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「さあ、お湯が沸いたのでさっさと温まってください」

 お風呂が沸くと、ランとレクスはロランドに浴室に追い立てられた。

「で、なんで一緒に入ってるの?」
「駄目か? 寒いんだが」
「……狭い」

 ランの使っていた湯船に無理矢理レクスが入って来て、お湯がたっぷりと流れていった。

「昔は一緒に入ってたろ」
「レクスは自分のでかさを自覚した方がいいと思う」

 レクスは特に鍛えている風でもないのに胸板も厚く、腕にもしっかりした筋肉がついていて、ランは思わず見とれてしまう。

「まぁ、別にいいけどさ……」

 ランはぎちぎちの湯船の中でため息をついた。



「よくあったまりましたか?」
「はい……すみませんロランドさん」
「まったく、心配しましたよ。小さい子じゃないんですから」
「はしゃぎすぎました」

 ランは風呂から出るとさっそくロランドに謝りにいった。

「気をつけてくださいよ」
「ごめんなさい、レクスは王族だものね」
「そんなの関係ありません。お二人が心配だっただけです」

 ロランドはため息交じりにそう言って、去っていった。その姿を見送って、ランは一足先に出て居間で寛いでいるレクスに話しかけた。

「……ねぇレクス」
「なんだ?」
「ロランドさんっていい人だね」
「ああ」

 ランは、レクスがロランドには心を開いている訳をなんとなく理解した。

「……ん」

 その時、突然ランのこめかみのあたりがチクンと痛んだ。

「どうした?」
「ちょっと眩暈がした。頭痛いかも……」
「風邪ひいたのか」
「多分違う……最近時々頭痛がするんだ」
「そうか……早めに寝た方がいいかもな」

 レクスは心配そうにランの肩を掴んで顔を覗きこんでいる。

「うん、そうするよ」
「王城に帰ったら医者を呼ぼう」
「それは大袈裟だよ」

 ランはレクスを安心させようとにこりと微笑んだ。

「ほらもうなんともないし」
「そうか……」

 レクスは少し納得のいかない顔で、ランの肩から手を放した。

「じ、じゃあオレ、ロランドさんの手伝いしてくる」
「ああ」

 ランはじんわりと肩に残る、レクスの手の温かさを感じながら逃げるように台所に駆けていった。

「ロランドさん。何か手伝います」
「おや、ゆっくりしていていいんですよ」
「いやいや、悪いんで!」
「じゃあ、このマメのさやを向いてください」
「わかりました」

 ランは料理をしているロランドの後ろで豆をむきはじめた。ロランドは肉のパイを作っているらしい。

「ロランドさん、料理までできるんだもん、すごいな」
「これも趣味のようなものです」
「オレは煮るか焼くかしかできないや」

 それもスラムで生きる為になんとか身につけたものだった。

「こつは基本に忠実にすることですよ」
「へー……今度教えて貰えます?」
「いいですよ」

 ランはロランドと会話しながらふと思う。彼とは自然にやりとりできるのに、レクスの前だとどうしても時々ぎくしゃくしてしまうと。

「オレはレクスの『友人』なのに……」
「何かいいました? ランさん」
「いや! その美味しそうだなって!」

 そんなこともありながら、二泊三日のレクスとの余暇はすぎて行った。
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