39 / 51
38話 宴の夜
しおりを挟む
「なんでここはこんなに暖かいのですか」
ニンフのみんなは皆薄着だ。僕もちょっと汗ばむくらいなのはなにもたき火のせいだけではない。
「私達は風や地の力を操ってここを通年緑に保っているんだよ」
「へーえ」
それがレイさんの言っていた精霊魔法ってやつか。こんな風に長期間自然に関与できるなんてすごいな。
「さぁ、お腹一杯食べなさい」
食卓の上はウサギのローストに新鮮な野菜が一緒に盛られている、といった具合だった。
「フィル、このレタスしゃっきしゃきだ。冬とは思えないよ」
「アルヴィー、ウサギもすんごく脂がのってる」
僕達は出された料理に舌鼓を打った。
「ぴぃー」
「まぁ、かわいい。いっぱいお食べ」
マギネも生肉を綺麗なニンフのお姉さんに食べさせてもらって満足そうだ。
「はーい、あーん」
「自分でっ、自分で食べるからっ」
その横で慌てているのは名無しだ。
「食べさせてくれるというのだから食べさせて貰えばいいじゃないですか」
「俺は! レイさんに食べさせて貰いたいの」
「私はフィルにならやりますが……」
「ああ!! くやじい!」
またレイさんに適当にあしらわれてわめいている。なんだか不憫にも思えてきた。
「ねぇ、フィルさん」
「どうしたの、マレア」
「私、ここなら目立ちませんね」
「うん、そうだね。その帽子、とっちゃったら?」
「え……でもアルヴィーさんがせっかくくれたのに……」
戸惑うマレアを見たアルヴィーはそっとマレアの帽子をとった。
「暑いだろ」
「アルヴィーさん……」
その時、賑やかが太鼓の音が鳴り響いた。
「わっ、びっくりした」
「フィル君、ニンフの踊りを見た事あるかい?」
「え? いいえ」
僕がそう言うと、シプレーさんは手拍子を始めた。
「さぁ、お客人に見て貰おう! みんな、気合いを入れろ!」
「あい!」
その声を合図に笛や鈴が鳴り出す。独特なリズムが谷に響き渡る。
「ホウ! ホウ! ホウ!」
一人のニンフがかがり火の前に躍り出て、長い布をはためかせながらくるくると舞う。布や衣装に縫い込まれた鈴がチリチリと音を立てて太鼓のリズムに溶け込んでいく。
他のニンフ達は環になってステップを踏み、中央のニンフが移動すると次々と踊りに加わっていった。
「あんた達は幸運だ。今は冬だから、里一番の踊り手シェーヌが帰って来ている」
「いつもは居ないんですか?」
「ああ、彼女は典型的な街に住むニンフだよ。普段は大きな街で踊り子をしているのさ」
「へえ」
「ほら、シェーヌの踊りがはじまる……」
里長の視線の先にはエメラルドのような髪をしたニンフが金色の衣装を纏って立っていた。
「ホウ! シェーヌ!」
「ルルルル!」
独特のはやし声がやがて歌声のように重なり、シェーヌはつま先で地面を叩いた。その足に填めた足環がリイン、と音を鳴らす。
『あの火の様に 身を焦がせ あの水のように たおやかに そして風のように 私は誘う』
シェーヌの涼やかな歌声と共に、指先は火のように、腰は水のうねりのように、そしてまるで体重など存在していないかのように軽やかにシェーヌは舞った。
「はぁぁぁ……すごい」
「この世のものとは思えないなあ、フィル」
アルヴィーも僕も口をあんぐりと空けてそれに見入っていた。シェーヌは場の喝采を浴びて下がっていった。
「それじゃあ、新しい仲間にも一つ舞って貰おうか」
「えっ」
シプレーさんの言葉に、マレアが驚いて顔を上げた。
「私、踊れませんよ」
「大丈夫、私についておいで」
シプレーさんはマレアの手を取ると、広場の中央に進んだ。
「さあ、新しい仲間! マレアを迎えよう」
「ホウ! ホウ!」
シプレーさんはマレアに自分の真似をするようにと促した。たどたどしい足取りで、マレアはそれを模倣する。
「マレア、自分の血に委ねなさい。そうすれば、次にどう踊るのか分かるはず」
「血……」
「そう、その身に流れるニンフの血に。火と地と水と風がそこにあるように」
すると、マレアの動きが変った。マレアの手は水をたぐるようになめらかに動き、地面に染み込むかのように身を伏せ、波のように舞った。
「……マレア」
「私……今、自分じゃないみたいでした」
「あんたは多分、海辺かどこかのニンフの血なんだね。よく分かったよ」
火照る頬を抑えながら、マレアが戻ってきた。僕とアルヴィーは手を叩いてそれを迎えた。
「すごいよマレア! あんな才能があったんだ」
「アルヴィーさん……ありがと……」
かがり火は赤々とニンフの里の森を照らし、音楽が空に響き渡る。
「良いところじゃないか」
「マレア、良かったね」
そう、僕とアルヴィーが言った時だった。ぐらん、と視界がぼやける。
「あ……れ……」
「フィルさん? アルヴィーさん?」
どうしたんだろ、まるでお酒でも飲んだみたいだ。
「効いてきたみたいだね」
そう言いながら近づいてくるのはシプレーさんだった。
「ニンフの里の特製の秘薬だよ。なに、心配しなくても朝には元に戻っているよ」
「なんでこんな……」
「それはね、私達がニンフだからだよ……」
「ニンフだから……?」
「そう、人間の男を誘い私達は繁殖している……君たちは少し小さいけれど……」
そ、そんなぁ……。
ニンフのみんなは皆薄着だ。僕もちょっと汗ばむくらいなのはなにもたき火のせいだけではない。
「私達は風や地の力を操ってここを通年緑に保っているんだよ」
「へーえ」
それがレイさんの言っていた精霊魔法ってやつか。こんな風に長期間自然に関与できるなんてすごいな。
「さぁ、お腹一杯食べなさい」
食卓の上はウサギのローストに新鮮な野菜が一緒に盛られている、といった具合だった。
「フィル、このレタスしゃっきしゃきだ。冬とは思えないよ」
「アルヴィー、ウサギもすんごく脂がのってる」
僕達は出された料理に舌鼓を打った。
「ぴぃー」
「まぁ、かわいい。いっぱいお食べ」
マギネも生肉を綺麗なニンフのお姉さんに食べさせてもらって満足そうだ。
「はーい、あーん」
「自分でっ、自分で食べるからっ」
その横で慌てているのは名無しだ。
「食べさせてくれるというのだから食べさせて貰えばいいじゃないですか」
「俺は! レイさんに食べさせて貰いたいの」
「私はフィルにならやりますが……」
「ああ!! くやじい!」
またレイさんに適当にあしらわれてわめいている。なんだか不憫にも思えてきた。
「ねぇ、フィルさん」
「どうしたの、マレア」
「私、ここなら目立ちませんね」
「うん、そうだね。その帽子、とっちゃったら?」
「え……でもアルヴィーさんがせっかくくれたのに……」
戸惑うマレアを見たアルヴィーはそっとマレアの帽子をとった。
「暑いだろ」
「アルヴィーさん……」
その時、賑やかが太鼓の音が鳴り響いた。
「わっ、びっくりした」
「フィル君、ニンフの踊りを見た事あるかい?」
「え? いいえ」
僕がそう言うと、シプレーさんは手拍子を始めた。
「さぁ、お客人に見て貰おう! みんな、気合いを入れろ!」
「あい!」
その声を合図に笛や鈴が鳴り出す。独特なリズムが谷に響き渡る。
「ホウ! ホウ! ホウ!」
一人のニンフがかがり火の前に躍り出て、長い布をはためかせながらくるくると舞う。布や衣装に縫い込まれた鈴がチリチリと音を立てて太鼓のリズムに溶け込んでいく。
他のニンフ達は環になってステップを踏み、中央のニンフが移動すると次々と踊りに加わっていった。
「あんた達は幸運だ。今は冬だから、里一番の踊り手シェーヌが帰って来ている」
「いつもは居ないんですか?」
「ああ、彼女は典型的な街に住むニンフだよ。普段は大きな街で踊り子をしているのさ」
「へえ」
「ほら、シェーヌの踊りがはじまる……」
里長の視線の先にはエメラルドのような髪をしたニンフが金色の衣装を纏って立っていた。
「ホウ! シェーヌ!」
「ルルルル!」
独特のはやし声がやがて歌声のように重なり、シェーヌはつま先で地面を叩いた。その足に填めた足環がリイン、と音を鳴らす。
『あの火の様に 身を焦がせ あの水のように たおやかに そして風のように 私は誘う』
シェーヌの涼やかな歌声と共に、指先は火のように、腰は水のうねりのように、そしてまるで体重など存在していないかのように軽やかにシェーヌは舞った。
「はぁぁぁ……すごい」
「この世のものとは思えないなあ、フィル」
アルヴィーも僕も口をあんぐりと空けてそれに見入っていた。シェーヌは場の喝采を浴びて下がっていった。
「それじゃあ、新しい仲間にも一つ舞って貰おうか」
「えっ」
シプレーさんの言葉に、マレアが驚いて顔を上げた。
「私、踊れませんよ」
「大丈夫、私についておいで」
シプレーさんはマレアの手を取ると、広場の中央に進んだ。
「さあ、新しい仲間! マレアを迎えよう」
「ホウ! ホウ!」
シプレーさんはマレアに自分の真似をするようにと促した。たどたどしい足取りで、マレアはそれを模倣する。
「マレア、自分の血に委ねなさい。そうすれば、次にどう踊るのか分かるはず」
「血……」
「そう、その身に流れるニンフの血に。火と地と水と風がそこにあるように」
すると、マレアの動きが変った。マレアの手は水をたぐるようになめらかに動き、地面に染み込むかのように身を伏せ、波のように舞った。
「……マレア」
「私……今、自分じゃないみたいでした」
「あんたは多分、海辺かどこかのニンフの血なんだね。よく分かったよ」
火照る頬を抑えながら、マレアが戻ってきた。僕とアルヴィーは手を叩いてそれを迎えた。
「すごいよマレア! あんな才能があったんだ」
「アルヴィーさん……ありがと……」
かがり火は赤々とニンフの里の森を照らし、音楽が空に響き渡る。
「良いところじゃないか」
「マレア、良かったね」
そう、僕とアルヴィーが言った時だった。ぐらん、と視界がぼやける。
「あ……れ……」
「フィルさん? アルヴィーさん?」
どうしたんだろ、まるでお酒でも飲んだみたいだ。
「効いてきたみたいだね」
そう言いながら近づいてくるのはシプレーさんだった。
「ニンフの里の特製の秘薬だよ。なに、心配しなくても朝には元に戻っているよ」
「なんでこんな……」
「それはね、私達がニンフだからだよ……」
「ニンフだから……?」
「そう、人間の男を誘い私達は繁殖している……君たちは少し小さいけれど……」
そ、そんなぁ……。
10
お気に入りに追加
1,030
あなたにおすすめの小説
神の血を引く姫を拾ったので子供に世界を救ってもらいます~戦闘力『5』から始める魔王退治
六倍酢
ファンタジー
116人の冒険者が魔王城に挑んで、戻って来たのは2人。
”生還者”のユークは、幸運を噛みしめる間もなく強制的に旅立つ。
魔王に出会った経験と、そこで目覚めた能力で、これから戦乱に落ちる世界で一足先に成長を始める。
人類が脅威に気付いた時、ユークは対魔物に特化した冒険者になっていた。
さらに、『もし、国を救って下されば。あなたの子を産みます。ぽっ』
この口約束で、ユークは一層の進化を遂げる。
※ トップはヒロインイメージ 『長い髪を結った飾り気のない少女』
第二王女の依頼書
ななよ廻る
ファンタジー
あらゆる種族の外敵たる魔王が倒されて数年が過ぎた。世界は平和になったが、全ての脅威が去ったわけではない。人の国・メンシュハイトに住まう少年ヴィーダ・クヴィスリングに届く依頼人不明の依頼書。それは、とある貴族の疑惑についての調査依頼だった。一方、王都を出発した勇者シュトレ・ヴァルトゥングは、仲間と共に誘拐事件の捜査を行っていた。犯人だと思しき貴族の屋敷を訪れると、彼女達に敵対したのはメンシュハイトで最強の呼び声高い十三騎士団の一人で――!?
※この作品は小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』『ノベルアップ+』でも投稿しています※
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
おしとやかな令嬢だと思われていますが、実は王国内で私だけ無限にスキルを取得できるので、裏では最強冒険者として暗躍しています。
月海水
ファンタジー
表の顔はおしとやかな令嬢。
でも、裏の顔は赤いフードを被った謎の最強冒険者!?
エルバルク家の令嬢、キリナは他に誰も持っていない激レアスキル『スキル枠無限』の適正があった。
この世界では普通なら、スキル枠はどんな人間でも五枠。
だからできることが限られてしまうのだが、スキル枠が無制限のご令嬢は適正のあるスキルを全部取得していく!
そんなことをしているうちに、王国最強の人間となってしまい、その力を役立てるため、身分を隠してこっそりと冒険者になったのだった。
正体がバレないよう、こっそり暗躍する毎日です!!
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる