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「……レクス?」
思い詰めた表情のレクスを、ランは覗きこんだ。途端にレクスの腕が伸びてきて、ランを抱きしめる。
「ど、どうしたの……?」
「なんでもない……」
そんなレクスの言葉と裏腹に、その手は強くランを抱きしめていた。まるで、ランがどこかに行ってしまうかのように。
「ごめん」
レクスは呟くと、しばらくじっとした後にランを放した。
「……少し頭を冷やしてくる」
そう言い残すと、レクスは自室へと引っ込む。
「なんだったの?」
ランは首を傾げた。そしてそのまま、レクスは夕食の時も出て来なかった。
「なんなんだよ」
勝手に不機嫌になってろ、という気持ちとレクスが心配な気持ちが交互に湧き上がる。
「はぁ……」
ランはどうしたらいいか分からずに、ため息をついた。
その頃、自室でまたレクスが酒を呷っていた。そんな彼にロランドはおずおずと話しかけた。
「ランさんがお困りでしたよ」
「……ああ」
「レクス様、アレン様の戯れ言に惑わされてはいけません」
「戯れ言か……」
ロランドの言葉にレクスはアレンの言葉を思い出していた。
『可哀想に、あの子は産むのが怖いと怯えていた。犯された相手の子供を孕んだ気持ちを考えたことはあるか? 私はせめてランが安心して産み育てることの出来るように少し手を貸したにすぎない』
戯れ言、と片付けるにはその言葉はレクスに重くのしかかっていた。その上、アレクはこうも言ったのだ。
『ランが素直に君のもとに移ったのは、私の指示だ』
そんな馬鹿な、と理性では思う。だとしたら結婚式の後の交わりも、今日の外出の穏やかな時間もアレンの策略ということになってしまう。
『王位継承権一位になったからといって安心するなよ』
あの嘘くさい微笑みをやめてアレンが放った一言がいつまでも頭を離れない。レクスはさらに強い酒を呷った。
「レクス様……」
「ロランド、一人にしてくれ」
「は……」
ロランドが部屋を出て行く。一人になった部屋でレクスはずっと酒を飲み続けていた。
「レクスは?」
翌朝、朝食に起きてきたランはレクスの姿を探した。
「レクス様はまだお休みです。その……昨夜は随分お酒を召していたようで」
「また飲んでんのか!」
ランは呆れた声を出した。別に楽しい酒ならランもそう文句はないのだ。ただ、レクスの酒の飲み方はまるで自分を罰しているようで端で見ている人間が心配になるようなものだった。
「まったく……」
ランは朝食を取ると立ち上がり、厨房に向かった。そして目当てのものを作ると、ノックもなしにレクスの部屋に飛び込んだ。
「うわっ、酒くさっ!」
どんよりと籠もった空気。ランは思わずそう叫ぶと、窓を大きく開けた。
「……んん、なんだ。ランか……」
「おはよう! 朝だよ」
「静かにしてくれ……」
二日酔いに頭が痛むのか、レクスは顔をしかめると布団の中に潜り込んだ。
「はい、これ飲んで」
「何これ……」
「ラン様特製の二日酔い用ドリンク。これ飲めば一発だから」
仕事柄酒を飲むことも多かったビィの為によく作っていた効果はお墨付きの一杯である。
「え……臭……酸っぱ……」
「いいから一気に飲む!」
ランは無理矢理にそれをレクスに飲ませた。
「……何に悩んでるか知らんけど、オレはもうどっかいったりしない。逃げたりなんかしないから」
「ラン……」
「お互い子供だったんだ。でも今はルゥがいるだろ……?」
「ああ、そうだな」
労るようにレクスの肩に置かれたランの手。その手をそっとレクスは握り返した。
思い詰めた表情のレクスを、ランは覗きこんだ。途端にレクスの腕が伸びてきて、ランを抱きしめる。
「ど、どうしたの……?」
「なんでもない……」
そんなレクスの言葉と裏腹に、その手は強くランを抱きしめていた。まるで、ランがどこかに行ってしまうかのように。
「ごめん」
レクスは呟くと、しばらくじっとした後にランを放した。
「……少し頭を冷やしてくる」
そう言い残すと、レクスは自室へと引っ込む。
「なんだったの?」
ランは首を傾げた。そしてそのまま、レクスは夕食の時も出て来なかった。
「なんなんだよ」
勝手に不機嫌になってろ、という気持ちとレクスが心配な気持ちが交互に湧き上がる。
「はぁ……」
ランはどうしたらいいか分からずに、ため息をついた。
その頃、自室でまたレクスが酒を呷っていた。そんな彼にロランドはおずおずと話しかけた。
「ランさんがお困りでしたよ」
「……ああ」
「レクス様、アレン様の戯れ言に惑わされてはいけません」
「戯れ言か……」
ロランドの言葉にレクスはアレンの言葉を思い出していた。
『可哀想に、あの子は産むのが怖いと怯えていた。犯された相手の子供を孕んだ気持ちを考えたことはあるか? 私はせめてランが安心して産み育てることの出来るように少し手を貸したにすぎない』
戯れ言、と片付けるにはその言葉はレクスに重くのしかかっていた。その上、アレクはこうも言ったのだ。
『ランが素直に君のもとに移ったのは、私の指示だ』
そんな馬鹿な、と理性では思う。だとしたら結婚式の後の交わりも、今日の外出の穏やかな時間もアレンの策略ということになってしまう。
『王位継承権一位になったからといって安心するなよ』
あの嘘くさい微笑みをやめてアレンが放った一言がいつまでも頭を離れない。レクスはさらに強い酒を呷った。
「レクス様……」
「ロランド、一人にしてくれ」
「は……」
ロランドが部屋を出て行く。一人になった部屋でレクスはずっと酒を飲み続けていた。
「レクスは?」
翌朝、朝食に起きてきたランはレクスの姿を探した。
「レクス様はまだお休みです。その……昨夜は随分お酒を召していたようで」
「また飲んでんのか!」
ランは呆れた声を出した。別に楽しい酒ならランもそう文句はないのだ。ただ、レクスの酒の飲み方はまるで自分を罰しているようで端で見ている人間が心配になるようなものだった。
「まったく……」
ランは朝食を取ると立ち上がり、厨房に向かった。そして目当てのものを作ると、ノックもなしにレクスの部屋に飛び込んだ。
「うわっ、酒くさっ!」
どんよりと籠もった空気。ランは思わずそう叫ぶと、窓を大きく開けた。
「……んん、なんだ。ランか……」
「おはよう! 朝だよ」
「静かにしてくれ……」
二日酔いに頭が痛むのか、レクスは顔をしかめると布団の中に潜り込んだ。
「はい、これ飲んで」
「何これ……」
「ラン様特製の二日酔い用ドリンク。これ飲めば一発だから」
仕事柄酒を飲むことも多かったビィの為によく作っていた効果はお墨付きの一杯である。
「え……臭……酸っぱ……」
「いいから一気に飲む!」
ランは無理矢理にそれをレクスに飲ませた。
「……何に悩んでるか知らんけど、オレはもうどっかいったりしない。逃げたりなんかしないから」
「ラン……」
「お互い子供だったんだ。でも今はルゥがいるだろ……?」
「ああ、そうだな」
労るようにレクスの肩に置かれたランの手。その手をそっとレクスは握り返した。
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