18 / 51
17話 城塞都市ミンガルド
しおりを挟む
「シオン、シオン」
マギネの定位置はシオンの肩の上になったみたいだ。まだまだ大きくなるそうなので、今のうちだけだろうけど。
「ワイバーンってなにを食べるんだろう」
「肉ですよ、このような新鮮な肉だとなおいいです」
レイさんは手綱を握っていながら、一瞬飛び降りてねずみを捕まえてまた御者台に戻るという離れ業をやってのけた。
……本当はレイさんは馬車なんか要らないのかもしれない。
「すごいけど安全運転でね」
「わかっています」
レイさんは鼻歌交じりにねずみの首を折って、こっちに投げてよこした。
「ぎゃっ!!」
僕は思わず悲鳴を上げたけれど、シオンは小刀を出してスッスッとねずみの皮を剥いでマギネに与えた。
「うま、うま、うま」
「シオンはお姫様なのによく平気だね」
「ワイバーンの世話は王族の嗜みですから」
「へぇ」
おいしそうにねずみを食べているマギネはかわいいけどね。
「あっ、次の街が見えて来ました!」
街道の向こうに堅牢な市壁を備えた街が見えてきた。次の目的地は城塞都市ミンガルド。国境最後の都市だ。と、いう事は……。
「この街での滞在が最後になるね」
「ええ、フィル様、レイ様ありがとうございました」
シオンが頭を下げる。
「いやいや、サンレーム公国でちゃんとシオン達が幸せになれるかどうか見届けてからさよならだからね!」
僕がそう言うと、シオンは頷いた。
「この街から手紙を出して迎えに来て貰います。嫁入り道具も何もかも盗賊に持っていかれてしまいましたし、私を私だと証明するのはマギネくらいしかいませんから」
「そうか……なんだかドキドキするな……」
「フィル達、街の中に入りますよ」
馬車はとうとう最後の都市、ミンガルドの中に入った。
「うわあ……」
そこは迷路のような街だった。何度も城壁を築いては拡張していったのだろう。石造りの壁と壁の隙間に家が建ち並んでいる。
僕達はそんな積み木のようになっている宿の一つを取った。
「それじゃあ、手紙を書きますので」
「うん、ゆっくり書きなよ」
シオン達が手紙を書いている間に僕とレイさんは街のなかをぶらつく事にした。
「この都市は火魔法の行使が厳禁だって入り口の衛兵が言ってたね」
「これだけ建物が密集していたらそうでしょうね。宿も火石しかありませんでした」
「ああ、あの火石ストーブすごかったね。ちょっと欲しいかも。煤も出ないしいいよね」
「市場を見てみますか?」
「うん、そうしよう」
僕達はプラプラと市場の方に向かった。
「すいません、火石のストーブはどこで買えますか?」
街の人に聞くと道具屋のある場所を教えてくれた。そこに向かうと、大きな暖炉から手持ちサイズの携帯用まで様々な火石のストーブが売っていた。
「僕とレイさんだけなら小さいサイズのでいいか」
僕達はそこで小さめのサイズのを選んだ。店員さんに頼んで包んで貰う。
「お買い上げありがとうございます」
「色々種類があるので迷っちゃいました」
「ここでこれだけ火石ストーブが作られるようになったのは訳がありましてね」
「へぇ?」
「昔、ヒドい火事があったのです。そこで焼け死んだ幽霊が火石のストーブを作れと言ったとかなんとか……まあ昔話ですけどね」
ふうん、そうか……。幽霊……。
「あら、フィル。お化けが怖いんですか」
「そそそ、そんな事ないよ」
「大丈夫、私がついてますから。ぴったりくっついて……ふふ」
うーん、僕はお化けより厄介なのに憑かれているかもな。そんな風に考えながら僕は宿へと戻った。
「あ、おかえりなさい」
「どう。手紙書き終わった?」
「ええ。さっき出して来ました。……それは?」
「火石のストーブだよ。ここの都市の名物みたいなものなんだって」
「名物ですか」
「ティリキヤの名物ってなあに?」
僕はふとシオンにそう聞いた。見た事のない異国。どんな風景なんだろう?
「そうですね、山岳地帯ですので貴石とか……木工品なんかも有名ですね。それからキレイな水で仕込んだお酒とか」
「へぇ……」
いつかレイさんと行ってみようかな。お酒が好きなレイさんは喜ぶかもしれない。
「じゃあ、手紙の返事が来るまでここで待機だね」
「そうなりますね」
「シオン達も街の様子を見てくるといいよ。迷路みたいで面白かったよ」
「はい、そうします。自由に街を歩けるのもここまでかも知れませんしね」
シオンはそう言ってにっこりと笑った。
「……政略結婚かぁ」
その夜、僕はベッドに寝っ転がってシオンに決められた結婚について考えて居た。お互いの国の結びつきを強化するための嫁入り。
「私は長いこと生きていましたが」
窓の外を眺めながらワインを飲んでいたレイさんがふと呟いた。
「人間の夫婦はいまだに良く分かりません。好き合っても後に憎しみあう事もあるし、裕福でも不幸な結婚もあるし、貧しくても仲の良い夫婦もいます」
「夫婦かあ……僕の父さんと母さんは……」
「フィルの?」
「……なんでもない。僕、もう寝るよ」
僕は父さんと母さんの事をちょっと口にしかけて……そしてやめた。二人とももうこの世にはいないんだもの。その事を考える度、僕は悲しくなってしまうんだ。
マギネの定位置はシオンの肩の上になったみたいだ。まだまだ大きくなるそうなので、今のうちだけだろうけど。
「ワイバーンってなにを食べるんだろう」
「肉ですよ、このような新鮮な肉だとなおいいです」
レイさんは手綱を握っていながら、一瞬飛び降りてねずみを捕まえてまた御者台に戻るという離れ業をやってのけた。
……本当はレイさんは馬車なんか要らないのかもしれない。
「すごいけど安全運転でね」
「わかっています」
レイさんは鼻歌交じりにねずみの首を折って、こっちに投げてよこした。
「ぎゃっ!!」
僕は思わず悲鳴を上げたけれど、シオンは小刀を出してスッスッとねずみの皮を剥いでマギネに与えた。
「うま、うま、うま」
「シオンはお姫様なのによく平気だね」
「ワイバーンの世話は王族の嗜みですから」
「へぇ」
おいしそうにねずみを食べているマギネはかわいいけどね。
「あっ、次の街が見えて来ました!」
街道の向こうに堅牢な市壁を備えた街が見えてきた。次の目的地は城塞都市ミンガルド。国境最後の都市だ。と、いう事は……。
「この街での滞在が最後になるね」
「ええ、フィル様、レイ様ありがとうございました」
シオンが頭を下げる。
「いやいや、サンレーム公国でちゃんとシオン達が幸せになれるかどうか見届けてからさよならだからね!」
僕がそう言うと、シオンは頷いた。
「この街から手紙を出して迎えに来て貰います。嫁入り道具も何もかも盗賊に持っていかれてしまいましたし、私を私だと証明するのはマギネくらいしかいませんから」
「そうか……なんだかドキドキするな……」
「フィル達、街の中に入りますよ」
馬車はとうとう最後の都市、ミンガルドの中に入った。
「うわあ……」
そこは迷路のような街だった。何度も城壁を築いては拡張していったのだろう。石造りの壁と壁の隙間に家が建ち並んでいる。
僕達はそんな積み木のようになっている宿の一つを取った。
「それじゃあ、手紙を書きますので」
「うん、ゆっくり書きなよ」
シオン達が手紙を書いている間に僕とレイさんは街のなかをぶらつく事にした。
「この都市は火魔法の行使が厳禁だって入り口の衛兵が言ってたね」
「これだけ建物が密集していたらそうでしょうね。宿も火石しかありませんでした」
「ああ、あの火石ストーブすごかったね。ちょっと欲しいかも。煤も出ないしいいよね」
「市場を見てみますか?」
「うん、そうしよう」
僕達はプラプラと市場の方に向かった。
「すいません、火石のストーブはどこで買えますか?」
街の人に聞くと道具屋のある場所を教えてくれた。そこに向かうと、大きな暖炉から手持ちサイズの携帯用まで様々な火石のストーブが売っていた。
「僕とレイさんだけなら小さいサイズのでいいか」
僕達はそこで小さめのサイズのを選んだ。店員さんに頼んで包んで貰う。
「お買い上げありがとうございます」
「色々種類があるので迷っちゃいました」
「ここでこれだけ火石ストーブが作られるようになったのは訳がありましてね」
「へぇ?」
「昔、ヒドい火事があったのです。そこで焼け死んだ幽霊が火石のストーブを作れと言ったとかなんとか……まあ昔話ですけどね」
ふうん、そうか……。幽霊……。
「あら、フィル。お化けが怖いんですか」
「そそそ、そんな事ないよ」
「大丈夫、私がついてますから。ぴったりくっついて……ふふ」
うーん、僕はお化けより厄介なのに憑かれているかもな。そんな風に考えながら僕は宿へと戻った。
「あ、おかえりなさい」
「どう。手紙書き終わった?」
「ええ。さっき出して来ました。……それは?」
「火石のストーブだよ。ここの都市の名物みたいなものなんだって」
「名物ですか」
「ティリキヤの名物ってなあに?」
僕はふとシオンにそう聞いた。見た事のない異国。どんな風景なんだろう?
「そうですね、山岳地帯ですので貴石とか……木工品なんかも有名ですね。それからキレイな水で仕込んだお酒とか」
「へぇ……」
いつかレイさんと行ってみようかな。お酒が好きなレイさんは喜ぶかもしれない。
「じゃあ、手紙の返事が来るまでここで待機だね」
「そうなりますね」
「シオン達も街の様子を見てくるといいよ。迷路みたいで面白かったよ」
「はい、そうします。自由に街を歩けるのもここまでかも知れませんしね」
シオンはそう言ってにっこりと笑った。
「……政略結婚かぁ」
その夜、僕はベッドに寝っ転がってシオンに決められた結婚について考えて居た。お互いの国の結びつきを強化するための嫁入り。
「私は長いこと生きていましたが」
窓の外を眺めながらワインを飲んでいたレイさんがふと呟いた。
「人間の夫婦はいまだに良く分かりません。好き合っても後に憎しみあう事もあるし、裕福でも不幸な結婚もあるし、貧しくても仲の良い夫婦もいます」
「夫婦かあ……僕の父さんと母さんは……」
「フィルの?」
「……なんでもない。僕、もう寝るよ」
僕は父さんと母さんの事をちょっと口にしかけて……そしてやめた。二人とももうこの世にはいないんだもの。その事を考える度、僕は悲しくなってしまうんだ。
10
お気に入りに追加
1,030
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。
金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。
デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。
天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。
そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。
リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。
しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。
さて、カナリアは見つかるのか?
アマーリアはカナリアなのか?
緩い世界の緩いお話です。
独自の異世界の話です。
初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。
応援してもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
娘と二人、異世界に来たようです……頑張る母娘の異世界生活……ラブ少し!
十夜海
ファンタジー
母一人、子一人。
天涯孤独でたった二人の家族。
でも、高校の入学式へ向かう途中に居眠り運転のダンプカーに突っ込まれて二人仲良く死亡……。
私はどーでもいい、だって娘まで生まれた。でも、娘はまだ16歳なりかけ。なんで?なんで死ななきゃならない。
厳しい受験を乗り越えて、ようやくキャピキャピ楽しい高校生活だ。彼氏だってできるかもしれない。
頑張ったのに。私だって大学までやるために身を粉にして頑張ったのだ。
大学どころか、高校生活までできないなんて!
ひどい。
願ったのは、娘の幸せと恋愛!
気づけば異世界に……。
生きてる?やったね!
ん?でも高校ないじゃん!
え?魔法?あ、使える。
あれ?私がちっさい?
あれ?私……若い???
あれぇ?
なんとか娘を幸せな玉の輿に乗せるために頑張る母。
そんな母娘の異世界生活。
でも……おかしいな?なんで私が子供なんですか?
##R18で『なろう』で投稿中です。
ラブ少なめなので、R15でファンタジー系で手直ししつつ、こちらに投稿させていただきます。
贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~
鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。
だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、
そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。
そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、
一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。
そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、
災厄級の存在となってしまう。
この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。
著作権は作者である私にあります。
恋愛要素はありません。
笑いあり涙ありのファンタジーです。
毎週日曜日が更新日です。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます
染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。
といっても、ほとんど前と一緒ですが。
変わり者で、落ちこぼれ。
名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。
それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。
ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。
そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。
そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。
父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。
これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。
隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。
8/26HOTラインキング1位達成!
同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる