上 下
25 / 45

25.

しおりを挟む
 翌日から討伐部隊は迷宮ダンジョン周囲で活動を始めた。

「やっぱり人数がいると違うね」

 リアムとイサイアスだけで魔獣を狩っていた時は迷宮ダンジョンから湧き出してくるスピードに追いつかなくて歯がゆかった。
 だけどこの厳選された戦士たちのおかげで、周辺の魔獣はみるみる数を減らしていった。

「今後どうするかだな」

 一日の活動が終わると、討伐部隊の宿舎でディオニシオを中心として会議が開かれる。
 今日の議題は迷宮ダンジョンの魔物をどう追い込むかということだった。

「後は出口で出てきたところを叩くしかないだろ」

 豹頭のケインがそう言うのに、アルトは噛みついた。

「そんな間怠っこしいことしないで、迷宮ダンジョンの中に入ればいいじゃないか」
「危険だ。視界も足下も悪い。わざわざそんなことをする必要はない」
「もしかしたら迷宮核ダンジョンコアが見つかるかもしれないじゃねぇか」
迷宮核ダンジョンコア! そんな噂話を信じているのか!?」

 ケインに笑い飛ばされ、アルトはなんだと、とガタッと席を立った。

「そこまで。喧嘩をするな」

 迷宮核ダンジョンコアというのは迷宮ダンジョンの奥底にあるというもので、それが地中や大気中の瘴気を吸い上げて濃縮し、吐き出しているのだ、と言われているものだ。
 ただしそれは学者が仮説として言っていることで、実際に迷宮核ダンジョンコアを見つけたものはいない。

「本当に見つかったらいいけどね」

 それこそ大発見だ。そうなったら国の各地に存在している迷宮ダンジョンへの対処が劇的に変わる。長い時間をかけて削り取るしかなかったものが、内部から壊すことが可能になるのだ。

「だって俺たちが居られるのはあと五日だぜ、リアム」
「うん……アルトの気持ちは嬉しいけど、安全に行こう。ね」

 アルトは不満そうな顔をしていたが、残りの日数は迷宮ダンジョン前で大物を狩ることに決まった。

***

 ドーンと土埃を上げて黒い魔獣の体が倒れた。
 翌日も迷宮ダンジョンに来た討伐対は、精力的に魔獣を狩っていた。
 大きな死体に足をかけて、イサイアスが魔獣の顔を覗き込んでいる。

「これは元は熊か?」
「元々大きいのにさらに大きくなると厄介だね」

 瘴気というものは不思議なものだ。小さな虫や鳥さえも、巨大で獰猛に変えてしまう。
 人間に取り憑くとその身を滅ぼしてしまうくせに、動物は迷宮ダンジョンという一個の生物の手足のようにその性質を変えるのだ。

「今日はこれでいいんじゃないかな」
「そろそろ仕舞にするか。おーい、みんな集まってくれ」

 イサイアスがそう皆に声をかけた時だった。
 顔色を真っ青にしたケインが迷宮ダンジョンの入り口から走ってきた。

「大変だ! アルトが居ない!!」
「え?」
「さっきまで魔獣の探索をしていたのに、姿が見えないんだ」
「まさか……迷宮ダンジョンの中に?」

 リアムがそう呟くと、皆の間に一気に緊張感が走った。

「いくらなんでもそこまで……」
「でも、もしそうだったら手遅れになる!」

 リアムは迷宮ダンジョンの入り口に向かって一気に走った。入り口は暗く、禍々しく口を開け、生物の気配はない。

「リアム!」

 入り口をうかがっているうちに、イサイアスとディオニシオが追いついてきた。

「落ち着けリアム」

 そう言いながらディオニシオはリアムの腕を取った。

「ディオニシオさん。僕は冷静ですよ。僕なら障壁シールドを張れるし、周囲の瘴気なら浄化できる。僕が探すのが一番いいんです」
「だが……」
「それに、この村を助けに来てくれた人を絶対に死なせたりできません」

 リアムはディオニシオにそう説明した。それでもディオニシオは手を離してくれない。そんなディオニシオの手を剥がしたのはイサイアスだった。

「叔父さん、リアムに行かせよう」
「お前はそれでいいのか」
「良いわけないでしょう。俺も一緒に行く。リアム、前に言ったな。お前を守れって」
「イサイアス……」

 リアムはイサイアスの手を握った。

「僕のこと信じて」
「……ああ」
「まったく……緊急事態だ。仕方ない。ではこれを持って行け。呼び笛だ。何かあったら鳴らすんだ」
「はい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙
BL
薬学部に通う理人は植物採集に山に行った際、救世主として異世界に召喚されるが、熊の獣人に拾われてツガイにされてしまい、もう元の世界には帰れない身体になったと言われる。そして、世界の終わりの原因は伝染病だと判明し……。 

絶滅危惧種ケモ耳獣人の俺、絶滅回避のためお嫁さんを探す旅に出たはずが、美形薬師に捕獲され甘い檻に閉じ込められる

あさ田ぱん
BL
 クオッカワラビー(正式名称クオッカ)の獣人は人懐こく可愛らしい。しかしその、人懐こい性格と可愛らしい容姿から人間に攫われ続けて今、絶滅寸前。最後の一人になったセレンは絶滅回避のためお嫁さんを探す旅にでるのだが、神の加護のある『奇跡の山』を出た途端、人間の仕掛けた罠に嵌って足を怪我する。それを助けたのは美形の薬師ルーク。ルークは迂闊で世間知らずなセレンを助けてくれる。セレンはそんなルークを好きになるけどルークは男、お嫁さんには出来ない…!どうするセレン!? 美形の薬師ルーク×可愛くてあんまり賢くないもふもふの獣人セレン R-18は※

幻想彼氏

たいよう一花
BL
※18禁BL※ 皓一が想像から作り上げた、最高の理想の恋人――幻想彼氏。 その幻の彼氏がある日突然、血肉を具えた実在の人物として皓一の目の前に現れる。 皓一は男に魅入られ、幻想彼氏との日々が現実だと思い始めるが、皓一に片思いしている大学生の健斗は、怪しい男の正体を突き止めようと動き出す。 スパダリ(人外)→ 主人公(不幸な過去あり)← イケメン大学生(年下ワンコ) ※触手OKな腐女子に贈る、人外攻めの異種姦・執着愛BLです。 ※秘められた悲しい過去を持つ主人公が、幻想彼氏に擬態したスパダリ(人外)にぐちょぐちょのぬるぬるにされつつ、とことん愛されます。 ※そこにワンコ系年下イケメンが主人公を狙って絡んできます。 ※18禁ですので、お子さまは読まないでください。過激な描写に耐性のある大人の方のみ、読者さまとして歓迎します。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称などは架空であり、実在のものとは関係ありません。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった

佐伯亜美
BL
 この世界は獣人と人間が共生している。  それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。  その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。  その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。 「なんで……嘘つくんですか?」  今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

何故か僕が溺愛(すげえ重いが)される話

ヤンデレ勇者
BL
とりあえず主人公が九尾の狐に溺愛される話です

処理中です...