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 レクスはそれから説明と引き継ぎに忙しくなった。
 まさか王族の立場を離れるなんて、と否定的な人もいれば事件のこともあるからと同情する人もいて反応は半々。
 帰って来てからぐったりとしているレクスに、ランはお茶を淹れてやった。

「引っ越し先も決めないとね」
「ああ……バタバタだ」
「そのバタバタが終わってからでいいんだけどさ、会って欲しい人がいる」
「会う……?」
「うん、ルゥを育てるのに自分の子みたいに可愛がってくれたビィと……うちの家族」

 ビィはいつでも大歓迎してくれるのが目に見えていたが、ランの家族に関してはランも何年も会っていない。
 いきなり子供と伴侶を連れて行ったらどんな顔をするだろうか。

「そうか……それなら俺はランをバルトシークの家につれて行きたい。来てくれるか?」
「もちろん」

 ランはそうレクスと約束をして、こんがらがってしまった糸がようやくまっすぐにほどけた感じがした。

「あ、あともうひとつ……」
「ん?」

 ランはレクスの膝の上に座ると、厚い胸板に頬を寄せた。

「もうすぐ……発情ヒートがくるから……約束したよね」

 見せつけるように白い項をレクスの前にさらけ出す。

「ああ……正真正銘、番になろうな」

 レクスはその首元にキスをする。

「楽しみだね」
「おっほん」

 ランが甘えてレクスに抱きつき、さらにキスをねだろうとするとロランドがわざとらしい咳払いをした。

「お食事のお時間です」
「……はい」

 そう言われて、ランはしぶしぶとレクスから離れた。



「レクス様、今度はこちらにサインを」
「ああ……」

 食事が終わると、レクスはルゥと遊びたいのをぐっと堪えて仕事をしていた。王太子が継ぐべき資産などをアレンの名義にするのに必要なのだから我慢するしかない。

「はい、結構です。それと……」
「なんだ」
「お顔が少々緩みすぎではないかと」

 ロランドにそう指摘されてレクスは口元を覆った。

「お前……仕方ないだろう……ランが可愛くてしかたないんだ」

 連れ戻した直後の冷たい態度が嘘のように、ランが甘えてくれる。レクスはそれが嬉しくて堪らない。

「……良かったですね、レクス様」
「ああ」

 十五歳で王家に引き取られ、義務にがんじがらめになっていたレクスも、ランが王城を去って荒れていた時もすっとロランドは見守ってきた。

「もう大丈夫だ、ロランド……ずっと心配かけたな」
「いえ」
「お前も自分のことをちょっとは構えよ」
「……そうですね」

 実の両親よりも近くで見てきた主の幸せをひしひしと感じて、ロランドも思わず微笑んだ。
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