異世界ドラゴン通商

具体的な幽霊 

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47 セントノイマの王宮へ

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 最低限の説明はしてもらえたので、黙って先のことを考える。
 今日中に開放されることはないということは、謂れのない罪で投獄される心配はなさそうだ。しかし、セントノイマ国王が衛兵に強制連行させてまで尋ねたい質問とは何なのか。思い当たる節はあるが、仮にそれを尋ねられたとしたら、こちらは知らないふりをする他ない。
 大体の今後の予想が付き、長時間拘束される可能性が高いことを覚悟した私は、周りの景色を見て思考を落ち着ける。
 私たちは港から内陸部に向かって歩き続けている。建物の密集度合いが港近辺より低下し、デザイン性の優れた外観の家が増えていく。動きやすい服装の人々(おそらくは船乗りや商人や職人階級)の数が減り、優雅な服装をした人々(おそらくは資本家や役人)をよく見かけるようになる。着替えておいて良かった。国王に会うというのに、ボロボロのシャツでは格好がつかない。
 太陽に真上から照り付けながら歩くこと約一時間、前方に巨大な建物が見えてくる。シンメトリーな構造、無数にある窓、鮮やかな赤の煉瓦屋根が特徴的だ。

「あれが王宮だ」

 と羽根付き兜が言う。
 私の納めた関税の一部が、あの王宮の維持に使われてると考えると複雑な思いになる。国内外に国王の権威を示すため、その居城は豪華絢爛にするのが通例なのはわかるが、見栄のためだけにこれほど巨大で荘厳な建築物を造るなど、金と労力の大いなる無駄だ。
 国が持つ価値は国民の数と質によって決まる。王の住まいがいかに立派であろうと、国民に活力がなければ、その国は脆弱だ。むしろ、贅沢の象徴のような住居は、貧窮極まった国民の憎悪の対象となりやすい。また、国外でのある国の風評は、その国の国民の暮らしぶりによって決まる。誰も王宮の絢爛さがその国の価値を決めるとは思っていない。つまり、王が自分の住処を過度に大きくし、過剰な装飾を施すのは、自己満足に過ぎない。そうでないとすれば浅慮な通例の盲信だが、だとすれば愚かだ。
 商人や資本家が自分で稼いだ金であの建物を建てたのであれば文句はない。個人の趣味嗜好の範疇だ。しかし、国民から徴収した税金を自己満足に使うのには向かっ腹が立つ。税金は国家の維持向上のために使われるべきであり、一部の特権階級の私欲を満たすために使うなど言語道断だ。そんな言語道断な所業が世界各国で散見されるために、いたるところで革命の気運が高まりつつあるのだろう。
 手入れの行き届いた広大で立派な庭園を通り抜け、王宮へと入る。
 王宮内部は外部にも増して装飾過多だった。荘厳な台座ゆえに高価に見える壺や、花瓶のほうが色鮮やかな花、人間の有限なる思考を用いて想像された本物とは似ても似つかないであろう神が描かれた絵画といった調度品を脇目に、きめ細やかな刺繍が施された赤絨毯の上を歩く。
 重厚な扉の前で、羽根付き兜が私たちのほうに振り返った。

「この先の謁見室に、セントノイマ国王ドントロイザ四世があらせられる。担当官の指示に従い、国王からの質問に答えてほしい。王の御前では跪き、許可があるまで顔を上げるな。無礼を働いた場合、力尽くで礼儀を教えることになる」

 羽付き兜は一呼吸置いて、扉を力強く四度叩いた。
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