【完結】出来損ないのオメガですが王族アルファに寵愛されてます~二度目の恋は天使と踊る~

高井うしお

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 レクスがランの家を訪れたのは、翌日の仕事が終わった後だった。

「じゃあ、ラン。僕仕事にいくけど……」
「うん、行ってきてビィ」

 ビィは心配そうにしながらも仕事に向かった。

「そこ……座って」
「ああ」

 レクスを居間に通して、とりあえずソファに座らせる。

「昨日の話だけど――……」

 そうランが言いかけた時だった。カタリと音を立てて部屋の扉が開いた。

「ママ?」
「ルゥ……!」
「ママ、いたー」

 にこりと笑みを浮かべて部屋から出てきたのはルゥだった。

「起きちゃったか」

 ランはルゥを抱きあげた。それをレクスは微動だにせず見つめている。

「……その子は」
「うん。オレの子供。ルゥだよ」

 ランはその滑らかな愛しく大事な我が子の頬にほおずりをした。

「ルゥ」

 レクスがルゥの名を呼ぶ。ルゥはくるりと声のする方、レクスをじっと見つめた。

「だー?」
「ルゥ、この人はレクス」
「えーく」
「レクスだよ」

 ランは舌っ足らずなルゥに少し笑った。

「今、お茶をいれるから」
「あ、ああ……」

 ランはルゥを抱っこしたままお湯を沸かしはじめた。その間もレクスの視線が自分に注がれているのを感じる。

「はい、お茶」
「ありがとう」

 ランは食卓の椅子を引っ張ってきてそこに座った。

「……レクス、その」
「かわいい子だ」
「うん」

 ランがソファに目をやると、レクスの視線はルゥを捉えている。

「ランによく似てる。でも……瞳の色は俺にそっくりだ」
「うん……レクスが父親だから」
「……大変だったろう」

 レクスがぽつりと呟いた。

「うん、まあね。でも最近はどんどん手もかからなくなってきてるし……なんとかなってるよ」
「そうか」
「ビィもいるし……本当に助かってる」

 ランがそう言うと、レクスはふっと俯いた。

「生活はどうなんだ」
「かつかつだけど、なんとかなってる。だからオレ、王城に行く気はないよ。ここの生活が気に入ってるんだ」

 ランは素直にそう言った。しかし、それを聞いたレクスは眉をひそめた。

「それは駄目だ」
「……レクスに関係ないだろ」
「関係無い訳ない。俺はあの子の父親だ」
「何もしてないだろ」

 ランが素っ気なくそう言うと、レクスは苛立った様子でテーブルを叩いた。

「お前がっ! 何も……存在すら知らせなかったんじゃないか」
「レクス! ……ルゥがびっくりするだろ」
「すまない」

 ランが非難がましく声をあげると、レクスは手を引っ込めた。

「とにかく、お前と……その子は王城にくるんだ」
「……嫌だよ」
「何故? さっき生活はかつかつだと言っていただろう。俺と一緒にくればそんな苦労はさせない」
「そういうことじゃないんだって、さっき言っただろ!」

 ランは結局こういうことになるのか、と力が抜ける気がした。そんなランにレクスはしばらく黙っていたが、口を開いてこう言った。

「では、子供だけでもこちらで引き取る」
「な……何言ってるんだ」
「ラン、お前の要望はもう聞かない」
「そんな……」

 その気になれば攫うことだって……というビィの言葉が脳裏を過ぎる。

「ルゥと離ればなれになるなんて! 絶対に嫌だ!」
「……ではお前も来い」
「それは決定なの?」
「そうだ」

 ランの言葉に応えたレクスは冷たい目をしていた。

「……ルゥと離れるくらいなら」
「では、決まりだな」

 ランはうとうとしているルゥをぎゅっと守るように抱きしめる。

「月末に使いを寄越す。それまでに身の回りをまとめておけ」
「レクス!」
「……命令だ」
「あんたを……恨むよ」

 ランの怒りに震えた声を聞いても、レクスの顔色が変わることはなかった。
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