異世界ドラゴン通商

具体的な幽霊 

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57 王国との契約

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 宿で早めの夕食を取り、ベッドに入る。
 自分で思っていたよりも疲れてたようで、いつもよりかなり早く寝たのにもかかわらず、翌日の朝まで一度も目覚めずに熟睡した。
 翌日の昼、ザリアード、アリシア、ヴァヴィリア(今日は休んでいいと言ったけれど、『敵地に行く友人を無視し
て遊べるほど薄情じゃないの』と言われた)と共に王宮へ行く。徒歩で行くつもりだったけれど、宿に馬車が迎えに来てくれた。
 王宮の入り口で馬車を降りると、白いシャツと黒いジャケットを完璧に着こなした使用人に案内されて、昨日の謁見室とは違う部屋へ案内される。
 その部屋の中央には巨大な長方形のテーブルがあり、国王と、厳めしい服装をした数名の中年男性が着席していた。私たちが来ると、国王以外の全員が起立し、こちらに対し深々と頭を下げた。

「フィッカ ファー フィリァ アオ コマ アッラ レイオ ヘァ エル ガファ ランズ オッカー セム ハファ サミオ サムニンガナ」

「わざわざお越しいただきありがとうございます。ここにいるのは、契約書の策定を執り行った我が国の頭脳の中枢です」

 国王の隣にいる、昨日の男よりもかなり歳を重ねているに見える白髪の男が、落ち着いた重厚な声音で国王の言葉を翻訳した。

「それでは早速、契約書の内容を確認していただきたく思います」

 翻訳者の男の次に国王の近くにいた男がドゥイマウス語でそう言い、私たちのほうまで歩いてきて、巻かれて紐で結ばれた上質紙を私に手渡してくる。紐を解き、巻かれた紙を伸ばすと、<取引基本契約書 グルンヴィオスキピタサムニングァ>という見出しの下に、イスティアーンス語とドゥイマウス語両方の文字で箇条書きの文章が記されていた。
 ここまで格調高い契約書を見たのは久々だった。中央の国の有力貴族との取引でも、ここまでちゃんとした契約書は巻いていない。
 契約内容自体も、私が昨日提案した内容を過不足なくまとめられており、解釈の余地が生じる曖昧な表現や、文章を飾るためだけにある何の具体性もない表現はほとんどなかった。とはいえ、いくつか気になる点や、追加してほしい契約内容があったので、その点は遠慮なく意見をし、文言の加筆修正を行った。
 原案が優秀だったこともあり、日が暮れる前に契約書の内容が固まり、清書された二部の契約書に私と国王が署名し、契約を締結することができた。

「エグ ヴォナ アオ ゴット サムバンド ヴィオ フィグ ハルディスト レンギ(あなた方との良好な関係が末永く続いていくことを願っております)」

 交渉締結の最後に握手をした際、国王は私の手を力強く握ってそう言った。

「エグ オスカ サイント ノイマ ロング スジャルフスタエオイス オグ ヴェルメグナー(セントノイマの末永い独立と繁栄を願います)」

 私はそう答え、今日の責務を達するために庭園へ向かう。
 国王とセントノイマの頭脳たちは、衛兵に護衛された状態で、私たちの後方から夕陽に照らされたドラゴンが庭園に降臨するのを見ていた。誰もが目を見開き、声すら出ない様子だった。
 正直、ドラゴンの加護を喧伝することが、諸外国からの侵略に対してどれだけの抑止力になるかは未知数だが、彼らの反応を見る限りでは、大いに期待できるだろう。
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