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馬車はそれからあっという間に彼らを王都へと運んでいった。
第一級規模迷宮に向かう前に、三人は皇太子に会うことになっていた。
「皇太子か……神子の叙任式で会ったきりですね」
その時の印象に特に強いものはない。アンリによく似た金髪の男で、少し背が高かった、それくらいしか覚えていない。
「ここだ」
「え?」
エヴァンズが馬車を止めた場所を見て、リアムは首を傾げた。
てっきり王宮に行くものとばかり思っていたのに、そこは盛り場にある酒場だったからだ。
「今回、我々には殿下はお忍びで会われる」
「ああ……そういう……」
その酒場は大きな店だった。昼だというのに開いていて、酒を飲むもの、女を侍らすもの、何かの煙を燻らすもの、と退廃的な空気が漂っている。
「こっちだ」
リアムたちはエヴァンズに連れられて、店の奥へと向かった。その先には目立たないドアがあり、それは地下への階段が続いていた。
「……こんなところに殿下がいらしゃるんですか?」
リアムは少々不安になってエヴァンズに聞いた。
「ここは都の芸術家や作家や学者がたむろする場所なんだ。殿下は国内の情勢をいち早く知る為に時折身分を隠して出入りしているのさ」
地下の部屋に行き着くと、エヴァンズは扉をリズミカルに叩いた。それが符丁になっていたらしく、すぐに扉が開いた。
「やあ」
かび臭い薄暗い部屋の空気を一変させるような男がカウチに寝そべっていた。地味な色味の服を着ていたが、生地も仕立ても良く、只者ではない雰囲気が漂っている。
「詩人のアルフィーことアルフレッドだ」
「殿下、お目にかかれて光栄です」
リアムたちは膝をついて、皇太子アルフレッドに頭を垂れた。
すると皇太子は笑いながらカウチから身を起こす。
「ははは、ここではそういうのはやめてくれ。リアム、そして竜人のイサイアス。君らの評判は聞いているよ」
「いえ……そんな」
「迷宮核を発見して、それを破壊するなんて大した物だ」
そう言って皇太子は手を叩いた。
「だが……すまなかったね。アンリが君を不当に扱ったことは本当に……王族として謝罪する」
「皇太子殿下、僕は謝って欲しい訳では……」
「そうだな。では私がするべきことをしよう」
皇太子は座り直すと、じっとリアムとイサイアスの目を見て、口を開いた。
「私はこれから第一級大規模迷宮にてこ入れをする。迷宮は崩壊期と予測されているにも関わらず、活性化してきている。だが、この異常事態に対し、アンリの指揮する討伐軍の士気は落ちている。その原因はあの新しい神子だ」
「……はい」
リアムが頷くと、皇太子は言葉を続けた。
「あの神子は教会の派閥と宮廷のフォンテーヌ伯爵家の一派が手を組んで送り込んできた者だ」
「孤児出身の神子の僕を面白くなく思っている人たちがいたのは承知しています」
「確かに強力な力を持っている彼だからこそ、王は新たな神子として受け入れた。アンリも王命とあらば引き受けなければならなかっただろう。だが、これまで神子としてつつがなく職務を全うしてきたリアムを害する理由にはならない。暴行事件があったと聞いたが、あのような処分を下すのではなく、慎重にすべきだった」
ここまではリアムたちがエヴァンズから事前に聞かされていた内容だった。
「そこで私と父王はあのユージーンを排除すべきと結論をだした。だが……一度は王命で任についた者だ。表だって失態がないのに下ろせば角が立つ」
「……面倒なものなのだな」
イサイアスがそんなことをぼそっと呟いたので、リアムは慌てて口を開いた。
「そ、それで、我々はどうしたらいいのでしょうか」
「調査隊という名目で討伐軍に人を送る。そこに参加してもらいたい」
「直接乗り込む訳ですか……」
「王家からの正規の派遣だ。堂々としていたらいい」
「……」
第一級規模迷宮に向かう前に、三人は皇太子に会うことになっていた。
「皇太子か……神子の叙任式で会ったきりですね」
その時の印象に特に強いものはない。アンリによく似た金髪の男で、少し背が高かった、それくらいしか覚えていない。
「ここだ」
「え?」
エヴァンズが馬車を止めた場所を見て、リアムは首を傾げた。
てっきり王宮に行くものとばかり思っていたのに、そこは盛り場にある酒場だったからだ。
「今回、我々には殿下はお忍びで会われる」
「ああ……そういう……」
その酒場は大きな店だった。昼だというのに開いていて、酒を飲むもの、女を侍らすもの、何かの煙を燻らすもの、と退廃的な空気が漂っている。
「こっちだ」
リアムたちはエヴァンズに連れられて、店の奥へと向かった。その先には目立たないドアがあり、それは地下への階段が続いていた。
「……こんなところに殿下がいらしゃるんですか?」
リアムは少々不安になってエヴァンズに聞いた。
「ここは都の芸術家や作家や学者がたむろする場所なんだ。殿下は国内の情勢をいち早く知る為に時折身分を隠して出入りしているのさ」
地下の部屋に行き着くと、エヴァンズは扉をリズミカルに叩いた。それが符丁になっていたらしく、すぐに扉が開いた。
「やあ」
かび臭い薄暗い部屋の空気を一変させるような男がカウチに寝そべっていた。地味な色味の服を着ていたが、生地も仕立ても良く、只者ではない雰囲気が漂っている。
「詩人のアルフィーことアルフレッドだ」
「殿下、お目にかかれて光栄です」
リアムたちは膝をついて、皇太子アルフレッドに頭を垂れた。
すると皇太子は笑いながらカウチから身を起こす。
「ははは、ここではそういうのはやめてくれ。リアム、そして竜人のイサイアス。君らの評判は聞いているよ」
「いえ……そんな」
「迷宮核を発見して、それを破壊するなんて大した物だ」
そう言って皇太子は手を叩いた。
「だが……すまなかったね。アンリが君を不当に扱ったことは本当に……王族として謝罪する」
「皇太子殿下、僕は謝って欲しい訳では……」
「そうだな。では私がするべきことをしよう」
皇太子は座り直すと、じっとリアムとイサイアスの目を見て、口を開いた。
「私はこれから第一級大規模迷宮にてこ入れをする。迷宮は崩壊期と予測されているにも関わらず、活性化してきている。だが、この異常事態に対し、アンリの指揮する討伐軍の士気は落ちている。その原因はあの新しい神子だ」
「……はい」
リアムが頷くと、皇太子は言葉を続けた。
「あの神子は教会の派閥と宮廷のフォンテーヌ伯爵家の一派が手を組んで送り込んできた者だ」
「孤児出身の神子の僕を面白くなく思っている人たちがいたのは承知しています」
「確かに強力な力を持っている彼だからこそ、王は新たな神子として受け入れた。アンリも王命とあらば引き受けなければならなかっただろう。だが、これまで神子としてつつがなく職務を全うしてきたリアムを害する理由にはならない。暴行事件があったと聞いたが、あのような処分を下すのではなく、慎重にすべきだった」
ここまではリアムたちがエヴァンズから事前に聞かされていた内容だった。
「そこで私と父王はあのユージーンを排除すべきと結論をだした。だが……一度は王命で任についた者だ。表だって失態がないのに下ろせば角が立つ」
「……面倒なものなのだな」
イサイアスがそんなことをぼそっと呟いたので、リアムは慌てて口を開いた。
「そ、それで、我々はどうしたらいいのでしょうか」
「調査隊という名目で討伐軍に人を送る。そこに参加してもらいたい」
「直接乗り込む訳ですか……」
「王家からの正規の派遣だ。堂々としていたらいい」
「……」
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