3 / 82
2話 追憶
しおりを挟む
かつて『大災厄』と呼ばれるものがありました。
疫病が流行り、人々は子を成すことができなくなりました。
人が滅びようという時、大賢者が授けたのはもう一つの性。
世界中の魔力を集めてアルファ、ベータ、オメガというもう一つの性が生まれました。
アルファは弱った人々を助け導く能力を得ました。
ベータは滅びかけた世界を支える為に丈夫な体を得ました。
オメガは減ってしまった人類を再び産み育て増やせる力を得ました。
こうして新しい世界で人々は再び繁栄することができたのです。
「……だってさ!」
「ふーん」
「ふーん、ってレクスは興味ないの?」
ランは今読み上げた本を抱えたまま、寝転んでいるレクスを覗き混んだ。レクスの若草色の目がランを捉える。ランは宝石みたいに綺麗だ、と思った。
「レクスは体が弱いからベータではないかな。ってことはアルファか……オメガ?」
「どうだろうね」
「もし……」
「なあに?」
「レクスがオメガだったらオレ、レクスをお嫁さんにしてあげる」
ランが無邪気にそう言うとレクスはぷいと横を向いた。
「あ、どうしたの?」
「オメガじゃなかったらどうするの……?」
「え、えーと」
「お嫁さんにしてくれないの?」
「そんなことないよ! レクスがなんでも俺は……」
そう言いかけた時、ランの唇に柔らかいものがぶつかってきた。
「むぐっ……あ、ちゅーした!」
「……約束のちゅーだよ。ラン、わかった?」
「うん……」
それは遠い遠い記憶。ランがまだ自分になんの疑いのない頃の記憶。幸せだった過去の……記憶。
***
「……寝てたのか」
ランは毛布代わりにかけていた上着に埋ずもれて目を覚ました。ガタンガタンと汽車の揺れるリズムが再びランをうとうとと眠りに誘う。そんなまどろみの中でランは窓の外を見た。
「もう……見えないな」
とっくに窓の外のずっとずっと後方に故郷の街は消えていた。そこはもうランを苦しめるだけの地になってしまった街だけれども、決して嫌いになった訳ではなかった。ただ、あそこでは息苦しすぎて、もう生きていけない。そう思ったからランは離れることにしたのだ。
「さよなら……」
そうランは呟いてまた目をつぶった。
そもそもの始まりは十三歳での性別検査だった。皆がアルファ、ベータ、オメガと書かれた報告書を見て、顔色を変える中で、ランは困惑するしかなかった。
『判定不能』
――それがランに下された結果だった。
疫病が流行り、人々は子を成すことができなくなりました。
人が滅びようという時、大賢者が授けたのはもう一つの性。
世界中の魔力を集めてアルファ、ベータ、オメガというもう一つの性が生まれました。
アルファは弱った人々を助け導く能力を得ました。
ベータは滅びかけた世界を支える為に丈夫な体を得ました。
オメガは減ってしまった人類を再び産み育て増やせる力を得ました。
こうして新しい世界で人々は再び繁栄することができたのです。
「……だってさ!」
「ふーん」
「ふーん、ってレクスは興味ないの?」
ランは今読み上げた本を抱えたまま、寝転んでいるレクスを覗き混んだ。レクスの若草色の目がランを捉える。ランは宝石みたいに綺麗だ、と思った。
「レクスは体が弱いからベータではないかな。ってことはアルファか……オメガ?」
「どうだろうね」
「もし……」
「なあに?」
「レクスがオメガだったらオレ、レクスをお嫁さんにしてあげる」
ランが無邪気にそう言うとレクスはぷいと横を向いた。
「あ、どうしたの?」
「オメガじゃなかったらどうするの……?」
「え、えーと」
「お嫁さんにしてくれないの?」
「そんなことないよ! レクスがなんでも俺は……」
そう言いかけた時、ランの唇に柔らかいものがぶつかってきた。
「むぐっ……あ、ちゅーした!」
「……約束のちゅーだよ。ラン、わかった?」
「うん……」
それは遠い遠い記憶。ランがまだ自分になんの疑いのない頃の記憶。幸せだった過去の……記憶。
***
「……寝てたのか」
ランは毛布代わりにかけていた上着に埋ずもれて目を覚ました。ガタンガタンと汽車の揺れるリズムが再びランをうとうとと眠りに誘う。そんなまどろみの中でランは窓の外を見た。
「もう……見えないな」
とっくに窓の外のずっとずっと後方に故郷の街は消えていた。そこはもうランを苦しめるだけの地になってしまった街だけれども、決して嫌いになった訳ではなかった。ただ、あそこでは息苦しすぎて、もう生きていけない。そう思ったからランは離れることにしたのだ。
「さよなら……」
そうランは呟いてまた目をつぶった。
そもそもの始まりは十三歳での性別検査だった。皆がアルファ、ベータ、オメガと書かれた報告書を見て、顔色を変える中で、ランは困惑するしかなかった。
『判定不能』
――それがランに下された結果だった。
40
お気に入りに追加
2,240
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる