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「リアム、今日をもって回復魔法兵隊長の任を解く」
「……え?」
その日も前線から戻ったばかりのリアムは、あまりの出来事に間抜けな声が思わず口からでた。顔を振ってなんとか元の笑顔を顔に貼り付けると、ゆっくりともう一度アンリに問いかけた。
「どういうことか、もう一度ご説明ください」
「何度説明しても同じだ」
アンリは強ばった顔でそう答えた。
「百年に一度現われるという『真の神子』が教会認定を受けた。そしてまもなくこの迷宮討伐隊の元に到着する」
「そ、それでは僕は……?」
「後方の回復魔法兵の中隊を率いてもらう」
「そうじゃなくて!」
じれったさにリアムの語気は荒くなった。
「僕と……アンリはどうなるの?」
「婚約は解消だろう。王家と『神子』が婚姻を結ぶことに意義があったんだから」
「そんな……アンリはそれでいいの」
そんな他人事の様に言わないで、とリアムはその言葉を必死で飲み込んだ。そんなリアムに注がれるアンリの視線は冷徹だった。
「私は王族という立場だ。お前が神子だからこそこの婚約は許されていたのだ」
なんでそんなことを言えるんだろう。リアムは信じられなかった。
「アンリは僕が嫌いになったの!?」
「……そういう問題ではないのだ。大人になってくれ」
どうやってそれを飲み込めと言うのか。あの、リアムに注がれていた温かい微笑みは一体どこに行ったのか。
「うっ……嘘だ……」
あまりのことにリアムは身動きが取れなくなっていた。こんなこと受け入れたくない。そう悲鳴のように心は叫ぶ。目からは絶え間なく涙が溢れて止まらない。リアムは震える声でなんとか口を開いた。
「誰……ですか。その『真の神子』という方は……」
「フォンテーヌ伯爵家の令息で、名をユージーンという。この度力を目覚めさせ、教会の神子認定の儀式をもって教会の預かりとなった」
「そう……」
リアムは俯いた。そんな彼にアンリは追い打ちをかけるように言った。
「さ、早く出迎えの準備をしてくれ。――そんな泥だらけの格好では困る」
「……はい」
リアムが何を言おうと、もう取り返しはつかないということか。
リアムは唇を噛みしめて、自分の泥と血に薄汚れた法衣を見た。この衣が汚れているのも、すべてアンリのためだというのに。
「……わかりました!」
やけくそ気味にそう答えてリアムは宿舎を出た。
「リアム様!」
「ルル」
外で待機していたルルが駆け寄って来る。
「大丈夫ですか……?」
『真の神子』の話はもうルルの耳にも入っているらしい。
「ルル、使ってない法衣を出しておいて。そして……少し一人にして」
「はい……」
リアムはルルにそう言い残して自分の宿舎へと飛び込んだ。見せてはならない涙を密かに流す為に。
「……え?」
その日も前線から戻ったばかりのリアムは、あまりの出来事に間抜けな声が思わず口からでた。顔を振ってなんとか元の笑顔を顔に貼り付けると、ゆっくりともう一度アンリに問いかけた。
「どういうことか、もう一度ご説明ください」
「何度説明しても同じだ」
アンリは強ばった顔でそう答えた。
「百年に一度現われるという『真の神子』が教会認定を受けた。そしてまもなくこの迷宮討伐隊の元に到着する」
「そ、それでは僕は……?」
「後方の回復魔法兵の中隊を率いてもらう」
「そうじゃなくて!」
じれったさにリアムの語気は荒くなった。
「僕と……アンリはどうなるの?」
「婚約は解消だろう。王家と『神子』が婚姻を結ぶことに意義があったんだから」
「そんな……アンリはそれでいいの」
そんな他人事の様に言わないで、とリアムはその言葉を必死で飲み込んだ。そんなリアムに注がれるアンリの視線は冷徹だった。
「私は王族という立場だ。お前が神子だからこそこの婚約は許されていたのだ」
なんでそんなことを言えるんだろう。リアムは信じられなかった。
「アンリは僕が嫌いになったの!?」
「……そういう問題ではないのだ。大人になってくれ」
どうやってそれを飲み込めと言うのか。あの、リアムに注がれていた温かい微笑みは一体どこに行ったのか。
「うっ……嘘だ……」
あまりのことにリアムは身動きが取れなくなっていた。こんなこと受け入れたくない。そう悲鳴のように心は叫ぶ。目からは絶え間なく涙が溢れて止まらない。リアムは震える声でなんとか口を開いた。
「誰……ですか。その『真の神子』という方は……」
「フォンテーヌ伯爵家の令息で、名をユージーンという。この度力を目覚めさせ、教会の神子認定の儀式をもって教会の預かりとなった」
「そう……」
リアムは俯いた。そんな彼にアンリは追い打ちをかけるように言った。
「さ、早く出迎えの準備をしてくれ。――そんな泥だらけの格好では困る」
「……はい」
リアムが何を言おうと、もう取り返しはつかないということか。
リアムは唇を噛みしめて、自分の泥と血に薄汚れた法衣を見た。この衣が汚れているのも、すべてアンリのためだというのに。
「……わかりました!」
やけくそ気味にそう答えてリアムは宿舎を出た。
「リアム様!」
「ルル」
外で待機していたルルが駆け寄って来る。
「大丈夫ですか……?」
『真の神子』の話はもうルルの耳にも入っているらしい。
「ルル、使ってない法衣を出しておいて。そして……少し一人にして」
「はい……」
リアムはルルにそう言い残して自分の宿舎へと飛び込んだ。見せてはならない涙を密かに流す為に。
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