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11話 火山の村

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 僕達は翌朝、例の村に向かって馬車を走らせた。

「こっちの方向といってましたが……」

 レタがあたりを見回して息を飲んだ。それもそのはず、だんだんと地表が白く変色している。

「なんでしょうね、おひい様」
「うーん」
「二人とももう着くよ」

 馬車はとある村にたどり着いた。村はまるで雪をかぶったかのように建物も変色していた。

「これはひどいですね」
「ああ、これは灰だね」

 僕は地面をひとつまみすくって掌に乗せた。この細かい灰は火山灰だ。

「おおい、あんた達こんな村になんの用だ」
「ああただの旅人です。フィルと言います。この村の作物がやられたと聞いて気になったので」

 通りかかった村人が声をかけてきたので、僕は事情を聞くことにした。

「そうなんだよ、葉野菜も果物もみんなこの灰のおかげで枯れてしまったんだ……みんなこの冬をどうすごそうか頭を抱えているよ」
「この灰はいつから?」
「先月に向こうの山が噴火したんだ。村の年寄りの話によると数百年ぶりだとか」
「へえ、火山灰なのか」

 僕は村人が指さした方向をみると、山がまだ煙をふいていた。

「そうそう、聞いてくれ食物の枯れた後に雑草が生えまくって大変なんだ」
「雑草まで」

 村人は畑まで僕達を連れて行ってくれた。そこに生えている草を僕は引っこ抜いた。

「この葉の形は……レイネンソウだ」
「へぇ、雑草じゃないんですかい」
「雑草っていう草はないですよ……しかし、この草は生命力は強いですけど、切り傷に使えるくらいですね」
「ぼっちゃん詳しいね」

 僕がなにか役に立てる事はないのかな。諦めてこの村を出ようかと考えたところだった。

「レイネンソウってつまりはミナナの事よね? レタ」
「そうですね。フィルさん、この草は私達の国では砂糖と煮込んでジャムにして丸い独特なパンにつけて食べるんですよ」
「へえ、食べられるんだっておじさん」
「へえええ……」

 村人のおじさんは関心したように声を漏らした。

「フィル、ちょっとこっちに来て下さい」
「どうしたの?」

 隅でじっとしたレイさんが僕を呼んだ。

「最近火山が噴火したとあの村人は言っていたでしょう?」
「そうですね」
「なのでもしやと思って地脈を探ってみたのです」
「地脈……すごいね、レイさんは」

 レイさんはスッと村の一角を指さした。

「あそこを掘れば温泉の源泉が湧き出ます」
「おお、そうしたらここは保養地になるかもしれないよ」
「という訳でフィル、あそこを掘るのですババーンと魔法で」
「いや……僕はそんな一発で穴を空けるような魔法は使えませんよ」

 僕はふるふると首を振った。

「しかたありませんねぇ……私がやりますから、フィルは調子を合わせて下さい」
「なんでそこまで……」
「だってフィルがこの村を助けたいと言ったのでしょう? またドラゴンだとばれて大騒ぎになるのも厄介ですし」
「うーん、そっか」

 そこからは、僕とレイさんの茶番がはじまった。僕は村人を集めて村の一角で大声をはりあげた。

「おお、神の名の下、地の精霊に命ずる! 温泉よ湧け!」

 その隙にレイさんがサッと魔法を行使した。するとドカンと大穴が空いてそこに温泉が湧いた。

「おおーっ!! 魔法使いのぼっちゃんすごいな!!」

 村人の喝采が僕に向けられる。僕は微妙な気持ちになりながら、村人に言った。

「この温泉に観光客を呼んで、レイネンソウのジャムでおもてなしすればここはいい保養地になると思いますよ!」

 そう言うと、村の長老がしわしわの手を伸ばして僕にお礼を言った。

「おお、偉大な魔法使いのフィル様この事は長くこの村に伝え続けましょう」
「そうだ、フィル様万歳!」
「万歳!」
「ああああ……」

 なんだか大事になってしまった。僕が頭を抱えて振り返るとそこにはさらに厄介な事が起きていた。

「伝説の精霊の竜使いにして偉大な魔法使い……フィルさん、いやフィル様」
「フィル様……」

 シオンとレタがキラキラした目で僕を見ていたのだ。

「うん、君たちはジャムのレシピを村の人達に教えてあげて」
「はっ、はい分かりましたフィル様」

 ふう、やれやれ……すっかりフィル様になってしまった。

「フィル様、この村にお泊まり下さい」
「どうか一番風呂に浸かっていってください!」

 村人達が懇願してくる。ちょっと寄るだけのつもりだったんだけど、なんでこうなったかなぁ……。

「ちょっとゆっくりしましょうよ、この村特産の酒もあるらしいですし」
「レイさん……。まあ仕方ないか」

 僕達はこの村に一泊する事にした。
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