上 下
46 / 51

45話 新しい僕

しおりを挟む
 それから一週間かけて、僕は父さんの書棚の内容を吸収していった。一冊ずつ、文字をなぞると、僕の中に内容が入ってくる。何度やってもこの感覚には慣れない。

「うう、頭痛い……」
「大丈夫ですか? 少し休みましょう」

 アルヴィーも名無しも根気よく僕の事を待っていてくれた。そして……。

「これが最後の本だ」

 僕は父さんの残した本を最後まで吸収した。

「どんな感じ……?」

 アルヴィーがちょっと心配そうに僕の顔を覗き混んだ。

「うん……なんか、いっぺんに吸収したからごちゃごちゃしてるけど……世界がちょっと変って見える……かな」

 例えば今、僕の足のついている地面がどうなっているのか、そしてその上の草の名前がなんというのか……今の僕には分かる。

「それから、父さんはお土産を残してくれたみたい」
「お土産?」

 僕は地下室の入り口の近くの糸杉の割れ目に手を入れた。そこには鍵が隠されていた。

「地下のもっと奥に扉があったんだ。そこに遺産を残したって」

 鍵を差し込むと、カチリと音がして扉が開いた。ギギギ……と軋んだ音を立てて古いドアを開くと……そこには金塊や貴金属が積み上がっていた。

「すごい……」

 覗き混んだアルヴィーがうわあという顔をした。

「すごいなこれだけあったら何億ゴルドになるやら」
「うん……そうだね」

 僕はもうそれを見ても大した感動はなかった。父さんもそうだったからこんな物置に放り込んでいたんだろうと思う。

「……父さん、一応貰っとくよ」

 僕は収納魔法でそれらの貴金属を手元にしまった。

「これで学校への借金を返せるな」
「そんなのまだ覚えてたんですか、フィル。あの学校に戻っても、フィルに学ぶ事はないでしょう」
「うん。でも借金ってなんか気持ち悪いし。それでもまだ余るから……母さんの墓をもうちょっと立派にしようかな」
「はー……なんか達観しちゃってるな、フィル」

 アルヴィーがそう言いながら、収納しそこねた指輪をひとつ僕に渡してくれた。

「あ、みんなにもお礼をしなきゃ……」
「いーよ、いーよそんなの」

 アルヴィーは心底嫌そうな顔をした。僕はそれを見てふふ、と笑った。アルヴィーは損な性分だな。

「俺は御者代くらい貰っておこうか」

 名無しがそう言いながら指輪を僕の手から取ろうとした時、指輪が突然赤く光った。

「うわっ!? どうなってんだフィル?」
「これ……どこかを指し示してる!」

 指輪の光は一直線に、壁を差していた。僕はその壁に触れる。

「その奥になにかあるのか?」
「……違う。ちょっと外に出よう!」

 僕達は地下室から外に出た。指輪の光は、山の向こうまで伸びている。

「東……か」
「その方向ならティリキヤだ」

 その国はシオンとレタ、そしてマギネの故郷だ。

「もしかして……そこに悪魔を封印してあるのかな」
「フィル、おそらくそうです」

 レイさんがそう言って僕の肩を掴んだ。僕達は冬の曇天の向こうに真っ直ぐに伸びる赤い光を見つめた。

「アルヴィー……名無し……僕にもうちょっと付き合って貰えないかな」
「もちろん!」
「ああ」
「私には聞かないんですか? フィル」
「レイさんはどうしたってついてくるでしょ?」

 僕がレイさんに笑いかけると、レイさんはにっこりと微笑み返した。

「じゃ、出発しよう!」

 僕達はレイさんが収納していた馬車に乗り込んで、道を進んだ。

「おいおい、来た時と大違いだな」
「ちょっと今だけ木にはどいてもらってるの」

 行きは獣道をよっこら進んでいったけれど、僕は精霊魔法で木自体をどかして、その上を馬車を走らせていた。

「ティリキヤは水が綺麗でお酒が美味しいってさ、レイさん」
「ええ、楽しみですね」
「ぴい!」
「ああマギネのふるさとだ……仲間に会えるかもしれないね」

 僕達はなぜだかワクワクしながら、森を抜けて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。 だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、 そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。 そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、 一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。 そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、 災厄級の存在となってしまう。 この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。 著作権は作者である私にあります。 恋愛要素はありません。 笑いあり涙ありのファンタジーです。 毎週日曜日が更新日です。

処理中です...