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翌日から討伐部隊は迷宮周囲で活動を始めた。
「やっぱり人数がいると違うね」
リアムとイサイアスだけで魔獣を狩っていた時は迷宮から湧き出してくるスピードに追いつかなくて歯がゆかった。
だけどこの厳選された戦士たちのおかげで、周辺の魔獣はみるみる数を減らしていった。
「今後どうするかだな」
一日の活動が終わると、討伐部隊の宿舎でディオニシオを中心として会議が開かれる。
今日の議題は迷宮の魔物をどう追い込むかということだった。
「後は出口で出てきたところを叩くしかないだろ」
豹頭のケインがそう言うのに、アルトは噛みついた。
「そんな間怠っこしいことしないで、迷宮の中に入ればいいじゃないか」
「危険だ。視界も足下も悪い。わざわざそんなことをする必要はない」
「もしかしたら迷宮核が見つかるかもしれないじゃねぇか」
「迷宮核! そんな噂話を信じているのか!?」
ケインに笑い飛ばされ、アルトはなんだと、とガタッと席を立った。
「そこまで。喧嘩をするな」
迷宮核というのは迷宮の奥底にあるというもので、それが地中や大気中の瘴気を吸い上げて濃縮し、吐き出しているのだ、と言われているものだ。
ただしそれは学者が仮説として言っていることで、実際に迷宮核を見つけたものはいない。
「本当に見つかったらいいけどね」
それこそ大発見だ。そうなったら国の各地に存在している迷宮への対処が劇的に変わる。長い時間をかけて削り取るしかなかったものが、内部から壊すことが可能になるのだ。
「だって俺たちが居られるのはあと五日だぜ、リアム」
「うん……アルトの気持ちは嬉しいけど、安全に行こう。ね」
アルトは不満そうな顔をしていたが、残りの日数は迷宮前で大物を狩ることに決まった。
***
ドーンと土埃を上げて黒い魔獣の体が倒れた。
翌日も迷宮に来た討伐対は、精力的に魔獣を狩っていた。
大きな死体に足をかけて、イサイアスが魔獣の顔を覗き込んでいる。
「これは元は熊か?」
「元々大きいのにさらに大きくなると厄介だね」
瘴気というものは不思議なものだ。小さな虫や鳥さえも、巨大で獰猛に変えてしまう。
人間に取り憑くとその身を滅ぼしてしまうくせに、動物は迷宮という一個の生物の手足のようにその性質を変えるのだ。
「今日はこれでいいんじゃないかな」
「そろそろ仕舞にするか。おーい、みんな集まってくれ」
イサイアスがそう皆に声をかけた時だった。
顔色を真っ青にしたケインが迷宮の入り口から走ってきた。
「大変だ! アルトが居ない!!」
「え?」
「さっきまで魔獣の探索をしていたのに、姿が見えないんだ」
「まさか……迷宮の中に?」
リアムがそう呟くと、皆の間に一気に緊張感が走った。
「いくらなんでもそこまで……」
「でも、もしそうだったら手遅れになる!」
リアムは迷宮の入り口に向かって一気に走った。入り口は暗く、禍々しく口を開け、生物の気配はない。
「リアム!」
入り口をうかがっているうちに、イサイアスとディオニシオが追いついてきた。
「落ち着けリアム」
そう言いながらディオニシオはリアムの腕を取った。
「ディオニシオさん。僕は冷静ですよ。僕なら障壁を張れるし、周囲の瘴気なら浄化できる。僕が探すのが一番いいんです」
「だが……」
「それに、この村を助けに来てくれた人を絶対に死なせたりできません」
リアムはディオニシオにそう説明した。それでもディオニシオは手を離してくれない。そんなディオニシオの手を剥がしたのはイサイアスだった。
「叔父さん、リアムに行かせよう」
「お前はそれでいいのか」
「良いわけないでしょう。俺も一緒に行く。リアム、前に言ったな。お前を守れって」
「イサイアス……」
リアムはイサイアスの手を握った。
「僕のこと信じて」
「……ああ」
「まったく……緊急事態だ。仕方ない。ではこれを持って行け。呼び笛だ。何かあったら鳴らすんだ」
「はい!」
「やっぱり人数がいると違うね」
リアムとイサイアスだけで魔獣を狩っていた時は迷宮から湧き出してくるスピードに追いつかなくて歯がゆかった。
だけどこの厳選された戦士たちのおかげで、周辺の魔獣はみるみる数を減らしていった。
「今後どうするかだな」
一日の活動が終わると、討伐部隊の宿舎でディオニシオを中心として会議が開かれる。
今日の議題は迷宮の魔物をどう追い込むかということだった。
「後は出口で出てきたところを叩くしかないだろ」
豹頭のケインがそう言うのに、アルトは噛みついた。
「そんな間怠っこしいことしないで、迷宮の中に入ればいいじゃないか」
「危険だ。視界も足下も悪い。わざわざそんなことをする必要はない」
「もしかしたら迷宮核が見つかるかもしれないじゃねぇか」
「迷宮核! そんな噂話を信じているのか!?」
ケインに笑い飛ばされ、アルトはなんだと、とガタッと席を立った。
「そこまで。喧嘩をするな」
迷宮核というのは迷宮の奥底にあるというもので、それが地中や大気中の瘴気を吸い上げて濃縮し、吐き出しているのだ、と言われているものだ。
ただしそれは学者が仮説として言っていることで、実際に迷宮核を見つけたものはいない。
「本当に見つかったらいいけどね」
それこそ大発見だ。そうなったら国の各地に存在している迷宮への対処が劇的に変わる。長い時間をかけて削り取るしかなかったものが、内部から壊すことが可能になるのだ。
「だって俺たちが居られるのはあと五日だぜ、リアム」
「うん……アルトの気持ちは嬉しいけど、安全に行こう。ね」
アルトは不満そうな顔をしていたが、残りの日数は迷宮前で大物を狩ることに決まった。
***
ドーンと土埃を上げて黒い魔獣の体が倒れた。
翌日も迷宮に来た討伐対は、精力的に魔獣を狩っていた。
大きな死体に足をかけて、イサイアスが魔獣の顔を覗き込んでいる。
「これは元は熊か?」
「元々大きいのにさらに大きくなると厄介だね」
瘴気というものは不思議なものだ。小さな虫や鳥さえも、巨大で獰猛に変えてしまう。
人間に取り憑くとその身を滅ぼしてしまうくせに、動物は迷宮という一個の生物の手足のようにその性質を変えるのだ。
「今日はこれでいいんじゃないかな」
「そろそろ仕舞にするか。おーい、みんな集まってくれ」
イサイアスがそう皆に声をかけた時だった。
顔色を真っ青にしたケインが迷宮の入り口から走ってきた。
「大変だ! アルトが居ない!!」
「え?」
「さっきまで魔獣の探索をしていたのに、姿が見えないんだ」
「まさか……迷宮の中に?」
リアムがそう呟くと、皆の間に一気に緊張感が走った。
「いくらなんでもそこまで……」
「でも、もしそうだったら手遅れになる!」
リアムは迷宮の入り口に向かって一気に走った。入り口は暗く、禍々しく口を開け、生物の気配はない。
「リアム!」
入り口をうかがっているうちに、イサイアスとディオニシオが追いついてきた。
「落ち着けリアム」
そう言いながらディオニシオはリアムの腕を取った。
「ディオニシオさん。僕は冷静ですよ。僕なら障壁を張れるし、周囲の瘴気なら浄化できる。僕が探すのが一番いいんです」
「だが……」
「それに、この村を助けに来てくれた人を絶対に死なせたりできません」
リアムはディオニシオにそう説明した。それでもディオニシオは手を離してくれない。そんなディオニシオの手を剥がしたのはイサイアスだった。
「叔父さん、リアムに行かせよう」
「お前はそれでいいのか」
「良いわけないでしょう。俺も一緒に行く。リアム、前に言ったな。お前を守れって」
「イサイアス……」
リアムはイサイアスの手を握った。
「僕のこと信じて」
「……ああ」
「まったく……緊急事態だ。仕方ない。ではこれを持って行け。呼び笛だ。何かあったら鳴らすんだ」
「はい!」
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