追放されて捨てられた紅蓮の神子は気高い竜の最愛となりました。

高井うしお

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 リアムとイサイアスは乗り合い馬車に乗ってカッセルを目指すことにした。馬車に揺られながら、リアムはイサイアスに話しかけた。

「物好きって思ってるんでしょ、イサイアス」
「ちょっとはね」
「追っ手から逃げてるのに、短絡的すぎるかな」

 リアムがイサイアスに視線をやると、イサイアスはにこりと笑った。

「もうリアムは神子じゃない。リアムがやりたいようにすればいい。その手伝いなら俺は喜んで手を貸す」
「……ありがとう」

 リアムは少し胸の奥がツンとするのを感じて顔を伏せた。

 馬車はそのまま順調に進んでいき、カッセルの村の近くの町にたどり着いた。

「ここからは徒歩だね」
「ああ」

 リアムとイサイアスは町の人に道を聞くと、すぐに村を目指した。

「休まなくて大丈夫か、リアム」
「日が暮れちゃうもん」

 少し心配げなイサイアスだったが、リアムはそれを笑い飛ばした。

「じゃ、イサイアスは置いていこっと」
「えっ」

 リアムは『飛靴』フライングブーツのかかとを蹴った。そうして道の先に一歩飛び出したリアムを見て、イサイアスが慌てて駆けてくる。

「待ってリアム!」
「あはは、びっくりした?」

 リアムがそういいながら振り向くと、イサイアスは強ばった顔をしていた。

「どうしたの? ごめんって」
「リアム……」
「なに?」
「伏せろ!」

 イサイアスはリアムの手を掴むとぐいっと引っ張った。

「え……!?」
「魔獣だ!!」

 イサイアスがそう叫び、腰の剣を引き抜いた。その目の前に黒い巨大な熊が見え、すごいスピードで迫ってくる。

「グアアアア!」
「きゃ……神の光よ、悪しきものより我を守れ……『天壁』!」

 魔獣の熊の爪が振り落とされんとした時、リアムは光魔法の障壁を出す事に成功した。ガキッと大きな音がして、障壁が爪をはじき返す。

「イサイアス、大丈夫!?」
「ああ、おかげで」

 障壁の内側でイサイアスは頷いた。

「大物だな」
「こんな魔獣が外をうろついているなんて……」

 リアムがいた大規模迷宮ダンジョンでは巨大な魔獣は迷宮ダンジョンから湧いた途端に兵士によって刈取られていた。
 こんな街道までうろつくなんて、この辺りの住民にとっては悪夢のようなものだろう。

「とにかく、アレを倒さなきゃ先に進めないな」
「イサイアス……そうだね。援護する」

 リアムは手を合わせ呪文を唱えた。

「神の光よ、悪しきものの動きを奪え『天縛』」

 リアムの手から光の筋が溢れ、魔獣の手足に絡みつく。

「助かる!」

 それを見たイサイアスが障壁から飛び出した。そしてそっと口元に手を添えると、呟く。

『竜の息』ドラゴンブレス

 すると真っ赤な炎がイサイアスから放たれて魔獣を火に包んだ。

「グアアオオオオ!」
「くっ、しぶといな」

 かなりのダメージを負ったようだが、それでも魔獣は倒れなかった。

「これでトドメだ!」

 イサイアスは竜の翼を広げると剣を振り上げ、跳躍した。イサイアスの切っ先は喉元を目がけて真っ直ぐに振り下ろされる。

「ガァッ!」
「うっ」

 しかし、瀕死の魔獣はイサイアスごと剣を弾き飛ばした。衝撃でイサイアスが吹き飛ばされていく。

「イサイアス!」
「くっそ、惜しい!」

 一瞬焦ったリアムだったが、イサイアスはすぐに起き上がった。

「よかった。えっと……イサイアス、目をつぶって!」
「え、ああ」
「神の光よ、輝け! 『天光』」

 リアムは今度は目つぶしの光の玉を出した。

「グウウウウウ!」

 それをまともにくらった魔獣は動きを止める。

「今だ、イサイアス!」
「ああ!」

 イサイアスはもう一度飛び上がると、全体重をかけて剣を振り落とした。魔獣の首がぱっくりと割れて血が噴き出し、地面に倒れ込んだ。

「はぁ……はぁ……」
「イサイアス!」

 肩で息をしているイサイアスに、リアムは駆け寄った。

「大丈夫?」
「うん、かすり傷だ」

 イサイアスは腕に裂傷を負っていた。

「すぐに治す。神霊の聖なる光よ……」

 リアムが呪文を唱えると、イサイアスの傷は癒えていった。

「ありがとう」
「ううん。こちらこそありがとう」

 リアムはイサイアスが立ち上がったのを見て、自分も立ち上がる。

「カッセルの村……大丈夫かな」
「急いで向かおう」

 リアムとイサイアスは足早に先を急いだ。
 二人がしばらく歩いた先に現われたのは小さな鄙びた村だった。

「ここがカッセル?」
「そうみたいだな」
「なんて深い堀……」
「魔獣避けだろう」

 小さな村にそぐわない深い堀が村の周りに張り巡らされている。リアムとイサイアスは村の入り口に立っている見張りに声をかけた。

「すみません、旅の治癒魔法士ですが村に伺ってもいいですか」
「治癒魔法士?」

 見張りの獣人はリアムをじっと見つめた。

「人間の治癒魔法士か」
「……この村が大変だと聞いて来たのです」
「そうか。確かにその通りだ。入ってくれ」

 一瞬怪訝な顔をされたものの、リアム達は村の中に入ることができた。

「なんて……」

 そしてリアムは息を飲んだ。村の人々は杖をついたり包帯を巻いたりしている者が多い。

「こんなに怪我人が出ているのに」

 リアムはその光景を見て無関心な中央に内心腹を立てた。こんな状態になっているのに、兵士どころか治癒魔法士の一人も寄越さないのはあまりに怠慢だと感じた。

「あの! 旅の治癒魔法士です! 怪我した方は来て下さい!」

 リアムは腹立ち紛れにそう大声を出すと、村の広場の真ん中に陣取った。
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