57 / 60
57 王国との契約
しおりを挟む
宿で早めの夕食を取り、ベッドに入る。
自分で思っていたよりも疲れてたようで、いつもよりかなり早く寝たのにもかかわらず、翌日の朝まで一度も目覚めずに熟睡した。
翌日の昼、ザリアード、アリシア、ヴァヴィリア(今日は休んでいいと言ったけれど、『敵地に行く友人を無視し
て遊べるほど薄情じゃないの』と言われた)と共に王宮へ行く。徒歩で行くつもりだったけれど、宿に馬車が迎えに来てくれた。
王宮の入り口で馬車を降りると、白いシャツと黒いジャケットを完璧に着こなした使用人に案内されて、昨日の謁見室とは違う部屋へ案内される。
その部屋の中央には巨大な長方形のテーブルがあり、国王と、厳めしい服装をした数名の中年男性が着席していた。私たちが来ると、国王以外の全員が起立し、こちらに対し深々と頭を下げた。
「フィッカ ファー フィリァ アオ コマ アッラ レイオ ヘァ エル ガファ ランズ オッカー セム ハファ サミオ サムニンガナ」
「わざわざお越しいただきありがとうございます。ここにいるのは、契約書の策定を執り行った我が国の頭脳の中枢です」
国王の隣にいる、昨日の男よりもかなり歳を重ねているに見える白髪の男が、落ち着いた重厚な声音で国王の言葉を翻訳した。
「それでは早速、契約書の内容を確認していただきたく思います」
翻訳者の男の次に国王の近くにいた男がドゥイマウス語でそう言い、私たちのほうまで歩いてきて、巻かれて紐で結ばれた上質紙を私に手渡してくる。紐を解き、巻かれた紙を伸ばすと、<取引基本契約書 グルンヴィオスキピタサムニングァ>という見出しの下に、イスティアーンス語とドゥイマウス語両方の文字で箇条書きの文章が記されていた。
ここまで格調高い契約書を見たのは久々だった。中央の国の有力貴族との取引でも、ここまでちゃんとした契約書は巻いていない。
契約内容自体も、私が昨日提案した内容を過不足なくまとめられており、解釈の余地が生じる曖昧な表現や、文章を飾るためだけにある何の具体性もない表現はほとんどなかった。とはいえ、いくつか気になる点や、追加してほしい契約内容があったので、その点は遠慮なく意見をし、文言の加筆修正を行った。
原案が優秀だったこともあり、日が暮れる前に契約書の内容が固まり、清書された二部の契約書に私と国王が署名し、契約を締結することができた。
「エグ ヴォナ アオ ゴット サムバンド ヴィオ フィグ ハルディスト レンギ(あなた方との良好な関係が末永く続いていくことを願っております)」
交渉締結の最後に握手をした際、国王は私の手を力強く握ってそう言った。
「エグ オスカ サイント ノイマ ロング スジャルフスタエオイス オグ ヴェルメグナー(セントノイマの末永い独立と繁栄を願います)」
私はそう答え、今日の責務を達するために庭園へ向かう。
国王とセントノイマの頭脳たちは、衛兵に護衛された状態で、私たちの後方から夕陽に照らされたドラゴンが庭園に降臨するのを見ていた。誰もが目を見開き、声すら出ない様子だった。
正直、ドラゴンの加護を喧伝することが、諸外国からの侵略に対してどれだけの抑止力になるかは未知数だが、彼らの反応を見る限りでは、大いに期待できるだろう。
自分で思っていたよりも疲れてたようで、いつもよりかなり早く寝たのにもかかわらず、翌日の朝まで一度も目覚めずに熟睡した。
翌日の昼、ザリアード、アリシア、ヴァヴィリア(今日は休んでいいと言ったけれど、『敵地に行く友人を無視し
て遊べるほど薄情じゃないの』と言われた)と共に王宮へ行く。徒歩で行くつもりだったけれど、宿に馬車が迎えに来てくれた。
王宮の入り口で馬車を降りると、白いシャツと黒いジャケットを完璧に着こなした使用人に案内されて、昨日の謁見室とは違う部屋へ案内される。
その部屋の中央には巨大な長方形のテーブルがあり、国王と、厳めしい服装をした数名の中年男性が着席していた。私たちが来ると、国王以外の全員が起立し、こちらに対し深々と頭を下げた。
「フィッカ ファー フィリァ アオ コマ アッラ レイオ ヘァ エル ガファ ランズ オッカー セム ハファ サミオ サムニンガナ」
「わざわざお越しいただきありがとうございます。ここにいるのは、契約書の策定を執り行った我が国の頭脳の中枢です」
国王の隣にいる、昨日の男よりもかなり歳を重ねているに見える白髪の男が、落ち着いた重厚な声音で国王の言葉を翻訳した。
「それでは早速、契約書の内容を確認していただきたく思います」
翻訳者の男の次に国王の近くにいた男がドゥイマウス語でそう言い、私たちのほうまで歩いてきて、巻かれて紐で結ばれた上質紙を私に手渡してくる。紐を解き、巻かれた紙を伸ばすと、<取引基本契約書 グルンヴィオスキピタサムニングァ>という見出しの下に、イスティアーンス語とドゥイマウス語両方の文字で箇条書きの文章が記されていた。
ここまで格調高い契約書を見たのは久々だった。中央の国の有力貴族との取引でも、ここまでちゃんとした契約書は巻いていない。
契約内容自体も、私が昨日提案した内容を過不足なくまとめられており、解釈の余地が生じる曖昧な表現や、文章を飾るためだけにある何の具体性もない表現はほとんどなかった。とはいえ、いくつか気になる点や、追加してほしい契約内容があったので、その点は遠慮なく意見をし、文言の加筆修正を行った。
原案が優秀だったこともあり、日が暮れる前に契約書の内容が固まり、清書された二部の契約書に私と国王が署名し、契約を締結することができた。
「エグ ヴォナ アオ ゴット サムバンド ヴィオ フィグ ハルディスト レンギ(あなた方との良好な関係が末永く続いていくことを願っております)」
交渉締結の最後に握手をした際、国王は私の手を力強く握ってそう言った。
「エグ オスカ サイント ノイマ ロング スジャルフスタエオイス オグ ヴェルメグナー(セントノイマの末永い独立と繁栄を願います)」
私はそう答え、今日の責務を達するために庭園へ向かう。
国王とセントノイマの頭脳たちは、衛兵に護衛された状態で、私たちの後方から夕陽に照らされたドラゴンが庭園に降臨するのを見ていた。誰もが目を見開き、声すら出ない様子だった。
正直、ドラゴンの加護を喧伝することが、諸外国からの侵略に対してどれだけの抑止力になるかは未知数だが、彼らの反応を見る限りでは、大いに期待できるだろう。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。


何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる