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「すまなかった……リアム」
全ての報告を受けたアンリ殿下は沈痛な面持ちでリアムに謝罪した。原型もとどめぬほど損傷したユージーンであったが、その変化とリアムへの攻撃は多数の兵士が目撃していた。
「ユージーン……馬鹿なことを」
唯一残った一筋の銀髪を手に、アンリはそれきり沈黙した。
その後、討伐隊は解散された。そして新たに皇太子が再編成し、残りの迷宮の討伐に当たった。
それを見届けると、アンリは辺境の教会に身を寄せた。今回の騒動の責任を負うためにしてはあまりに厳しい、とリアムは感じた。しかし、アンリがそう望むのならば仕方ない。
「ようやっと肩の荷が下りたね。イサイアス。皇太子殿下から獣人保護の拠点の許可も貰ったし」
王都の宿でリアムはエヴァンズ男爵から報告を受けた。これで依頼はすべてこなした。
一時くつろいで二人がお茶を飲んでいると、部屋の扉がノックされた。
「何だろ……はい」
リアムが扉を開けると、そこにはルルが立っていた。
「ルル……!?」
「リアム様!」
「どうしたの……? 討伐隊は?」
魔法兵は貴重な存在だ。特に治癒魔法も使えるルルのような者は少ない。ルルは新しい討伐隊に任命されたと聞いていた。
「やめちゃいました!」
「ええ……?」
「もっと早くに辞めるべきでした。私はリアム様についていきます」
キラキラした笑顔を浮かべるルルを、リアムはどうしたもんかと眺めた。
「え、でも僕はもう神子じゃないよ。これからイサイアスと獣人の地位向上のために働くんだ」
「素敵です! 是非私にも手伝わせてください!」
「ええ……?」
助けを求めてイサイアスを見ると、彼は優しく微笑んでいた。
「いいじゃないか。人手は歓迎だよ」
「ほら! イサイアス様もああおっしゃっているじゃないですか」
「しかたないな……ルル。お願いします。では拠点の建物を探して、これからの活動計画を立てて……うん、やることが沢山あるな」
今後の予定にリアムが胸を高鳴らせていると、イサイアスがその肩を叩いた。
「……何?」
「肝心なことを忘れてるだろ、リアム。竜人の里に行こう。結婚式だ」
「結婚式……ああ……そっか」
なんだかむず痒い。イサイアスの一族ははたして自分を家族として迎え入れてくれるだろうか。
「そんな不安そうな顔をすることはないぞ。俺が選んだ『運命の花嫁』だ」
「うん……」
イサイアスの口づけは優しくて甘くて、不安なんて吹き飛んでしまう。
「……こほん。その結婚式、私も出席していいんですかね」
「あっ、ルル……そうだね。頼むよ。友人として」
「友人……はい! 喜んで」
あの死の森の絶望が信じられないほど、リアムは幸せで幸せで仕方が無かった。
完
全ての報告を受けたアンリ殿下は沈痛な面持ちでリアムに謝罪した。原型もとどめぬほど損傷したユージーンであったが、その変化とリアムへの攻撃は多数の兵士が目撃していた。
「ユージーン……馬鹿なことを」
唯一残った一筋の銀髪を手に、アンリはそれきり沈黙した。
その後、討伐隊は解散された。そして新たに皇太子が再編成し、残りの迷宮の討伐に当たった。
それを見届けると、アンリは辺境の教会に身を寄せた。今回の騒動の責任を負うためにしてはあまりに厳しい、とリアムは感じた。しかし、アンリがそう望むのならば仕方ない。
「ようやっと肩の荷が下りたね。イサイアス。皇太子殿下から獣人保護の拠点の許可も貰ったし」
王都の宿でリアムはエヴァンズ男爵から報告を受けた。これで依頼はすべてこなした。
一時くつろいで二人がお茶を飲んでいると、部屋の扉がノックされた。
「何だろ……はい」
リアムが扉を開けると、そこにはルルが立っていた。
「ルル……!?」
「リアム様!」
「どうしたの……? 討伐隊は?」
魔法兵は貴重な存在だ。特に治癒魔法も使えるルルのような者は少ない。ルルは新しい討伐隊に任命されたと聞いていた。
「やめちゃいました!」
「ええ……?」
「もっと早くに辞めるべきでした。私はリアム様についていきます」
キラキラした笑顔を浮かべるルルを、リアムはどうしたもんかと眺めた。
「え、でも僕はもう神子じゃないよ。これからイサイアスと獣人の地位向上のために働くんだ」
「素敵です! 是非私にも手伝わせてください!」
「ええ……?」
助けを求めてイサイアスを見ると、彼は優しく微笑んでいた。
「いいじゃないか。人手は歓迎だよ」
「ほら! イサイアス様もああおっしゃっているじゃないですか」
「しかたないな……ルル。お願いします。では拠点の建物を探して、これからの活動計画を立てて……うん、やることが沢山あるな」
今後の予定にリアムが胸を高鳴らせていると、イサイアスがその肩を叩いた。
「……何?」
「肝心なことを忘れてるだろ、リアム。竜人の里に行こう。結婚式だ」
「結婚式……ああ……そっか」
なんだかむず痒い。イサイアスの一族ははたして自分を家族として迎え入れてくれるだろうか。
「そんな不安そうな顔をすることはないぞ。俺が選んだ『運命の花嫁』だ」
「うん……」
イサイアスの口づけは優しくて甘くて、不安なんて吹き飛んでしまう。
「……こほん。その結婚式、私も出席していいんですかね」
「あっ、ルル……そうだね。頼むよ。友人として」
「友人……はい! 喜んで」
あの死の森の絶望が信じられないほど、リアムは幸せで幸せで仕方が無かった。
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