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それからロランドはレクスの部屋に行ってなにやら長いこと話し込んでいた。
時折、声は聞こえるが内容までは聞こえない。
「ねー、パパはぁ?」
「パパは今ロランドさんとお話してるからね」
「えー! パパとあそぶぅ」
最近は食後の一時をレクスとおもちゃで遊んだり、絵本を読んだりしていたルゥがぐずりはじめた。
「うーん、もうちょっと待ってねぇ」
ランはルゥを抱っこしてゆらゆらと揺すぶりながらレクスの部屋の様子を窺っていると、ガチャリとドアが開いてレクスが出て来た。
「ラン」
レクスはランと視線が合うと、真っ直ぐに側に来てランの肩に手を回した。
「苦労かける。ごめん」
「苦労なんて……そんな風に思ったりしないよ。ただオレも奥さんらしいことしたいだけ」
「ん……ありがとう」
レクスはぎゅっと後ろからランを抱きしめた。
「駄目だな、俺は……。ランのことになるとどうも視野が狭くて」
背中越しにレクスの戸惑いが伝わってきて、ランは愛おしくて堪らなくなる。
「ふふふ、それだけ大事にしてくれてるんだって思ってる」
「ああ」
溢れてくる静かな喜びをじっと噛みしめながら二人で抱き合っていると、腕の中のルゥが身をよじった。
「ルゥもぉ」
「ああ。おいでルゥ」
レクスはルゥを抱き上げると、めいいっぱい高く持ちあげる。
「たかーい」
「よかったねぇ、ルゥ」
ランは楽しげなルゥの顔を見つめながら、レクスの腰に手を回して顔を埋めた。
「ラン……」
「ルゥが眠ったら……レクスのところ行っていい?」
ランがそう聞くと、レクスの動きが一瞬止まる。
「あ、ああ」
レクスはそう答えると、わざとらしい咳払いをした。
「とりあえず、王族が出席する大きな催しからはじめましょう、ということになりました。徐々に慣れていっていただければ」
翌日、レクスが公務に出た後。ロランドはランにそう切り出した。
「はい、わかりました」
「もうすぐ建国記念の祝賀パレードがあります。それにご一家揃って参加していただきます」
「一家……ってルゥもですか」
「そうです。この間のパーティが王族・貴族に対してのお披露目なら、今回は国民に対してのお披露目になりますね」
「……緊張する」
ランがそう呟くと、ロランドはくすりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。横にレクス様がおりますし、私も側に控えて居ます。馬車に乗って街を回るだけですので」
それだけ聞くと、うわべだけの会話を繰り返さなければならないパーティよりも気楽に思える。
「分かりました」
「では、諸々の手配をすすめますね。ランさ……ラン様」
「……いきなりどうしたんです?」
「いや、妃殿下として振る舞おうとしている方に『ランさん』はないだろうと思いまして」
「あ、ああ」
「申し訳ありません」
ランはロランドにランさんと呼ばれるのは好きだったのにな、と思いながらも彼の意見を尊重しようと思った。
「あー! ……妃殿下かぁ」
責務は全うしようと覚悟を決めた今でも、その呼び方はくすぐったい。
「レクスがただの一般人ならよかったのに」
それならルゥと三人、親子水入らずで暮らしていけるのになと思わなくも無い。
それでも、レクスが王族だからと言って側を離れる気はランにはさらさら無かった。
時折、声は聞こえるが内容までは聞こえない。
「ねー、パパはぁ?」
「パパは今ロランドさんとお話してるからね」
「えー! パパとあそぶぅ」
最近は食後の一時をレクスとおもちゃで遊んだり、絵本を読んだりしていたルゥがぐずりはじめた。
「うーん、もうちょっと待ってねぇ」
ランはルゥを抱っこしてゆらゆらと揺すぶりながらレクスの部屋の様子を窺っていると、ガチャリとドアが開いてレクスが出て来た。
「ラン」
レクスはランと視線が合うと、真っ直ぐに側に来てランの肩に手を回した。
「苦労かける。ごめん」
「苦労なんて……そんな風に思ったりしないよ。ただオレも奥さんらしいことしたいだけ」
「ん……ありがとう」
レクスはぎゅっと後ろからランを抱きしめた。
「駄目だな、俺は……。ランのことになるとどうも視野が狭くて」
背中越しにレクスの戸惑いが伝わってきて、ランは愛おしくて堪らなくなる。
「ふふふ、それだけ大事にしてくれてるんだって思ってる」
「ああ」
溢れてくる静かな喜びをじっと噛みしめながら二人で抱き合っていると、腕の中のルゥが身をよじった。
「ルゥもぉ」
「ああ。おいでルゥ」
レクスはルゥを抱き上げると、めいいっぱい高く持ちあげる。
「たかーい」
「よかったねぇ、ルゥ」
ランは楽しげなルゥの顔を見つめながら、レクスの腰に手を回して顔を埋めた。
「ラン……」
「ルゥが眠ったら……レクスのところ行っていい?」
ランがそう聞くと、レクスの動きが一瞬止まる。
「あ、ああ」
レクスはそう答えると、わざとらしい咳払いをした。
「とりあえず、王族が出席する大きな催しからはじめましょう、ということになりました。徐々に慣れていっていただければ」
翌日、レクスが公務に出た後。ロランドはランにそう切り出した。
「はい、わかりました」
「もうすぐ建国記念の祝賀パレードがあります。それにご一家揃って参加していただきます」
「一家……ってルゥもですか」
「そうです。この間のパーティが王族・貴族に対してのお披露目なら、今回は国民に対してのお披露目になりますね」
「……緊張する」
ランがそう呟くと、ロランドはくすりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。横にレクス様がおりますし、私も側に控えて居ます。馬車に乗って街を回るだけですので」
それだけ聞くと、うわべだけの会話を繰り返さなければならないパーティよりも気楽に思える。
「分かりました」
「では、諸々の手配をすすめますね。ランさ……ラン様」
「……いきなりどうしたんです?」
「いや、妃殿下として振る舞おうとしている方に『ランさん』はないだろうと思いまして」
「あ、ああ」
「申し訳ありません」
ランはロランドにランさんと呼ばれるのは好きだったのにな、と思いながらも彼の意見を尊重しようと思った。
「あー! ……妃殿下かぁ」
責務は全うしようと覚悟を決めた今でも、その呼び方はくすぐったい。
「レクスがただの一般人ならよかったのに」
それならルゥと三人、親子水入らずで暮らしていけるのになと思わなくも無い。
それでも、レクスが王族だからと言って側を離れる気はランにはさらさら無かった。
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