と一緒になりたかったら犬くらい我慢できるだろう」
「それもそうかも知れませんけど」
「逆に俺もどうしても一緒になりたい相手が居たら、犬くらい諦めるさ」
ということはピンと来た相手は居なかったという事だ。鍋島は人もまばらな不動尊の境内まで来ると、ため息をついて腰を下ろした。
「すまん、つい息苦しくなって……」
「いいえ、きっといい人が見つかりますよ、頑張りましょう」
「ファイトだよ、鍋さん」
瑞葉は鍋島の肩を慰めるように叩いた。
「なんだ、しけたつらをした男共だな」
そこに話しかけてきたのは、出世稲荷の使いの葉月である。
「あ、葉月さん」
『あー、よろず屋のおじさん』
「白玉ちゃん!」
瑞葉が嬉しそうな声をあげる。葉月の足下から姿を見せたのは白玉である。白玉は足腰もしっかりして少し小柄ではあるものの、もうほとんど成猫と変わらないくらいに成長していた。
「おー、白玉大きくなったな」
『こんにちは。そっちのおにいさんは』
「ああ、よろず屋のお客さんだよ」
『ってことはあやかしなのね』
白玉は鍋島があやかしと分かるととてとてと近づいて行った。
『なんだか近い匂いがするわ』
「ああ、俺は猫又だからな。名は鍋島という」
『へぇぇーっ』
すると、葉月が白玉を抱き上げてからかうように言った。
「そうだ、白玉の特技をこいつらに見て貰うといい」
『えーっ、まだ下手くそだよ?』
「私が手伝ってやるから」
『母様が一緒なら、白玉やってみる』
そうか、と葉月が返事をして白玉を撫でると白い煙が辺りに満ちた。
「どうですか、おかしくないですか?」
そこには白い着物に白い髪の十二歳くらいの少女がいた。こちらを見る青い瞳で白玉が変化したものと分かる。
「おお、すごいな。猫又でもないのに」
「白玉ちゃん、すごい!」
『母様と練習しました!』
「ふふ、どうだ。稲荷の加護で変化の術まで覚えたのだ。さすが我が娘」
葉月は衛と瑞葉と鍋島に鼻高々に自分の養い子を自慢した。葉月はただ単純に白玉の成長を見せびらかしたかっただけなのだが、それで終わらない男が一人いた。
「……かわいい」
「本当ですかー。よかった」
鍋島は惚けたように、白玉に向かって呟いた。褒められた白玉は単純に嬉しそうである。
「すごいかわいい。え、いくつ」
「まだ、8ヶ月です」
衛はおいおいと鍋島に心の中で突っ込んだ。それではまるでナンパである。そして実年齢はともかく、鍋島の見た目は金髪の若い男であり、白玉は中学生くらいにしか見えない。
「まだ変化がうまく無くて、髪が白いままなの。これだと街中は歩けないって母様が」
「ああ、毛色を隠すのは大変だものな。俺は普段からこのままだ」
「へぇ、キレイな金色……」
白玉が鍋島の髪を撫でる。お返しに、とでも言うように鍋島も白玉の髪をなでる。この絵面はちょっとやばいんじゃないの、と衛が思った瞬間けたたましいベルが皆の耳を襲った。
「なっなんだ!?」
「ロリコンがいたら-! これ鳴らせってー! パパがー!」
騒音の元凶は瑞葉の防犯ブザーだった。
「わかった、わかったから音をとめよ?」
衛はとりあえずうるさくてたまらないので瑞葉の防犯ブザーの音を止めた。そんな二人を鍋島と白玉がきょとんと見ている。一方白玉の保護者の葉月はどうしているかというと。
「ははは、鍋島殿。白玉が気に入ったか」
そう言って、腹を抱えて笑っている。
「笑っている場合ですか……!」
「ふふん。まぁ白玉は美しい子だからな。目を奪われるのも当然だ」
「母様、ちょっと」
白玉が恥ずかしそうに葉月の袖を引いた。そんな葉月に鍋島は問いかけた。
「そこな狐様が白玉の母御かい」
「そうだぞ、いかにも私が白玉の養い親だ」
「白玉を妻に迎えたいがどうか」
その時、白玉が息を飲むのが聞こえた。頬を抑えた顔は真っ赤である。
「めんどくさいお姑様がついとるぞ」
「かまわん」
「私は白玉を遠くへ手放す気はないぞ」
「一向にかまわん」
「ふーむ?」
衛は子供相手にふざけているのか、と思ったが鍋島の様子は至って真面目である。そして葉月もだんだんとその本気であることが分かったのだろう。からかうような口調はやがて真剣なものに変わっていった。
「のう、鍋島。白玉は見ての通りまだ子供だ。おぬし、他のおなごにうつつを抜かさずまてるか」
「無論、待てる」
「そうか、では白玉が猫又になった頃、また来るがいい」
葉月は鍋島にそう条件をつけた。鍋島はその言葉に力強く頷いた。
「衛さん、俺は一度『たつ屋』に戻る。ミユキ殿に謝らなくては」
「えっ、あ……はい」
鍋島はそう言い残すと、来た道を駆けていった。
「……いいんですか、あんな事言って。猫又になるのに二十年もかかるんでしょ」
「そうさの、白玉は稲荷の加護があるからもう少し早いと思うがな」
「……意地悪ですね」
衛が責めるようにそう言うと、葉月は首をすくめて言った。
「まあ子供の恋路を邪魔するような無粋はしたくないのでねぇ」
「……はぁ? 白玉があの猫又に恋してるとでも??」
衛が驚いて、白玉を見ると白玉は顔を真っ赤にして頷いた。それを見ながら葉月はこう付け加えた。
「知っておるか。猫は雌が恋をしてはじめて雄が恋をするのだぞ」
そして黒猫の猫又が立ち去った時、鍋島は地面を叩いた。
「どうして……みんな!」
「鍋島さん、犬を飼うのはどうしても譲れないですか」
崩れ落ちる鍋島に衛が気の毒そうに声をかける。
「大好きな歌の歌詞に出てきて……歌おうか」
「結構です」
「それにしても、どいつもこいつも勝手な事ばかり……」
そう、鍋島が玉砕したのは初日と今日だけではない。すでに五人の猫又にお断りをされていた。それでは、彼女たちの言い分を聞いてみよう。
三毛の猫又 さゆりさん
「都会暮らしが長くて、今更山で暮らそうと思えません」
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「男らしさをはき違えてる気がするわ。とにかく生理的に無理」
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「年老いた両親のそばを離れて生活したいと思いません、今回はご縁が無かったという事で」
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「やっぱり、犬と生活するのはおっかなくて……猫又になったからには面白楽しく暮らしたいですから」
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「思えばあっちは性格はキツそうだったし、こっちは毛並みが良くなかった……」
「ねー、やっぱり犬は諦めましょうよ。結婚生活には妥協も必要ですよ。これは既婚者からのアドバイスです」
「む? お前、伴侶がいるのか。一度も見た事がないが……」
「ああ、まあ……そう、出かけてるんですよ。出かけただけ……」
鍋島のシンプルな疑問が衛に突き刺さった。出かけただけであればどんなに良かったか。
「さて、困った。この辺りの猫又にはもう声をかけてしまった。西の方の猫又にも頼むかね」
ミユキも思案顔でお手製の猫又のリストを見ている。そこにボス猫夫婦がやってきた。
『西のボスに話を通すなら我らを介して貰おうか』
「ああ、もちろんさ。いい人を紹介してくれたら液状のおやつをつけてもいいよ」
『おお、噂のあれか……なるほど、承知した』
打ち合わせを続けるミユキとボス猫夫婦を横に、鍋島はふらりと立ち上がった。
「あっ、どこ行くんですか?」
「ちょっと散歩してくる……」
「じゃあ瑞葉も!」
衛と瑞葉は憔悴した鍋島の様子が気になって後を追った。歩きながら鍋島が呟く。
「なにがいけないんだろうな」
「だから犬じゃないですか?」
「本当に俺と一緒になりたかったら犬くらい我慢できるだろう」
「それもそうかも知れませんけど」
「逆に俺もどうしても一緒になりたい相手が居たら、犬くらい諦めるさ」
ということはピンと来た相手は居なかったという事だ。鍋島は人もまばらな不動尊の境内まで来ると、ため息をついて腰を下ろした。
「すまん、つい息苦しくなって……」
「いいえ、きっといい人が見つかりますよ、頑張りましょう」
「ファイトだよ、鍋さん」
瑞葉は鍋島の肩を慰めるように叩いた。
「なんだ、しけたつらをした男共だな」
そこに話しかけてきたのは、出世稲荷の使いの葉月である。
「あ、葉月さん」
『あー、よろず屋のおじさん』
「白玉ちゃん!」
瑞葉が嬉しそうな声をあげる。葉月の足下から姿を見せたのは白玉である。白玉は足腰もしっかりして少し小柄ではあるものの、もうほとんど成猫と変わらないくらいに成長していた。
「おー、白玉大きくなったな」
『こんにちは。そっちのおにいさんは』
「ああ、よろず屋のお客さんだよ」
『ってことはあやかしなのね』
白玉は鍋島があやかしと分かるととてとてと近づいて行った。
『なんだか近い匂いがするわ』
「ああ、俺は猫又だからな。名は鍋島という」
『へぇぇーっ』
すると、葉月が白玉を抱き上げてからかうように言った。
「そうだ、白玉の特技をこいつらに見て貰うといい」
『えーっ、まだ下手くそだよ?』
「私が手伝ってやるから」
『母様が一緒なら、白玉やってみる』
そうか、と葉月が返事をして白玉を撫でると白い煙が辺りに満ちた。
「どうですか、おかしくないですか?」
そこには白い着物に白い髪の十二歳くらいの少女がいた。こちらを見る青い瞳で白玉が変化したものと分かる。
「おお、すごいな。猫又でもないのに」
「白玉ちゃん、すごい!」
『母様と練習しました!』
「ふふ、どうだ。稲荷の加護で変化の術まで覚えたのだ。さすが我が娘」
葉月は衛と瑞葉と鍋島に鼻高々に自分の養い子を自慢した。葉月はただ単純に白玉の成長を見せびらかしたかっただけなのだが、それで終わらない男が一人いた。
「……かわいい」
「本当ですかー。よかった」
鍋島は惚けたように、白玉に向かって呟いた。褒められた白玉は単純に嬉しそうである。
「すごいかわいい。え、いくつ」
「まだ、8ヶ月です」
衛はおいおいと鍋島に心の中で突っ込んだ。それではまるでナンパである。そして実年齢はともかく、鍋島の見た目は金髪の若い男であり、白玉は中学生くらいにしか見えない。
「まだ変化がうまく無くて、髪が白いままなの。これだと街中は歩けないって母様が」
「ああ、毛色を隠すのは大変だものな。俺は普段からこのままだ」
「へぇ、キレイな金色……」
白玉が鍋島の髪を撫でる。お返しに、とでも言うように鍋島も白玉の髪をなでる。この絵面はちょっとやばいんじゃないの、と衛が思った瞬間けたたましいベルが皆の耳を襲った。
「なっなんだ!?」
「ロリコンがいたら-! これ鳴らせってー! パパがー!」
騒音の元凶は瑞葉の防犯ブザーだった。
「わかった、わかったから音をとめよ?」
衛はとりあえずうるさくてたまらないので瑞葉の防犯ブザーの音を止めた。そんな二人を鍋島と白玉がきょとんと見ている。一方白玉の保護者の葉月はどうしているかというと。
「ははは、鍋島殿。白玉が気に入ったか」
そう言って、腹を抱えて笑っている。
「笑っている場合ですか……!」
「ふふん。まぁ白玉は美しい子だからな。目を奪われるのも当然だ」
「母様、ちょっと」
白玉が恥ずかしそうに葉月の袖を引いた。そんな葉月に鍋島は問いかけた。
「そこな狐様が白玉の母御かい」
「そうだぞ、いかにも私が白玉の養い親だ」
「白玉を妻に迎えたいがどうか」
その時、白玉が息を飲むのが聞こえた。頬を抑えた顔は真っ赤である。
「めんどくさいお姑様がついとるぞ」
「かまわん」
「私は白玉を遠くへ手放す気はないぞ」
「一向にかまわん」
「ふーむ?」
衛は子供相手にふざけているのか、と思ったが鍋島の様子は至って真面目である。そして葉月もだんだんとその本気であることが分かったのだろう。からかうような口調はやがて真剣なものに変わっていった。
「のう、鍋島。白玉は見ての通りまだ子供だ。おぬし、他のおなごにうつつを抜かさずまてるか」
「無論、待てる」
「そうか、では白玉が猫又になった頃、また来るがいい」
葉月は鍋島にそう条件をつけた。鍋島はその言葉に力強く頷いた。
「衛さん、俺は一度『たつ屋』に戻る。ミユキ殿に謝らなくては」
「えっ、あ……はい」
鍋島はそう言い残すと、来た道を駆けていった。
「……いいんですか、あんな事言って。猫又になるのに二十年もかかるんでしょ」
「そうさの、白玉は稲荷の加護があるからもう少し早いと思うがな」
「……意地悪ですね」
衛が責めるようにそう言うと、葉月は首をすくめて言った。
「まあ子供の恋路を邪魔するような無粋はしたくないのでねぇ」
「……はぁ? 白玉があの猫又に恋してるとでも??」
衛が驚いて、白玉を見ると白玉は顔を真っ赤にして頷いた。それを見ながら葉月はこう付け加えた。
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