追放されて捨てられた紅蓮の神子は気高い竜の最愛となりました。

高井うしお

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「おはようございます、アリさん、シモンさん」
「おはようございます。よかったら座って」

 翌朝、リアムが階下に降りていくとシモン夫妻はもう朝食をとっていた。アリはにこにこ微笑みながらリアムの前にスープを持って来てくれた。

「イサイアスさんは?」
「まだ寝てます。ラウル村長は?」
「お義父さんなら畑よ。ここんところずっと畑を見ているの」

 アリの表情が心配げに曇る。

「そうですか。じゃあ後でいきます」

 リアムは朝食を済ませると、ラウルのいる畑へと向かった。

「村長さん」
「ああ、あんたか」
「畑にばっかりいるって心配されてますよ」
「ああ、見ていてもしかたないんだがな。ほれ、こんなになってしまって」

 ラウルは黒く変色した農作物の葉っぱをリアムに見せた。

「これは……瘴気の仕業ですか」
「そうじゃ、迷宮ダンジョンの瘴気がここまでやってきて畑に取憑いた。このまま枯れていくのを見ているしかない」
「うーん」

 悔しそうなラウルの声を聞きながら、リアムは瘴気焼けを起こした畑を眺めた。

「これくらいの規模なら……『神霊よ、聖なる光をこの地に照らせ「天煌」』」

 リアムは手を伸ばし、光魔法の呪文を唱えた。リアムの発した白い光を受けて、黒っぽく立ち枯れていた畑が蘇っていく。その様子に、ラウルは目を丸くした。

「お……おお……畑が……」
「小規模ですが瘴気を払いました」
「あんた……随分と高位の術者なんだね」
「それほどでも」

 ラウルがうれしそうに手を伸ばし、リアムに握手を求める。リアムは照れくさそうにしながら、その手をとった。

「ど、どうか他の畑も救ってやってくださらんか。どこも畑はこんな調子でみんな困っておるんじゃ」
「はい。僕がお役に立つようでしたら」

 リアムはラウルの頼みに頷いた。

「……僕、誰かの役に立ちたいんです」
「おお、それでは村を案内しよう」

 ラウルの尻尾が左右に揺れている。獣人のこういう感情が隠しきれないところは好きだな、とリアムは思った。

 それからリアムは村の家々を巡って、畑を浄化していった。

「ふう……」
「少し疲れたかね」
「そうですね。でも皆さん喜んでくれて嬉しいです」

 村を一周する間に、リアムは村人からの心づくしのお礼の作物を両手一杯に抱えていた。

「リアム!」
「イサイアス」

 そうして広場に戻ってくると、リアムを見つけたイサイアスが駆けてきた。

「居なくなったから……心配した」
「村を見回っていただけだよ」「
「そうか。なら……いいんだが」

 そう言いながらもイサイアスは不満げな顔をしている。

「ぶうたれるくらいなら朝さっさと起きなさいよ」
「仕方ないだろ……竜人族の習性なんだ」

 イサイアスは気まずそうに頭を掻いた。

「それよりそろそろお昼にしようって、アリさんが」
「もうそんな時間なの」

 言われてみれば随分日も高くなっている。

「あと、ミハイルを探してこいって言われたんだけど……どこまで遊びにいったのかな」

 イサイアスがそう言ってあたりを見渡した時だった。

「――大変だ! 魔獣がここまで来た! 北の冊のとこまで来ている」

 そう叫ぶ声が広場に響いた。

「戸締まりをしろ!」
「家に入れ!」

 バタバタと村民が避難し始める。

「魔獣!?」
「リアム、村長を連れて家に!」
「わ、わかった」

 リアムは青い顔をしているラウルの手を引っ張って、家へと急いだ。

「ったく、平和な村にいい迷惑だ」

 イサイアスはリアム逹の後ろ姿を見守りながら、すらりと剣を抜いた。

「さぁて、俺が相手してやる」

 そうしてイサイアスは村の北方向に向かって走り出した。
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