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8話 仕事をするという事
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そのままフローリオ商会の第二支店の商談室に通されたマイアは、レイモンドから魔道具の料金を受け取った。その中身を見てマイアは驚いた。
「こんなに……」
「正当な報酬ですよ。こちらの報酬は三割きっちり貰っていますし。僕としては無名の新人の作品なのであまり高値はつけられなかった、という感じです。ちゃんと受け取ってくださいね」
「はい……」
マイアはちょっとおっかなびっくりその金貨を受け取った。
「マイアさんの魔道具の評判が高まればうちも儲かるんで!」
「は、はい……」
「ところで次の作品は何か考えているんですか?」
「いえ……まだ……」
マイアはそう答えて、ああこれが仕事なのだ。と思った。仕事であれば次々と人々の役に立つ魔道具を作り続けなくてはならない。
「これは僕の考えなんですが……」
考え込んでしまったマイアにレイモンドはおもむろに口を開いた。
「魔力を持たない一般の人が扱える魔道具。これだけでもう希少なものです。そしてそれを作っているのはマイアさんだけ。だからその希少性は大事にしたいですね」
「はぁ……」
「商人として僕はそう思う、って事です。そうですね……マイアさんは……困った誰かの役に立てるような、そんな作品を作っていけばいいんじゃないかな」
「困った誰か……ですか」
「僕の所にはそんな人が沢山来ます。商品だけじゃなくて人を繋ぐのも商売です」
にっとレイモンドは笑った。マイアはその笑顔に彼の仕事への自信を感じた。
「なんかそれっていいですね」
ぽつりとマイアは呟いた。森の中のアシュレイとの生活。それはそれで穏やかで静かな生活だった。だけど、今日のように誰かから感謝されたりするのはとても気分がいい。これが仕事をする……一人前に稼ぐという事なのだろうか。
「じゃあ、また何か考えます」
「はい、僕もマイアさんに頼みたいお客さんがいるか探しますよ」
そう言って二人は別れた。商会を出て街を出る。その間、マイアは次の作品のアイディアを考え込んでいた。
「あ……雨……」
アシュレイの言った通りに雨が降ってきた。細かい霧のような雨がマイアのほほに当たる。
「水の霊に命じる。この身にかかる雨を避けよ」
マイアは雨避けの呪文を唱えた。そしてそのまま軽い足取りで家へと帰った。
「ただいま帰りました!」
「ああ、お帰り。濡れてないか?」
にこにこしながら帰って来たマイアに居間で本を読んでいたアシュレイはそう声をかけた。
「ちゃんと雨避けしましたよ」
「出かけに天気を読むのを忘れたくせに。もしかして呪文を忘れたりしてないな?」
「ちゃんとできますよ。『西方の風よ、明日の朝の空の模様を聞かせよ』……明日は晴れです」
「よし」
アシュレイはマイアが正解を答えたのに思わず頷いたが、すぐにしまったと思った。もうマイアに魔法を教えないと言いながら、ついこれまでのように接してしまった。
「すぐに夕飯作りますねー」
「なぁマイア……」
「なんですか、お腹すいちゃいました?」
ケープを脱いでさっそく夕飯の仕度にかかろうというマイアに、アシュレイは問いかけた。マイアの的外れな返事にちょっとぶすっとしながら、アシュレイは言葉を続けた。
「どうだった……その……道具の買い手は……」
「それ! ちょっと聞いて下さいアシュレイさん!」
「あ、ああ」
アシュレイはそう聞いた瞬間にマイアはパッと顔を輝かせて、アシュレイの両腕を掴んだ。
「とても喜んでいました! 私も嬉しくて……こんな気持ち初めてです」
「そうか……良かったな」
「あとはご飯を食べながらゆっくりお話します」
「ああ……」
アシュレイはパッと手を離してエプロンをして台所に向かったマイアの後ろ姿を少々あっけにとられながら眺めていた。
「お待たせしましたー」
テーブルの上には野菜のサラダとスープとパン、メインはマスタードソースを添えた厚切りのハムステーキ。ささっと作ったそれをマイアはてきぱきとテーブルに並べていく。
「ではいただきましょう、アシュレイさん」
「ああ」
アシュレイはマイアの様子を窺いながら食事に手をつけた。
「で……どんな人間だったんだ。アレを買ったのは」
「それがですねー、小説家さんだったんです」
「小説……?」
「事故で腕を無くされて、でも私の魔道具でまた書く事が出来るって!」
マイアは興奮気味にそこまで一気にまくしたてると、アシュレイをじっと見た。
「私……仕事っていいなって思いました。アシュレイさんが食い扶持探せって言い出さなかったら……こんな気持ち知らなかったかと思って」
「……ん」
「アシュレイさん、ありがとうございます」
マイアはきっかけとなったアシュレイに感謝の言葉を述べた。
「あー、まあ。継続してこそ仕事だからな」
「そうですね。次も何か考えないと」
マイアの眼はこれからの希望に満ちていた。それを見たアシュレイはマイアに悟られぬよう少しだけ微笑みを浮かべた。
「こんなに……」
「正当な報酬ですよ。こちらの報酬は三割きっちり貰っていますし。僕としては無名の新人の作品なのであまり高値はつけられなかった、という感じです。ちゃんと受け取ってくださいね」
「はい……」
マイアはちょっとおっかなびっくりその金貨を受け取った。
「マイアさんの魔道具の評判が高まればうちも儲かるんで!」
「は、はい……」
「ところで次の作品は何か考えているんですか?」
「いえ……まだ……」
マイアはそう答えて、ああこれが仕事なのだ。と思った。仕事であれば次々と人々の役に立つ魔道具を作り続けなくてはならない。
「これは僕の考えなんですが……」
考え込んでしまったマイアにレイモンドはおもむろに口を開いた。
「魔力を持たない一般の人が扱える魔道具。これだけでもう希少なものです。そしてそれを作っているのはマイアさんだけ。だからその希少性は大事にしたいですね」
「はぁ……」
「商人として僕はそう思う、って事です。そうですね……マイアさんは……困った誰かの役に立てるような、そんな作品を作っていけばいいんじゃないかな」
「困った誰か……ですか」
「僕の所にはそんな人が沢山来ます。商品だけじゃなくて人を繋ぐのも商売です」
にっとレイモンドは笑った。マイアはその笑顔に彼の仕事への自信を感じた。
「なんかそれっていいですね」
ぽつりとマイアは呟いた。森の中のアシュレイとの生活。それはそれで穏やかで静かな生活だった。だけど、今日のように誰かから感謝されたりするのはとても気分がいい。これが仕事をする……一人前に稼ぐという事なのだろうか。
「じゃあ、また何か考えます」
「はい、僕もマイアさんに頼みたいお客さんがいるか探しますよ」
そう言って二人は別れた。商会を出て街を出る。その間、マイアは次の作品のアイディアを考え込んでいた。
「あ……雨……」
アシュレイの言った通りに雨が降ってきた。細かい霧のような雨がマイアのほほに当たる。
「水の霊に命じる。この身にかかる雨を避けよ」
マイアは雨避けの呪文を唱えた。そしてそのまま軽い足取りで家へと帰った。
「ただいま帰りました!」
「ああ、お帰り。濡れてないか?」
にこにこしながら帰って来たマイアに居間で本を読んでいたアシュレイはそう声をかけた。
「ちゃんと雨避けしましたよ」
「出かけに天気を読むのを忘れたくせに。もしかして呪文を忘れたりしてないな?」
「ちゃんとできますよ。『西方の風よ、明日の朝の空の模様を聞かせよ』……明日は晴れです」
「よし」
アシュレイはマイアが正解を答えたのに思わず頷いたが、すぐにしまったと思った。もうマイアに魔法を教えないと言いながら、ついこれまでのように接してしまった。
「すぐに夕飯作りますねー」
「なぁマイア……」
「なんですか、お腹すいちゃいました?」
ケープを脱いでさっそく夕飯の仕度にかかろうというマイアに、アシュレイは問いかけた。マイアの的外れな返事にちょっとぶすっとしながら、アシュレイは言葉を続けた。
「どうだった……その……道具の買い手は……」
「それ! ちょっと聞いて下さいアシュレイさん!」
「あ、ああ」
アシュレイはそう聞いた瞬間にマイアはパッと顔を輝かせて、アシュレイの両腕を掴んだ。
「とても喜んでいました! 私も嬉しくて……こんな気持ち初めてです」
「そうか……良かったな」
「あとはご飯を食べながらゆっくりお話します」
「ああ……」
アシュレイはパッと手を離してエプロンをして台所に向かったマイアの後ろ姿を少々あっけにとられながら眺めていた。
「お待たせしましたー」
テーブルの上には野菜のサラダとスープとパン、メインはマスタードソースを添えた厚切りのハムステーキ。ささっと作ったそれをマイアはてきぱきとテーブルに並べていく。
「ではいただきましょう、アシュレイさん」
「ああ」
アシュレイはマイアの様子を窺いながら食事に手をつけた。
「で……どんな人間だったんだ。アレを買ったのは」
「それがですねー、小説家さんだったんです」
「小説……?」
「事故で腕を無くされて、でも私の魔道具でまた書く事が出来るって!」
マイアは興奮気味にそこまで一気にまくしたてると、アシュレイをじっと見た。
「私……仕事っていいなって思いました。アシュレイさんが食い扶持探せって言い出さなかったら……こんな気持ち知らなかったかと思って」
「……ん」
「アシュレイさん、ありがとうございます」
マイアはきっかけとなったアシュレイに感謝の言葉を述べた。
「あー、まあ。継続してこそ仕事だからな」
「そうですね。次も何か考えないと」
マイアの眼はこれからの希望に満ちていた。それを見たアシュレイはマイアに悟られぬよう少しだけ微笑みを浮かべた。
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