1 / 82
1話 発情★
しおりを挟む
――なぜ、こうなったのだろう。ランは薄もやのかかったような頭で考えた。
「ハッ……ハッ……」
目の前のレクスは息を荒くして、顔を紅潮させ、あまつさえ口の端からよだれを足らしている。あの誇り高く、高貴な男とは思えない姿で。でもそれはきっと……自分も同じようなんだろう、とランは思った。レクスの白銀の髪がランの顔にかかる。その若草色の瞳はじっとランを熱っぽく見つめている。
「レクス……やめて。手を放して」
「ラン……」
「やめてってば!」
強引に振りほどこうとした手が、ベッドのサイドチェストの上の灯りと水差しをなぎ倒す。ガチャンと派手な音を立ててそれは絨毯の上で砕けた。だが、レクスの視線はランから外れることは無かった。
「んっ……う……」
噛みつくようなキスをレクスにされて、ランは頭の芯が痺れるような感覚を覚える。こんなこと望んでいないのに、でも自分は欲している。この男を……。
「……いやだっ……怖い……」
「なにが?」
レクスが口を開いた。レクスも混乱をしているようである。荒げた息の間から、絞り出された声は、少し震えていた。
「……だって、知らない」
そう、ランは知らない。この体に駆け巡る激しすぎる情動だって、自分では満たしようのない渇望だって、何一つ。だって、ランはずっと成長不良と言われ、ベータともオメガとも判別されないまま生きてきたのだ。
「やめて……しっかりして、レクス」
だから、レクスとは友人として側にいようと、そう思って今まで過ごして来た。なのに……急にランは発情を起こした。最初は眩暈がするな、と思っただけだった。急に心臓がドキドキして、自分になにが起きているのか理解したのは目の前のレクスの変貌を見てからだった。
「レクス、やめ……」
レクスの手が乱暴にランの服を剥いでいく。ランは抵抗にもならない身じろぎをする。
「お前……王族だろ……僕なんか……っ……あっ」
レクスの口づけが胸に落ちる。突起を軽く噛まれ、ランはビクリと魚のように背を反らした。
「ラン……お前が欲しい……ずっと欲しかった」
「何言ってるんだよ!」
逞しいレクスの体にのしかかられて、ランは呼吸も苦しい中叫んだ。
――欲しかった? 出来損ないの自分に何を言ってるんだ!
ランは心の中でそう嘆く。ランだって自分がまともな体だったら、違う形でレクスの側に居たかった。そう、だって……。
「……嫌か?」
レクスはランの抵抗を受けながら、ランに聞く。レクスはレクスで必死に情動に抗っているようだ。ランの黒髪を撫でる手はあくまで優しい。その感触に、ランの青い眼は涙が浮かべる。
「嫌……じゃ……ない……」
嫌では無かった。だって、全身がレクスを求めている。初めての発情に溺れながら、ランはレクスの手を握り返した。
「ラン……」
その言葉を聞いて、レクスはぶるりと身を振るわせるとランの上に覆い被さった――。
「ハッ……ハッ……」
目の前のレクスは息を荒くして、顔を紅潮させ、あまつさえ口の端からよだれを足らしている。あの誇り高く、高貴な男とは思えない姿で。でもそれはきっと……自分も同じようなんだろう、とランは思った。レクスの白銀の髪がランの顔にかかる。その若草色の瞳はじっとランを熱っぽく見つめている。
「レクス……やめて。手を放して」
「ラン……」
「やめてってば!」
強引に振りほどこうとした手が、ベッドのサイドチェストの上の灯りと水差しをなぎ倒す。ガチャンと派手な音を立ててそれは絨毯の上で砕けた。だが、レクスの視線はランから外れることは無かった。
「んっ……う……」
噛みつくようなキスをレクスにされて、ランは頭の芯が痺れるような感覚を覚える。こんなこと望んでいないのに、でも自分は欲している。この男を……。
「……いやだっ……怖い……」
「なにが?」
レクスが口を開いた。レクスも混乱をしているようである。荒げた息の間から、絞り出された声は、少し震えていた。
「……だって、知らない」
そう、ランは知らない。この体に駆け巡る激しすぎる情動だって、自分では満たしようのない渇望だって、何一つ。だって、ランはずっと成長不良と言われ、ベータともオメガとも判別されないまま生きてきたのだ。
「やめて……しっかりして、レクス」
だから、レクスとは友人として側にいようと、そう思って今まで過ごして来た。なのに……急にランは発情を起こした。最初は眩暈がするな、と思っただけだった。急に心臓がドキドキして、自分になにが起きているのか理解したのは目の前のレクスの変貌を見てからだった。
「レクス、やめ……」
レクスの手が乱暴にランの服を剥いでいく。ランは抵抗にもならない身じろぎをする。
「お前……王族だろ……僕なんか……っ……あっ」
レクスの口づけが胸に落ちる。突起を軽く噛まれ、ランはビクリと魚のように背を反らした。
「ラン……お前が欲しい……ずっと欲しかった」
「何言ってるんだよ!」
逞しいレクスの体にのしかかられて、ランは呼吸も苦しい中叫んだ。
――欲しかった? 出来損ないの自分に何を言ってるんだ!
ランは心の中でそう嘆く。ランだって自分がまともな体だったら、違う形でレクスの側に居たかった。そう、だって……。
「……嫌か?」
レクスはランの抵抗を受けながら、ランに聞く。レクスはレクスで必死に情動に抗っているようだ。ランの黒髪を撫でる手はあくまで優しい。その感触に、ランの青い眼は涙が浮かべる。
「嫌……じゃ……ない……」
嫌では無かった。だって、全身がレクスを求めている。初めての発情に溺れながら、ランはレクスの手を握り返した。
「ラン……」
その言葉を聞いて、レクスはぶるりと身を振るわせるとランの上に覆い被さった――。
19
お気に入りに追加
2,217
あなたにおすすめの小説
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…
金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。
そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を!
😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を!
😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を!
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる