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33話 アルヴィーの召喚獣

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「……まだ夜か」

 僕はふと夜中に眼を覚ました。傍らにはマギネとレイさんが寝息をたてている。

「ふふ、鼻ちょうちん出てる」
「……ぴい」

 お腹丸出しのマギネに毛布をかぶせて、僕は外に出た。

「よお」

 唐突に声がして僕はびくりとした。……そこには名無しが一人で立っていた。

「ねぇ、名無し。あんたはいつまでついてくるの?」
「さぁな……」
「さあなって……。僕達これからまた旅に出るつもりなんだけど」
「俺は今まで人に執着した事はなかったんだ。でもな、レイさんはなんか違うんだよなー」
「適当な所で切り上げなよ、僕だっていつもレイさんをおさえられないかもしれないし」
「なぁ、レイさんはお前のなんなんだ? 姉弟じゃなさそうだし……」

 名無しが探るような眼でこっちを見てくる。もういいかな言っても。

「レイさんは僕の召喚獣なんだ」
「……? 召喚獣ってあの、魔法使いが連れてる猫とかの?」
「うん」
「……人間だぞ?」
「人間じゃないんだよ」

 僕と名無しの間に奇妙な空気が流れた。

「そうです。私は人間じゃありません」
「わっ、レイさん」
「フィル。夜中に変な人といてはいけませんよ」

 振り返ると、そこにはレイさんがいた。

「名無し、私は人間ではないので。残念でした」
「どう見たって女じゃないか」
「ほう……私の変身も大した物ですね」

 レイさんは名無しの前に立ちはだかると、ミシミシと鱗を出現させた。禍々しいような黒い鱗に赤い角。

「この通り、私はドラゴンです。もうロージアンの街に帰りなさい」
「……まじか」

 名無しはしばらく無言で立ち尽くした。そして笑い出した。

「はははっ、ドラゴンと旅……おとぎ話かよ。いいじゃねえか。俺はまだ付いて行くぜ」
「名無し、あんたを連れて行くメリットがないんだけど」
「んじゃ、俺は御者でもやるよ。それでいいだろ」
「……悪さをしないなら」
「んじゃ決まり!」

 そう言って名無しは家の中に戻っていった。はぁ、マイペースなやつだ。

「フィル、甘いですね」
「こんなとこで放り出すのもちょっとかわいそうだと思って……」
「さ、明日も早いですよ。私達も寝ましょう」
「うん」

 僕は高く昇った月を見上げてからベッドへと戻った。



「さぁ、皆さん旅支度は大丈夫ですか?」
「はい、泊めていただいてありがとうございました」
「それでは私から旅の無事を祈って、贈り物をしましょう」

 ヒューさんが僕の首から書けていた旅人のネックレスを手に取った。ふうっとヒューさんがそれを撫でると赤紫色に変化した。

「魔除けの護符を書き加えました。何かの役に立てばいいんですが」
「ありがとうございます」
「それからアルヴィー」
「俺?」
「君に召喚獣を持つことを許します。大事にするんですよ」
「わーい! 本当??」

 そういえばアルヴィーは召喚獣を連れていないな。ヒューさんから許しが出ていなかったのか。

「それではアルヴィー、この魔法陣に手を置いて下さい」
「はい。霊よ、神の名において我に従う魔獣を召還する。我の求めに答えよ!」

 魔法陣から光が発生し、やがて収まるとそこには一羽のフクロウが居た。

「……フクロウだ」
「私は知恵の精イルム、あなたが私の主か」
「ああ、よろしくな」

 イルムは銀色の翼を羽ばたかせてアルヴィーの肩に舞い降りた。

「ぴぃ!」
「おや……ワイバーンの子か」
「ぴい!」

 イルムがマギネに挨拶すると、マギネは小さな鉤爪を振った。

「それじゃあ気を付けていってらっしゃい」
「はいヒューさん」
「はい師匠!」

 そうして僕達は一路、父さんの残した研究所に向かって馬車を走らせた。

「場所はバスキの北東、メッロ近辺の森!」
「ほら名無し! 道間違えんなよ」

 アルヴィーが御者台の名無しに向かって大声をあげた。

「へぇへぇ」

 父さんのゆかりの地かぁ……。きっと母さんも生きていたら行きたかっただろうな。

「フィル、おしりが痛くなるといけません、さあ膝の上に」
「いいよ! いままで大丈夫だったし!」
「むう。そうですか……」
「フィル、お前大変だな」

 そんなアルヴィーの同情の視線を向けられながら、馬車は走る。

「それにしてもアルヴィーの召喚獣、かっこいいね」
「うん、よかったフクロウで。な、イルム」
「ありがたき幸せ」

 イルムの羽毛はふかふかで気持ち良さそうだ。

「アルヴィー……ちょっと触っていい?」
「ああ、いいけど……」

 僕はおそるおそるイルムの首筋に触った。うわあもっふもっふだ。指が埋まってく……。

「む……フィル殿……眠くなります……」
「フィル、それくらいで終わり!」

 僕のフィンガーテクでうとうととし始めたイルムをアルヴィーは取り上げた。

「ああ、怖いお兄ちゃんでちゅたねー」
「我が主、召喚獣はペットではありませぬ」
「ぐっ」
「アルヴィー、言われてやんのー」

 僕がけらけらと笑うと、アルヴィーは心底悔しそうな顔で僕を小突いた。

「くそ! 笑うな!」
「ほらほら二人とも。ふざけていると馬車からころげ落ちますよ」

 そんな僕達はレイさんから注意されながら旅を続けるのであった。
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