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1.誘い
しおりを挟む「得垣村には変わった祭りがあるんだ。ちょうど夏休みだし、泊まりで遊びにこない?」
そんな話を持ちかけてきたのは、大学で初めてできた友達である鬼柳まそらだった。今ではどの友達よりも仲良くしている、親友と呼んで差し支えない相手だ。
重めさらさらマッシュショートがやけに似合っている鬼柳は、見目の爽やかさと当たりの柔らかさで男女問わず人気の男だった。角度によっては少し赤みを帯びて見える不思議な色彩の瞳が、今は僕を映して綺麗に微笑んでいる。
相手に勘違いさせる顔だぞ、それ。
無意識に愛想を振りまく鬼柳に呆れて、僕はこっそりと溜息をついた。
僕──桃瀬聡は、黒い髪に黒い瞳の至って特徴のない容姿をしている。髪を染める金があるなら旅行のために貯めておきたい、鉄道の旅が好きな軽めの鉄道オタクだった。
服装や髪型にこだわりはないものの周囲に不快感を与えないような清潔さだけは心がけているため、一部のキモオタのようなマイナスの目立ち方をしているわけでもない。ダサくもないがオシャレでもない、本当に至極平凡な男として周囲にも認知されていた。人畜無害なオタクであることが一番楽なので、その評価に全く不満はない。人様に迷惑をかける鉄オタについては、許されるなら駆逐したいと常々思っている。
そんな僕と鬼柳が仲良しなのは、趣味が合うからだ。そう、彼も鉄道が好きなのだ。正確に言うと、鬼柳は電車が走っている姿を見ることが好きで、僕は鉄道を使った旅行が好きだという違いはある。けれど、鉄道という共通の話題があったおかげで、こうして友達という関係を築くことができていた。
「桃瀬、うちの近くの鉄道は使ったことないでしょ?」
得垣村は彼の生まれ故郷で、去年も夏休みに里帰りしていたのを覚えている。その時におおまかな場所は聞いていたが、確かに利用したことのない路線の近くだったはず。
「気になる。けど、変わった祭りってどんなのなんだ?」
「大体はどこにでもある夏祭りなんだけど、打ち上げるものが花火じゃないんだ」
「花火じゃない?」
「うん。そこが変わってるところ。でも、桃瀬に直に見てほしいから内緒にしておくね」
要するに、断られるとは思っていないわけだ。まぁ、魅力的な誘いではあるのは間違いないのだが。
「なんかでも、この誘われ方だとホラー映画の冒頭みたいだな」
変わった祭りがある、なんて、まるで因習村に連れて行かれる出だしのような誘い文句だ。生贄を求める奇祭が行われている閉じられた村で、決死の脱出劇が始まる──みたいな。
僕の言葉に、鬼柳はにっこり、と文字が浮かびそうな完璧な笑顔で答えた。
「まさか、そんなことあるわけないよ」
彼の作られた笑顔に少しの疑問を抱きつつ、逡巡したのち、僕は了承の意を伝えた。
◆
当日、向かう道行きはとても楽しいものだった。
初めての路線、見たことのない電車。自然豊かな景色の中で食べる駅弁も美味しい。鉄道のことや着いた先での行動予定など、僕たちは飽きることなく喋り続けていた。
鉄道を乗り継いでの宿泊旅行を友達と実行するのは実はこれが初めてで、わかりやすくはしゃいでいたのだ。僕は。
雲行きが怪しくなったのは、無人の駅に降りて、一日に一本しかないバスに乗ってからだ。バスはなんと、午後一時発の便のみだった。道理でめちゃくちゃ早朝に出発したわけだ、と納得していた僕の耳に、やけにトーンの落ちた声が届く。
「桃瀬、ひとつだけお願いがあるんだ」
「改まってどうした?」
神妙な顔をした鬼柳が、視線を合わせないまま口を開いた。
「村で何を言われても、何を聞いても、必ず話を合わせほしいんだ」
「は? なんだそれ」
「小さな村だから、祭りの儀式やしきたりにうるさくて」
儀式、しきたり。急に、因習村ホラーによくある単語が出てきた。いやでも、一般的な祭りでも普通に使うし、と滲む危うさから一旦意識を逸らす。
「それなら、僕は参加しないほうがよかったんじゃないのか?」
「いや、余所者を嫌がるとかそういうんじゃないんだ。寧ろ、桃瀬のことはすごく歓迎してくれると思う」
「……ならいいけど」
どうにも煮えきらないやり取りに、むくむくと不審感が募っていく。だが、今から帰るという選択肢を選ぶことは難しい。なにせ、一日に一本のみのバスによって、そこそこの距離を運ばれてしまった後なので。
こちらの不安が伝わったのだろう。鬼柳が宥めるように頬に触れてきた。
「大丈夫だよ。ホラー映画みたいに、命の危険があるわけじゃないから」
安心させようと、気を遣って軽口を叩いてくれているのはわかる。けれど、だからこういうことを軽率にするなよ、とも思う。こうやって勘違い女や男を増やしていくわけだ、こいつは。
そういうとこだぞ、の意味を込めて僕は鬼柳の頬を軽く抓った。
「痛いよ、桃瀬」
「自業自得だ、馬鹿」
「不安にさせてごめんね」
そうじゃない、とは思ったものの、そちらはそちらであながち間違いでもなかったため、軽く頷くに留めておく。
しかし、必ず話を合わせること、か。一体、何を言われるのだろう。
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