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「ああ、やっちゃたなぁ」

 その日を終えて、ランは布団の中で悶えていた。レクスの立場も顧みないで、口を滑らしたことにまだもやもやしている。

「……面白がってお見合い見たいだなんていわなきゃよかった」

 ランはあまりにデリカシーがなかったと反省した。

「眠れない……」

 ランはもう何度目かわからない寝返りを打った。

「散歩でもしてくるか」

 扉をそっと開けて、ランは部屋を出た。そして忍び足で中庭に出る。中庭には白い薔薇が月光を受けて揺れている。

「綺麗」

 ランはぼんやりとその花を見ていた。

「やっぱ甘えてちゃだめだよね」

 一日、レクスと一緒に居てよく分かった。ここはランの居場所ではない。ランは明日になったら城下に仕事を探しに行こうと決意した。そうすると少し気分がすっきりする。

「よっし、寝よ!」

 ランはほっぺたをパシンと叩いて部屋に戻った。



「え、今日は俺についていかない?」
「うん。オレ、城下まで行ってくる」
「なにをしに?」
「仕事を探しに」

 翌朝、レクスにそう告げると彼は首を振った。

「仕事は見つからなかったんじゃ?」
「でももっと探せばあるかもしれないし。ここにずっと居るわけにもいかないし」
「……そうか。でもちゃんと戻ってこい」

 レクスの顔が少し曇ったような気がしたのはランの思い違いだろうか。ランはそれから城下を行き来して仕事を探しに行くようになった。

「すまんね。力仕事だから」
「オレ、できます。ベータですし」
「は、そんな小柄でオメガに決まっているだろう」
「違います」

 何軒もそう言って断られた。一年前と状況は変わらない。力仕事じゃない仕事は縁故のないランにはもっとハードルが高かった。

「お前、オメガだろう。だったらもっとふさわしい仕事があるんじゃないか」
「……ベータです」

 オメガにふさわしい仕事。それはどこかに嫁にいくか妾になるか、あるいは身を売るかだった。ランはそれだけは御免こうむりたかった。自分はオメガでさえないのだ。

「今日はどうだった、ラン」
「……仕事、みつからなかった」
「なあ、ラン。あんまりうろうろされると心配だ」
「子供じゃないんだ。大丈夫」

 レクスはランに様子を聞く度にしかめ面になった。ランも毎日しつこく聞かれて成果もないことにイラつく。二人の間の空気は険悪なものになっていた。

「ラン、そうしたら城で仕事をしないか」
「ここで?」
「ああ。ロランドが手伝いが欲しいそうだ」
「……そっか」

 ランも連日、断われ続けてぐったりとしていた。ロランドの仕事の手伝いならレクスの側にも居られる。

「ごめん……迷惑かけて」
「いいんだ。友達だろ」

 ランは結局レクスに手間をかけさせたことを詫びた。

「何から何まで……俺は……」
「ラン?」

 レクスは突然頭を抱えたランを見て彼に駆け寄った。

「大丈夫。最近頭痛がして」
「ちゃんと眠ってないんじゃ?」
「そうかも。ほっとして気がゆるんだかな」
「もう仕事は決まったんだから、今日からは眠れるな?」
「はは、まあね」

 こうしてランはロランドの仕事の手伝いをして日々をすごすことになった。
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