45 / 60
45 新しい装い
しおりを挟む
本を買い終え、少し早めの昼食を取ってから、裾直しを頼んでおいた服屋に戻る。
店に入ると、若い男が近づいてきた。
「レキム様ですね。お預かりしていた商品の裾直しが完了しております。今お持ちしますので、少々お待ちください」
どうやら男は私の顔を覚えていたらしい。
「こちらで着ていかれますか? 試着室をお使いいただけますが」
三人分の服を持ってきた男がそう尋ねてくる。
ヴァヴィリアを見ると、うんうんと頷いた。
「そうさせていただきます」
久々の盛装のため、着るのに少々まごついた。
試着室から出ると、新しい装いに身を包んだヴァヴィリアが立っていた。流石、着替えるのが早い。赤を基調としたドレスに、皮革のコルセットが見る者に華やかながらも引き締まった印象を与える。
「レキムも着飾ればそれなりにいい男なんだからさ、普段からもう少し服装に気を使ったほうがいいよ」
「私は、着飾らなくてもいい男になりたいと思っているので」
「さいですか」
せっかく皮肉を言われたので、アリシアが着替え終わるまでの間、ヴァヴィリアと舌戦して時間をつぶそうと思ったのだけれど、ヴァヴィリアは早々に話を切り上げた。
仕方なく無言で待っていると、ヴァヴィリアが尋ねてくる。
「何か言うことないの?」
「大変お似合いになっております」
「よろしい」
アリシアが出てくる。薄緑のワンピースを着、白のスカーフを巻いていた。
「似合っていますね」
褒めるにしても、もっとましな言葉を口にしたかった。アリシアの姿を見た瞬間、頭が真っ白になってしまったのだ。平静さを保ったまま自然に褒め言葉を言えたのだから、及第点ではあるけれど。
「そうですか。ありがとうございます。そちらこそ、よくお似合いです」
私の誉め言葉に、アリシアは微笑で応じた。大人な対応だった。
「それはどうも、ありがとうございます」
なんだか私は恥ずかしくなった。感情を顔に出さない訓練をしていて良かった。
前着ていた服と買った本を置くため、一度宿へ戻る。代金はすでに支払っていたので、すぐに店を出る。
歩き出してすぐに、周囲から向けられる視線の変化に気づいた。まあ、理由はわかる。見目麗しい女性が華やかな格好をして歩いていれば、思わず視線で追ってしまうのは男の性であるし、そんな女性と一緒に歩く男に羨望と憤怒の視線を向ける気持ちも理解はできる。
アリシアとヴァヴィリアは、この視線が気にならないのか、二人とも楽しそうに歩いている。
私が他人の視線を気にしすぎなのかもしれない。表情や視線から相手の思考を読むのが商談の鉄則だが、普段の生活で通行人の表情を一々気にしていたら疲れる。優秀な護衛がいるのだから、他人の視線など気にしなければいいのだけれど、無意識に染みついた習慣を変えるのは中々難しいのだ。もう少し歳を取り、頭が鈍ってくれば、自然と気にならなくなると信じたい。
店に入ると、若い男が近づいてきた。
「レキム様ですね。お預かりしていた商品の裾直しが完了しております。今お持ちしますので、少々お待ちください」
どうやら男は私の顔を覚えていたらしい。
「こちらで着ていかれますか? 試着室をお使いいただけますが」
三人分の服を持ってきた男がそう尋ねてくる。
ヴァヴィリアを見ると、うんうんと頷いた。
「そうさせていただきます」
久々の盛装のため、着るのに少々まごついた。
試着室から出ると、新しい装いに身を包んだヴァヴィリアが立っていた。流石、着替えるのが早い。赤を基調としたドレスに、皮革のコルセットが見る者に華やかながらも引き締まった印象を与える。
「レキムも着飾ればそれなりにいい男なんだからさ、普段からもう少し服装に気を使ったほうがいいよ」
「私は、着飾らなくてもいい男になりたいと思っているので」
「さいですか」
せっかく皮肉を言われたので、アリシアが着替え終わるまでの間、ヴァヴィリアと舌戦して時間をつぶそうと思ったのだけれど、ヴァヴィリアは早々に話を切り上げた。
仕方なく無言で待っていると、ヴァヴィリアが尋ねてくる。
「何か言うことないの?」
「大変お似合いになっております」
「よろしい」
アリシアが出てくる。薄緑のワンピースを着、白のスカーフを巻いていた。
「似合っていますね」
褒めるにしても、もっとましな言葉を口にしたかった。アリシアの姿を見た瞬間、頭が真っ白になってしまったのだ。平静さを保ったまま自然に褒め言葉を言えたのだから、及第点ではあるけれど。
「そうですか。ありがとうございます。そちらこそ、よくお似合いです」
私の誉め言葉に、アリシアは微笑で応じた。大人な対応だった。
「それはどうも、ありがとうございます」
なんだか私は恥ずかしくなった。感情を顔に出さない訓練をしていて良かった。
前着ていた服と買った本を置くため、一度宿へ戻る。代金はすでに支払っていたので、すぐに店を出る。
歩き出してすぐに、周囲から向けられる視線の変化に気づいた。まあ、理由はわかる。見目麗しい女性が華やかな格好をして歩いていれば、思わず視線で追ってしまうのは男の性であるし、そんな女性と一緒に歩く男に羨望と憤怒の視線を向ける気持ちも理解はできる。
アリシアとヴァヴィリアは、この視線が気にならないのか、二人とも楽しそうに歩いている。
私が他人の視線を気にしすぎなのかもしれない。表情や視線から相手の思考を読むのが商談の鉄則だが、普段の生活で通行人の表情を一々気にしていたら疲れる。優秀な護衛がいるのだから、他人の視線など気にしなければいいのだけれど、無意識に染みついた習慣を変えるのは中々難しいのだ。もう少し歳を取り、頭が鈍ってくれば、自然と気にならなくなると信じたい。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる