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 居間の暖炉が赤々と燃えている。その前に、夕食を終えたレクスとランはクッションを並べて寛いでいた。

「お二人とも、温かいショコラをご用意しました」
「わぁ、ありがとう」

 湯気の立つショコラを持ってロランドが現われた。ランはそのカップをうきうきと受け取る。

「あったかーい」
「この頃寒くなってきたな」
「うん、冬がもうすぐ来るしね」

 ランは窓辺に立って外をじっと見た。

「去年の冬は最悪だったな……うっかり風邪を拗らせて死にそうになった。ビィが看病してくれなかったらどうなっていたか」
「なんだって?」
「スラムの冬は厳しいんだ。……ビィたち大丈夫かな」

 ランの表情がふっと曇る。

「無事に年越しの祭りを過ごせるといいんだけど」
「あちらには少し援助をしよう」
「レ、レクス……?」
「ランが世話になったと年越しの資金と着替えと毛布をロランドに差し入れさせるよ」

 ランは少し驚いてレクスを見た。

「でも、本当にいいの?」
「施しは王族としては推奨される行為だ。気にするな」
「そっか……」

 ランはショコラのカップを両手に持って残りを啜った。

「……オレ、ここの給金が貯まったら店でも出そうかな」
「何の店だ?」
「それはわかんないけど。ビィやダンを雇って……みんなツテやきっかけが無いだけなんだ」

 ランの中でおぼろげながら未来の地図が描かれようとしていた。レクスはくるくると忙しいランの表情を見つめながら言った。

「そうか、その時は俺も手伝うよ」
「レクスは王族なのに?」
「王族でも、だ」
「そっか、ありがとう」

 ランは気が大きくなって大それたことを言ってしまった気がして、少し耳を赤らめた。

「じゃ、オレはそろそろ寝るね」
「まだ早くないか?」
「移動で疲れちゃったみたい! じゃあ!」

 恥ずかしくなったランはそそくさと寝室にひきあげることにした。

「あんまりレクスに甘えてばっかじゃ駄目だって」

 ベッドに飛び込んだランは頭から布団を被った。

「でも店はいいな。なんの店だか見当つかないけど」

 ランはレクスの側にずっといられるとは思って居なかった。レクスが伴侶を見つけたらランの居場所はなくなる。
 ランはその時に拠り所となる場所が欲しいと思った。

「レクスの伴侶……」

 そう呟くとじわっと胸に広がる微かな痛み。オメガでもない中途半端な自分にはいずれレクスの側を離れなければならない時がきっとくる。

「あぁ、暗くなる。寝よう」

 ランは枕を抱き寄せるとギュッと目を瞑った。


 一方、居間に残ったレクスは暖炉の火を見つめながら、ロランドに命じた。

「ロランド」
「はい、なんでしょうレクス様」
「酒を出してくれ」
「畏まりました」
「……少し飲みたい気分なんだ」
「さようですか」

 レクスはロランドから酒の入ったグラスを受け取り、ぐっとそれを飲み干した。強い酒精がレクスの喉を焼く。

「俺を残酷だと思うか? ロランド」
「私はレクス様のご命令に沿うまでです」
「……そうだな。お前はそういう奴だ」

 レクスはもう一杯グラスに酒を注ぐと今度は舐めるようにゆっくりと飲み始めた。
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