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「わ、来た来た! 本当に来たよ」

 獣人の子ミハエルはディオニシオたちの姿を道の向こうに見つけると、リアムの足にしがみついた。

「うん、お迎えに行こうね」

 迷宮ダンジョン討伐のためにやって来た助っ人を、ほとんどの村人が村の入り口まで迎えに来て歓迎した。

「さて、さっそく迷宮ダンジョンをぶっ叩きに行こうじゃないか」

 ディオニシオが連れてきた十人の獣人の討伐部隊の者たちは誰も彼も逞しく筋骨隆々だった。普段は賞金稼ぎや傭兵や狩人をしていて、こういうことに馴れている者たちばかりだと言う。

「僕が治癒魔法士です。皆さんの補助をさせていただきます」

 男達に挨拶をすると、リアムはあっという間に彼らに囲まれた。

「こりゃ別嬪さんだ」
「よろしくな」

 フレンドリーに声をかけられてリアムは嬉しかったのだけど、イサイアスはリアムを隠すように前に立って、咳払いをした。

迷宮ダンジョンに案内する……。着いてきてくれ」
「イサイアス、顔が怖いぞ。まー、お前ら気にするな。じゃあ行くぞ」

 ディオニシオが苦笑いで男達を呼び寄せ、皆で迷宮ダンジョンに向かった。

「こんな村の近くまで湧いているのか」

 村から少し離れただけで、小型の魔獣に出合う。それらを切り捨てながら進むので、部隊はなかなか進まない。
 アルトと名乗った獅子の獣人は思った以上の惨状に驚いていた。

「僕やイサイアスが来るまで、大型の魔獣もうろついていました」
「俺たち二人と手伝いの村人だけじゃどうしても手が足りないんだ」
「まかせとけ、この辺のはまとめて狩ってやる」

 男たちはあそこに罠を仕掛けようとか計画しつつ、迷宮ダンジョンに向かって進んでいった。
 それにつれ魔獣も大型に、かつ凶暴になっていく。

「そっちに回れ!」
「顎の下を狙え」

 討伐部隊の者たちの連携は素晴らしく、素早く確実に魔獣を仕留めていく。
 三頭の魔獣を倒し、迷宮ダンジョンの前に辿り着くまで、彼らはかすり傷すら負わなかった。

「みんな凄い。僕の出番がないや」

 リアムは彼らに感心をしながら、その後をついて行った。

「中型と聞いていたが、思ったより大きいな」

 ケインという豹の獣人が苦い顔をする。

「そうなんです。中型迷宮ダンジョンなら二年も経てば消えると思うんですが、この迷宮ダンジョンはもう一年ぐらい経っているのにこんなに活発なんです」
「本当なら瘴気測定士を派遣して貰ったほうがいいんだろうがな」
「そんなもの来る訳ねぇよ、ケイン」

 アルトはそう笑い飛ばしてからクソッタレ、と地面に剣を突き立てた。

「この国の獣人の扱いは目に余るぜ」
「まあ、じっくりやろうや兄弟」

 いらつきを見せるアルトの肩をディオニシオが叩いた。

「獣人が力をつけたら扱いも変わるさ」

 数が少なく、貧しい者が多い獣人の地位向上のために、ディオニシオは仕事を作ったり学校を作ったりして働きかけているのだと言う。

「今は目の前で困っている者を助けてやろう」
「ああ、そうだな」

 実際の迷宮ダンジョンを前にして、大規模迷宮ダンジョンの対策に当たっていたリアムと一緒に立てた作戦は、まずは迷宮ダンジョン前の魔物を広く散らばっている小型の魔物を狩る者、もっと奥の大型の魔物を狩る者に別れて対処するというものだった。

「怪我をする可能性が高い奥の方に僕はついていきますよ」

 リアムはそう言ったが、イサイアスはまず首を振って反対した。

「危険だ。せめて中間地点にしてくれ」
「いやだ。飛靴フライングブーツもあるし、そこまで過保護にしなくていい」

 今までだって戦場を飛び回ってきたのだ。むしろ危険な現場に一番馴れているのは自分だ、とリアムは主張した。

「だったら君が僕を守ってよ、イサイアス」
「……わかった」

 という訳で初日の戦いが終わり、討伐部隊は帰投した。

「皆さん、村の人たちが歓迎会をするって言ってますから」
「おお、ありがてぇな。飲み過ぎんなよケイン」
「アルト。そりゃお前のことだよ」
「明日も迷宮ダンジョンに行くんですからね」

 歓迎会には素朴ながら沢山のご馳走と酒が並び、討伐部隊はおおいに食べて飲んだ。

「じゃあ、明日もあるんで解散!」

 飲みっぷりのいい彼らの様子を見て、リアムは早めに歓迎会を終わりにした。

「なんかくたびれた」

 イサイアスと一緒に家に帰ると、リアムはどっと疲労感を覚えてソファに転がる。
 村人と討伐部隊の間に立つような感じになってしまい、あちらこちらに気を配っていたためだ。
 酒も回っているし、目をつむるとこのまま寝てしまいそうだ。

「リアム……ちゃんと寝ろ」
「うん、もう少ししたらね」
「しょうがないな」

 ふわっと体が浮き上がる感覚がしてリアムが目を開けると、軽々とイサイアスに抱き上げられている。

「ベッドまでお連れしますよお姫様」
「うーん……ありがと」

 イサイアスの腕の中が心地良くて、リアムはされるがままに運ばれてった。
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