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45話 新しい僕
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それから一週間かけて、僕は父さんの書棚の内容を吸収していった。一冊ずつ、文字をなぞると、僕の中に内容が入ってくる。何度やってもこの感覚には慣れない。
「うう、頭痛い……」
「大丈夫ですか? 少し休みましょう」
アルヴィーも名無しも根気よく僕の事を待っていてくれた。そして……。
「これが最後の本だ」
僕は父さんの残した本を最後まで吸収した。
「どんな感じ……?」
アルヴィーがちょっと心配そうに僕の顔を覗き混んだ。
「うん……なんか、いっぺんに吸収したからごちゃごちゃしてるけど……世界がちょっと変って見える……かな」
例えば今、僕の足のついている地面がどうなっているのか、そしてその上の草の名前がなんというのか……今の僕には分かる。
「それから、父さんはお土産を残してくれたみたい」
「お土産?」
僕は地下室の入り口の近くの糸杉の割れ目に手を入れた。そこには鍵が隠されていた。
「地下のもっと奥に扉があったんだ。そこに遺産を残したって」
鍵を差し込むと、カチリと音がして扉が開いた。ギギギ……と軋んだ音を立てて古いドアを開くと……そこには金塊や貴金属が積み上がっていた。
「すごい……」
覗き混んだアルヴィーがうわあという顔をした。
「すごいなこれだけあったら何億ゴルドになるやら」
「うん……そうだね」
僕はもうそれを見ても大した感動はなかった。父さんもそうだったからこんな物置に放り込んでいたんだろうと思う。
「……父さん、一応貰っとくよ」
僕は収納魔法でそれらの貴金属を手元にしまった。
「これで学校への借金を返せるな」
「そんなのまだ覚えてたんですか、フィル。あの学校に戻っても、フィルに学ぶ事はないでしょう」
「うん。でも借金ってなんか気持ち悪いし。それでもまだ余るから……母さんの墓をもうちょっと立派にしようかな」
「はー……なんか達観しちゃってるな、フィル」
アルヴィーがそう言いながら、収納しそこねた指輪をひとつ僕に渡してくれた。
「あ、みんなにもお礼をしなきゃ……」
「いーよ、いーよそんなの」
アルヴィーは心底嫌そうな顔をした。僕はそれを見てふふ、と笑った。アルヴィーは損な性分だな。
「俺は御者代くらい貰っておこうか」
名無しがそう言いながら指輪を僕の手から取ろうとした時、指輪が突然赤く光った。
「うわっ!? どうなってんだフィル?」
「これ……どこかを指し示してる!」
指輪の光は一直線に、壁を差していた。僕はその壁に触れる。
「その奥になにかあるのか?」
「……違う。ちょっと外に出よう!」
僕達は地下室から外に出た。指輪の光は、山の向こうまで伸びている。
「東……か」
「その方向ならティリキヤだ」
その国はシオンとレタ、そしてマギネの故郷だ。
「もしかして……そこに悪魔を封印してあるのかな」
「フィル、おそらくそうです」
レイさんがそう言って僕の肩を掴んだ。僕達は冬の曇天の向こうに真っ直ぐに伸びる赤い光を見つめた。
「アルヴィー……名無し……僕にもうちょっと付き合って貰えないかな」
「もちろん!」
「ああ」
「私には聞かないんですか? フィル」
「レイさんはどうしたってついてくるでしょ?」
僕がレイさんに笑いかけると、レイさんはにっこりと微笑み返した。
「じゃ、出発しよう!」
僕達はレイさんが収納していた馬車に乗り込んで、道を進んだ。
「おいおい、来た時と大違いだな」
「ちょっと今だけ木にはどいてもらってるの」
行きは獣道をよっこら進んでいったけれど、僕は精霊魔法で木自体をどかして、その上を馬車を走らせていた。
「ティリキヤは水が綺麗でお酒が美味しいってさ、レイさん」
「ええ、楽しみですね」
「ぴい!」
「ああマギネのふるさとだ……仲間に会えるかもしれないね」
僕達はなぜだかワクワクしながら、森を抜けて行った。
「うう、頭痛い……」
「大丈夫ですか? 少し休みましょう」
アルヴィーも名無しも根気よく僕の事を待っていてくれた。そして……。
「これが最後の本だ」
僕は父さんの残した本を最後まで吸収した。
「どんな感じ……?」
アルヴィーがちょっと心配そうに僕の顔を覗き混んだ。
「うん……なんか、いっぺんに吸収したからごちゃごちゃしてるけど……世界がちょっと変って見える……かな」
例えば今、僕の足のついている地面がどうなっているのか、そしてその上の草の名前がなんというのか……今の僕には分かる。
「それから、父さんはお土産を残してくれたみたい」
「お土産?」
僕は地下室の入り口の近くの糸杉の割れ目に手を入れた。そこには鍵が隠されていた。
「地下のもっと奥に扉があったんだ。そこに遺産を残したって」
鍵を差し込むと、カチリと音がして扉が開いた。ギギギ……と軋んだ音を立てて古いドアを開くと……そこには金塊や貴金属が積み上がっていた。
「すごい……」
覗き混んだアルヴィーがうわあという顔をした。
「すごいなこれだけあったら何億ゴルドになるやら」
「うん……そうだね」
僕はもうそれを見ても大した感動はなかった。父さんもそうだったからこんな物置に放り込んでいたんだろうと思う。
「……父さん、一応貰っとくよ」
僕は収納魔法でそれらの貴金属を手元にしまった。
「これで学校への借金を返せるな」
「そんなのまだ覚えてたんですか、フィル。あの学校に戻っても、フィルに学ぶ事はないでしょう」
「うん。でも借金ってなんか気持ち悪いし。それでもまだ余るから……母さんの墓をもうちょっと立派にしようかな」
「はー……なんか達観しちゃってるな、フィル」
アルヴィーがそう言いながら、収納しそこねた指輪をひとつ僕に渡してくれた。
「あ、みんなにもお礼をしなきゃ……」
「いーよ、いーよそんなの」
アルヴィーは心底嫌そうな顔をした。僕はそれを見てふふ、と笑った。アルヴィーは損な性分だな。
「俺は御者代くらい貰っておこうか」
名無しがそう言いながら指輪を僕の手から取ろうとした時、指輪が突然赤く光った。
「うわっ!? どうなってんだフィル?」
「これ……どこかを指し示してる!」
指輪の光は一直線に、壁を差していた。僕はその壁に触れる。
「その奥になにかあるのか?」
「……違う。ちょっと外に出よう!」
僕達は地下室から外に出た。指輪の光は、山の向こうまで伸びている。
「東……か」
「その方向ならティリキヤだ」
その国はシオンとレタ、そしてマギネの故郷だ。
「もしかして……そこに悪魔を封印してあるのかな」
「フィル、おそらくそうです」
レイさんがそう言って僕の肩を掴んだ。僕達は冬の曇天の向こうに真っ直ぐに伸びる赤い光を見つめた。
「アルヴィー……名無し……僕にもうちょっと付き合って貰えないかな」
「もちろん!」
「ああ」
「私には聞かないんですか? フィル」
「レイさんはどうしたってついてくるでしょ?」
僕がレイさんに笑いかけると、レイさんはにっこりと微笑み返した。
「じゃ、出発しよう!」
僕達はレイさんが収納していた馬車に乗り込んで、道を進んだ。
「おいおい、来た時と大違いだな」
「ちょっと今だけ木にはどいてもらってるの」
行きは獣道をよっこら進んでいったけれど、僕は精霊魔法で木自体をどかして、その上を馬車を走らせていた。
「ティリキヤは水が綺麗でお酒が美味しいってさ、レイさん」
「ええ、楽しみですね」
「ぴい!」
「ああマギネのふるさとだ……仲間に会えるかもしれないね」
僕達はなぜだかワクワクしながら、森を抜けて行った。
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