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22話 葡萄畑と陰謀
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「うわーっ、気持ちいい」
「これが全部ワインになる訳ですか」
僕等がいるのは国立の葡萄園だ。一面に葡萄の木が生い茂ってるのは壮観だ。
「収穫は一月前ほどに終わったのが残念です」
大公は僕達を案内しながらそう言った。
「ですが……仕込んですぐの新酒があります。味見してみて下さい」
収穫小屋で僕達はワインを試飲した。僕はなめただけだけど、レイさんはカパカパと水のように飲んでいる。
「ちょっと、レイさん……」
「ううん、とってもフルーティ……この位じゃ酔いませんよ」
レイさんは僕をうるさそうに見下ろしていた。
「あの、フィル様。この国に温泉は湧きますかね。このワインと温泉があれば……友好国の貴人の保養地にしたいと思うんですよ」
「温泉ですか……」
僕はチラリとレイさんを見た。レイさんはキレイなガラスのグラスをくるくると弄びながらポツリと呟いた。
「ワインと温泉ですか……」
「レイさん?」
「知ってます? フィル。ワインからは硝石が取れるんですよ」
「硝石……?」
突然何を言い出すんだ、と僕は思ったがふとあることに気が付いた。
「そうだ、温泉からは硫黄が取れる……?」
「どうしましたかな、フィル殿」
大公が不思議そうな顔をして僕に問いかけた。この人結構たぬきだな。
「硫黄と硝石があると何が出来るか知ってますか、大公」
「ほう……?」
「火薬です。大公はティリキヤと同盟を組んだばかりなのに火薬を量産するつもりですか?」
「おや……私はそんなつもりでは……。しかし他国にそのように誤解されては困るな。温泉は諦めるとするか」
「……」
大公は図星だったのか、温泉堀りの話は引っ込めた。このまま話に乗って温泉を掘ってたら戦争の片棒を担いでいたのかもしれないのか。
「賢い子は好きです」
レイさんはそう言ってまたワインを飲み干した。
「おかえりなさい」
葡萄畑から帰ると、シオンとバージルが出迎えてくれた。僕はちょっとむっつりした顔をしていたのかもしれない。
「あの、父上が何かしましたか?」
「あ……いいえ」
僕はバージルの人の良さそうな顔を見た。大公がバージルを心配に思うのも無理もないか……。
「シオン、もう大丈夫なの?」
「ええ、ご心配お掛けしました」
シオンがドレスの裾を引いてお辞儀をする。なんかこんな事されちゃうとシオンが遠くの人みたいに思えちゃうな。
「フィル、ちょっと疲れました。部屋に戻りましょう」
「あ、うん……」
レイさんは僕の腕を引っ張って、部屋へと戻った。
「どうしたの、レイさん」
「フィルはいつまでこの国にいるつもりでしょうか」
「それは……シオンがここでやっていけるって思ってから」
「それはいつですか? シオンが駄目でも、他の姫が輿入れするだけなんですよ。それはシオンも分かっています」
「……でも」
僕はまだ安心してこの国を離れられないと思った。だって、取り残される寂しさは僕が一番分かってるんだもの。
「いいです。しっかり考えてください」
そういってレイさんはソファに座り込んだ。そのまま夕食にも出なかったので、僕は一人でご飯を食べた。
「ねぇ……レイさん、考えたんだけど僕は誰か一人シオンを思ってくれる人がいればいいんじゃないかなって思った」
「フィル、シオンにはマギネもレタも居ますよ」
「そうじゃなくて……だってシオンはこの国で生きていくんだよ」
僕がそう言うと、レイさんは頭を撫でてきた。
「フィル、そうですね。同じ人にずっと守ってもらう事はできませんね」
……それは、レイさんもそうだって事なんだろうか。それは嫌だな。そう思っている時、部屋のドアがノックされた。
「はい……あれ、レタ。どうしたの」
「フィル様、ちょっとお話をさせてください」
「いいけど……」
そこにいたのはレタだった。少し顔色が悪い。僕はお茶を淹れるとレタに渡した。
「はい、どうぞ」
「申し訳ありません……」
レタはお茶を一口飲むと、ふうと息を吐いた。
「フィル様、シオンひい様をつれてこの国から逃げて下さい!」
「……ええ?」
レタの口から思いも寄らぬ言葉が出た。
「な、なんだって……」
「この国の侍女はシオン様が気に入らないようです。昨日から陰口を言ったり、物を隠したり、コルセットをうんと締め上げたり……」
「それでシオンの顔色が悪かったのか」
「……おひい様、何にも言わないんです」
そういってレタは目を潤ませた。僕はあわててハンカチをレタに渡した。
「それじゃ、レタはどうするつもりさ」
「ティリキヤの侍女も一人は必要でしょうからここに残ります」
「他のお姫様が来ても同じ事されるんじゃない?」
「そうなんですけど……。私とシオン様は一緒に育ったものですから……」
余計につらいって事か……。レイさんが居れば、この国から攫って行くこともできるだろう。
「よし、レタ、そしたら……」
その時、部屋のドアがノックされた。あわわ、もうバレたの!?
「レタ、とりあえず……ここ、ベッドの下に隠れて!」
レタをベッドの下に隠して、僕はドアを開けた。すると……
「……シオン?」
「フィル様、レタを連れてこの国から逃げてください」
「……ええ!?」
なにこれどうなってるの!? 僕は盛大に首を傾げた。
「これが全部ワインになる訳ですか」
僕等がいるのは国立の葡萄園だ。一面に葡萄の木が生い茂ってるのは壮観だ。
「収穫は一月前ほどに終わったのが残念です」
大公は僕達を案内しながらそう言った。
「ですが……仕込んですぐの新酒があります。味見してみて下さい」
収穫小屋で僕達はワインを試飲した。僕はなめただけだけど、レイさんはカパカパと水のように飲んでいる。
「ちょっと、レイさん……」
「ううん、とってもフルーティ……この位じゃ酔いませんよ」
レイさんは僕をうるさそうに見下ろしていた。
「あの、フィル様。この国に温泉は湧きますかね。このワインと温泉があれば……友好国の貴人の保養地にしたいと思うんですよ」
「温泉ですか……」
僕はチラリとレイさんを見た。レイさんはキレイなガラスのグラスをくるくると弄びながらポツリと呟いた。
「ワインと温泉ですか……」
「レイさん?」
「知ってます? フィル。ワインからは硝石が取れるんですよ」
「硝石……?」
突然何を言い出すんだ、と僕は思ったがふとあることに気が付いた。
「そうだ、温泉からは硫黄が取れる……?」
「どうしましたかな、フィル殿」
大公が不思議そうな顔をして僕に問いかけた。この人結構たぬきだな。
「硫黄と硝石があると何が出来るか知ってますか、大公」
「ほう……?」
「火薬です。大公はティリキヤと同盟を組んだばかりなのに火薬を量産するつもりですか?」
「おや……私はそんなつもりでは……。しかし他国にそのように誤解されては困るな。温泉は諦めるとするか」
「……」
大公は図星だったのか、温泉堀りの話は引っ込めた。このまま話に乗って温泉を掘ってたら戦争の片棒を担いでいたのかもしれないのか。
「賢い子は好きです」
レイさんはそう言ってまたワインを飲み干した。
「おかえりなさい」
葡萄畑から帰ると、シオンとバージルが出迎えてくれた。僕はちょっとむっつりした顔をしていたのかもしれない。
「あの、父上が何かしましたか?」
「あ……いいえ」
僕はバージルの人の良さそうな顔を見た。大公がバージルを心配に思うのも無理もないか……。
「シオン、もう大丈夫なの?」
「ええ、ご心配お掛けしました」
シオンがドレスの裾を引いてお辞儀をする。なんかこんな事されちゃうとシオンが遠くの人みたいに思えちゃうな。
「フィル、ちょっと疲れました。部屋に戻りましょう」
「あ、うん……」
レイさんは僕の腕を引っ張って、部屋へと戻った。
「どうしたの、レイさん」
「フィルはいつまでこの国にいるつもりでしょうか」
「それは……シオンがここでやっていけるって思ってから」
「それはいつですか? シオンが駄目でも、他の姫が輿入れするだけなんですよ。それはシオンも分かっています」
「……でも」
僕はまだ安心してこの国を離れられないと思った。だって、取り残される寂しさは僕が一番分かってるんだもの。
「いいです。しっかり考えてください」
そういってレイさんはソファに座り込んだ。そのまま夕食にも出なかったので、僕は一人でご飯を食べた。
「ねぇ……レイさん、考えたんだけど僕は誰か一人シオンを思ってくれる人がいればいいんじゃないかなって思った」
「フィル、シオンにはマギネもレタも居ますよ」
「そうじゃなくて……だってシオンはこの国で生きていくんだよ」
僕がそう言うと、レイさんは頭を撫でてきた。
「フィル、そうですね。同じ人にずっと守ってもらう事はできませんね」
……それは、レイさんもそうだって事なんだろうか。それは嫌だな。そう思っている時、部屋のドアがノックされた。
「はい……あれ、レタ。どうしたの」
「フィル様、ちょっとお話をさせてください」
「いいけど……」
そこにいたのはレタだった。少し顔色が悪い。僕はお茶を淹れるとレタに渡した。
「はい、どうぞ」
「申し訳ありません……」
レタはお茶を一口飲むと、ふうと息を吐いた。
「フィル様、シオンひい様をつれてこの国から逃げて下さい!」
「……ええ?」
レタの口から思いも寄らぬ言葉が出た。
「な、なんだって……」
「この国の侍女はシオン様が気に入らないようです。昨日から陰口を言ったり、物を隠したり、コルセットをうんと締め上げたり……」
「それでシオンの顔色が悪かったのか」
「……おひい様、何にも言わないんです」
そういってレタは目を潤ませた。僕はあわててハンカチをレタに渡した。
「それじゃ、レタはどうするつもりさ」
「ティリキヤの侍女も一人は必要でしょうからここに残ります」
「他のお姫様が来ても同じ事されるんじゃない?」
「そうなんですけど……。私とシオン様は一緒に育ったものですから……」
余計につらいって事か……。レイさんが居れば、この国から攫って行くこともできるだろう。
「よし、レタ、そしたら……」
その時、部屋のドアがノックされた。あわわ、もうバレたの!?
「レタ、とりあえず……ここ、ベッドの下に隠れて!」
レタをベッドの下に隠して、僕はドアを開けた。すると……
「……シオン?」
「フィル様、レタを連れてこの国から逃げてください」
「……ええ!?」
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